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著名人・有識者が語る ~インタビュー~

心揺さぶるモノを集めて46年 「集める」が「働く」エネルギー

おもちゃコレクター 北原 照久

おもちゃコレクターとして世界的に知られ、小さなブリキのおもちゃから現代アート作品まで自らがときめくモノをコレクションしている、北原照久さん。
モノを長く大切にすることにこだわり、好きなモノに囲まれて暮らす。
そのライフスタイルから見える幸せの価値観やお金の哲学、60代になっても「今が一番楽しい」というその人生の歩み方をうかがいました。

北原 照久
(きたはら・てるひさ)

1948年、東京生まれ。青山学院大学在学中にスキー留学したオーストリアで、「モノを長く大切にする文化」に触れ、収集家の道へ。25歳の時、ブリキのおもちゃに魅せられ、現在では世界的なコレクターとして知られている。86年に横浜・山手に「ブリキのおもちゃ博物館」を開館。テレビ東京「開運!なんでも鑑定団」に鑑定士としてレギュラー出演しているほか、コレクターとしてテレビ、ラジオの番組や講演会、トークショーで活躍。「珠玉の日本語・辞世の句」(PHP研究所)など著書は71冊にものぼる。株式会社トーイズ代表取締役、株式会社トイズプランニング代表取締役、横浜ブリキのおもちゃ博物館館長。

異文化で触れたモノを長く使い続ける喜び

大量生産、大量消費の時代。モノは流行の波に乗って、次から次へと新しく生まれ変わり、私たち日本人も、とかく新しいものに飛びつきがちです。なのになぜ、世界が認めるコレクター・北原照久さんの目は、「消費しては捨てられるモノ」たちに向けられてきたのでしょうか─。

人気テレビ番組で、レトロな品々の鑑定士としての北原さんを知り、興味を持った人も多いことでしょう。インタビューでも、その親しみのある語り口とコレクションへの熱い想いは、周囲をもワクワクとさせるオーラに満ちていました。

今66歳の北原さんは、まさに団塊の世代。大学に入学したものの時代は学生運動の真っただ中で、授業もない。仕方なく「スキーの勉強に」とオーストリアのインスブルックに留学したことが、北原さんの価値観に大きな影響を与えました。

「ホームステイ先で“おばあちゃんの代から使っている銅鍋”をとても大切にしていてね。なんでも美味しくなる“魔法の鍋”だって。日本が大量生産・大量消費へと突き進んだ高度経済成長のさなか、むこうではモノを長く使い続けることが自慢だったんですよ。モノと人との濃密な関係や、当時の日本の使い捨て文化とはまったく異なる暮らしに触れて、僕も好きなモノ、こだわったモノに囲まれて生活したいな、と思うようになったんです」。

20歳で帰国後、北原さんのコレクション第1号となったのが、粗大ゴミとして捨てられていた八角形の古い柱時計でした。家に持ち帰って修理すると、まだ動く。自分で古いモノに命を吹き込んだことに感動を覚え、そこから今日につながるコレクションが始まりました。

「近所にいわゆる“生活骨董”を扱う『古典屋』という骨董品店があってね、時計や真空管ラジオ、レコードなんかをご主人が丁寧に説明してくれるの。古い時代のモノを手にして、作り手や持っていた人たちの人となりや暮らしを想像するのは面白かった。とくに日本製品はおもちゃ一つとってみても、本当に精密で出来が素晴らしい。それから骨董の魅力に惹かれてもう46年間、ひたすら集めっぱなしなわけですよ」。

ブリキのおもちゃで知られる北原さんですが、実は最初のコレクションは生活骨董からスタートし、さらに、レコード、雑誌、漫画本、映画や広告のポスター、自動車のカタログなどに広がりました。コレクションには、時代ごとに消費され、誰もが過去に目にしたり手にしたりしたことがある懐かしいものも少なくありません。

「僕のコレクションからは、『時代が見える』。戦前からの20世紀の庶民の生活を知ることができる価値あるコレクションです。本や雑誌も、表紙を見れば日本の近代画家の系譜ができる。江戸川乱歩作品の表紙だけでも展覧会ができるほどです」。

コレクション公開は与えられた使命

自身を「熱しやすく、冷めにくい」と評する北原さんですが、ブリキのおもちゃの魅力に目覚めたのは25歳の時。ブリキやソフトビニール、超合金のおもちゃなど、当時は大量に出回ったものでも、現代になって価値が高騰しているものが数多くあります。

「当時おもちゃ屋で数百円で買えたモノが、今じゃ世界のオークション雑誌で『5万ドルから』なんていう値がついて、売られていたりするんですよ。分かっていれば、あの時代に買っておけばよかったと皆さん思いますよね」と北原さんは笑います。

しかし北原さんのコレクションは、そもそも「将来高値で売れそう」という考えで選んだものではありません。また、コレクター同士で、物々交換したことはあっても、売ったことはないそうです。北原さんのコレクションはすべて自分自身が見て、手にとって、ワクワクして、「自分の琴線に触れたモノを欲しいから手に入れただけ」。ただ、本当に好きで集めた“宝物”なのです。

収入は全部コレクションに費やしていたため貯金はほぼゼロ。しかし約30年前、北原さんは37歳で、「集め続けたコレクションを展示する博物館を作りたい」と1,500万円の借金をして横浜・山手に『ブリキのおもちゃ博物館』をオープンします。その後も、全国各地や海外でもコレクションを公開。「20世紀の日本の生活習慣やものづくりの文化を伝え、次の世代に残していく」ということが、神様から与えられたミッションだと感じているからだそうです。

収集するものは古い品々だけとも限りません。北原コレクションの中には、21世紀の現代作家の作品も数多く含まれています。気に入った作家は無名のころから積極的に購入してコレクションに加え、世間に発表しているほか、まだ完成品が見られない作り始めから、制作費を払い、作品を創作してもらうこともあるそうです。これも、商売ではなく、ただただ、自身のコレクションのためで、これまでも現代アートの山下信一さんや武藤政彦さん、荒木博志さんなど新鋭現代作家の才能発掘にも、北原さんは情熱を注いできました。

北原さんを形作ったもの 人生の転機は高校時代に

「うちの実家は東京の京橋でスポーツ用品店に喫茶店を併設した商売をやっていました。両親は、店が繁盛すれば嬉しそう、売れないと元気がない。スキー用具中心でしたから、冬が一番の稼ぎ時。特に12月が商売のピークですよ。クリスマスは景気が良く、親は忙しいけど嬉しそうだった。その姿を見ると、子どももやっぱり嬉しいわけですよ」と北原さんは振り返ります。

その幼少時代の思い出から、「ブリキのおもちゃ博物館」には、一年中クリスマスのお店「クリスマストイズ」という別館が併設されています。やはりクリスマスに通年のニーズはなく、決して収益を上げている店とは言えません。しかし、北原さんの「楽しく、好きなことを仕事にする」という思いを象徴するのが、まさにそのクリスマスの店なのでしょう。

成長期には、不良のレッテルを貼られ、義務教育であるはずの中学校で、登校拒否から退学に至ったという苦い少年時代を経験した北原さんでしたが、高校時代に優等生へと変身します。

「中学を退学になっても、母親は『お前はタバコを吸わないところがいい。人生やり直しはできないけど、出直しはいつだってできる』と良いところを見つけ、励ましてくれました。なんとか進学した高校では、今度は恩師が60点のテストを『北原、やればできるじゃないか!』と褒めてくれた。人は褒められたり、認められたりすると頑張れるんですよ。2人の言葉で生まれ変わった私は、高校卒業時には総代を務めるまでになり、青山学院大学にも合格しました」。

高校時代、そんな「言葉の持つ力」を確信した北原さんは、それからの人生で辛いことがあっても、とにかくプラス思考の言葉を口にするように努めています。「身近な例だと、出張続きでくたくたになっている時には、『子どもの頃あんなに乗りたかった飛行機にたくさん乗れるようになれて幸せじゃないか』とつぶやくのです」。多くの著書や自身のフェイスブックを通じ、前向きで「力になる言葉」を発信することをライフワークにしている北原さん。決してネガティブな発想・発言はしない姿勢から元気をもらい、ポジティブになれる読者も多いことでしょう。

自分のため、そして将来の世代のために、一生懸命働く

北原さんはコレクションを生業として、まさに「好きなことを仕事に」を実現してきた人です。とはいえ、コレクションを売買して生計を立てているのではありません。

博物館経営、オリジナルグッズ販売、テレビ・ラジオ出演のほか、年150本もの講演会をこなし、これまで71冊の著書を執筆するなど、非常に多忙に「稼ぐ」努力をしています。

「好きなモノたちに囲まれた生活をしているおかげで、お金のある無しに関わらず心は豊かですよ。お金は使うために貯めるもの。コレクションを買う手段としてお金が必要なので、一生懸命働いてお金を稼がなければなりません。僕をお金持ちだと言う人がいるけど、66歳にもなって、これだけ働いている人間はいないって自信を持って言えますよ」。

そんな北原さんは、お金についての考え方として、渋沢栄一の著書「論語と算盤」や、二宮尊徳の言葉「道徳なき経済は罪であり、経済なき道徳は寝言である」を挙げています。理想や道徳を置き去りにしてお金を稼ぐことを目的としてしまっては意味がない一方で、どんなに理想を掲げても、そろばん勘定が合わなければ成立しない。つまりは、バランス感覚が大事なのだと言います。

「海外の有名コレクターも実業のビジネスをしっかりと経営した上で、コレクションに惜しみなくお金を使いますからね。一生懸命働いて、好きなことをするための『言い訳をしなくてもいい環境』を作っているんですよ。好きなことだけやって他人に迷惑をかける“ガキっぽい”ことはしたくないけど、欲しいものを手に入れようと、ドキドキワクワクする“少年っぽい”生き方は好きなんです」。

また、北原さんは、コレクター仲間である世界的企業の経営者や、ポール・マッカートニー、ミック・ジャガー、デミ・ムーアなど著名人との幅広い交流も知られています。

「コレクションが増えるに伴って、いろいろな人たちとの交流が生まれて、自分の世界も広がっていくんですよ。子どもが自慢のおもちゃを見せ合って、遊んでいるみたいな感覚ですかね。普通に考えたら会えそうにない人が、僕にコレクターとして会いたいと言って来てくれるなんて、本当に夢みたいだよね」と無邪気に笑います。

現在、北原さんのコレクションは、横浜の「ブリキのおもちゃ博物館」をはじめ全国6カ所で常設展示されていますが、先日、新しい倉庫にコレクションを引越しさせたところ、なんと4トントラックに109台分もあったそうです。

「いつかコレクション全部を展示できる博物館をつくりたいんです。もし、建ててくれるという人がいたら、私は喜んで全コレクションを寄贈したいと思っていますよ」。

増え続けるコレクションを次の世代にどんな形で残していくか…にこやかに語る中にも、文化を伝えていくという北原さんの強い使命感が感じられました。

本インタビューは、金融広報中央委員会発行の広報誌「くらし塾 きんゆう塾」Vol.29 2014年夏号から転載しています。


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