第30話 個人情報削除します詐欺

日本年金機構などの個人情報の流出問題が新聞報道され、世間では個人情報流出に対する不安がこれまで以上に高まっています。

こうしたなか、「あなたの個人情報が漏れている」、「あなたの情報が業者間に流れている」などと虚偽の話をして不安を煽り、公的機関を騙って、個人情報の削除を持ちかける詐欺が急増しています。

被害者の７割弱が70歳以上の高齢者、約８割が女性になっています。

point1 実在する公的機関の名前を使って電話をかけ、信用させる

この詐欺は悪質業者が全国の消費生活センターや国民生活センターなどの公的機関を装い電話をかけてくることから始まります。実在する公的機関の名前を使うことにより、まず高齢者を信用させるのです。そして、「最近不審な電話がかかってきませんか」などと親切そうに尋ねます。高齢者が「そういえば…最近、なぜ私の名前を知っているのだろうと思う不審な電話がかかってくる」と日ごろの不安を口にすると、悪質業者はすかさず「実はあなたの個人情報が漏れているようなのです」と高齢者を驚かせます。

point2 巧みな話術で個人情報の削除を持ちかける

「個人情報が漏れている」という言葉に高齢者が慌てると、悪質業者はすかさず「こちらで削除しましょうか」と漏れている個人情報の削除を持ちかけます。実際は公的機関が「個人情報を削除してあげる」などと言うことは絶対にないのですが、高齢者は悪質業者の言葉に不安を煽られ、冷静に考えることができず、自分の個人情報が漏れているのは嫌なので、削除を頼んでしまいます。

point3 削除を依頼すると、劇場型詐欺はさらに展開していく

いったん削除を依頼してしまうと、ここから第三者を装った人物が複数登場してくる劇場型詐欺はさらに展開していきます。「個人情報を削除します」と言った業者はすぐにまた電話をしてきて、「３社に漏れていました。２社は削除できましたが、Ａ社は簡単に削除できない。あなたの名前を削除するには代理人を立てるしかありません。誰かいますか」と聞きます。１人暮らしの高齢者は代理人と言われても、誰も思い浮かべることができず、どうしたらよいか分かりません。すると業者は、「福祉活動をしているNPO法人の代表が無償で代理人になってくれるので、お願いしてはどうか」と提案してきます。高齢者が了承すると、悪質業者はＡ社に登録されている高齢者の番号なるものを伝え、NPO法人の代表者から電話があったら、この番号を教えるよう指示します。後刻、NPO法人の代表者から電話があり、高齢者は業者に言われたとおり、代表者に登録番号を教えます。

point4 共犯、違法、逮捕といった強い言葉で、被害者を恐怖に陥れお金を騙し取る

しかし翌日になると、今度はＡ社から電話があり、「NPO法人があなたの登録番号を使って高額な福祉用品（例えば「車椅子50台」）を購入した。なぜ自分の番号をほかの人に教えたのか！当局から違法と指摘され、うちの社員が逮捕された。番号を使わせたあなたも共犯だ！保釈金はあなたが払うように！」と、矢継ぎ早にまくしたてられ、怯えてしまいます。実際は登録番号自体、根拠のないものです。ましてやその番号で商品の購入などできるはずもないのですが、番号を教えたのは自分であり「共犯」という言葉に自分が悪かったと思い込んでしまい、定期預金や保険を解約して工面したお金を、業者の指示通りに、宅配便で送ってしまうのです。

劇場型詐欺は業者がグルになって作り話の世界に被害者を引きずり込み、冷静な判断ができない状態にさせ、お金を騙し取っていくものですが、パターンはいろいろです。

この事例では、その後ヘルパーさんが、掃除中に伝票を発見したことから詐欺に遭ったことが発覚しますが、悪質業者は逃げ足が速く、お金を支払ってしまった後では、解決は大変難しくなります。

高齢者の場合、被害に遭っても誰にも相談できず、被害発覚が遅くなってしまうことが多くなっています。高齢者の被害を防ぐには周囲の見守りが大切です。家族はもちろん、地域コミュニティが協力し、不審なことがあった場合は、できるだけ早く地元の消費生活センターに相談しましょう。お金を支払ってしまった場合は、大至急警察に相談してください。

公的機関から「個人情報を削除してあげる」という電話がかかってきたら詐欺ですので、絶対に相手にせず、すぐに電話を切ってしまいましょう。