著名人・有識者が語る ~インタビュー~
大事な乳幼児期を取り巻く環境を変えるため、一石を投じられる人になりたい
タレント つるの剛士
22歳で主演した『ウルトラマンダイナ』で人気を集め、『クイズ!ヘキサゴンⅡ』ではバラエティを席巻、ユニット“羞恥心”でも大きな成功を収めるなど、常に第一線で活躍してきた、つるの剛士さん。
5人の子育てをするパパとしても知られていますが、今は大学で学びを深め、新たな挑戦を始めているといいます。
つるの剛士
(つるの・たけし)
1975年福岡県生まれ。97年『ウルトラマンダイナ』のアスカ隊員役を演じブレイク。2008年、『クイズ!ヘキサゴンⅡ』から派生したユニット“羞恥心”のリーダーとして一躍、時の人に。09年にカバーアルバム『つるのうた』をリリースするなど、精力的に音楽活動を続ける一方、将棋、釣り、バイクなど趣味も多彩。幼稚園教諭二種免許、保育士資格を取得。
家事・育児の大変さはやってみて初めて実感できる
マルチなタレント活動で知られる、つるの剛士さんは、“イクメン”という言葉が市民権を得る前から、育児に積極的に取り組んできました。
なかでも有名なのが2010年の「育休宣言」。
育休を取得する男性はまだ少数派だったこともあり、大きな話題となりました。
「ちょうど妻が4人目を授かったときでした。
僕、それまでは全然家事・育児をしていなくて、『ヘキサゴン』や『羞恥心』の活動もあって忙しくて、家には寝に帰るだけ。
藤沢に引っ越したタイミングだったんですが、地域とのつながりも全然つくれないし、妻とのいざこざは絶えないしと、家庭不和状態。
『このままじゃ本当にやばいな』と思っていたので、一念発起、休むことを決断したんです」。
事務所に話しても当然反対されるだろうと思ったつるのさんは、「ベスト・ファーザー賞」の受賞式会場でいきなり育休を宣言。
関係者を慌てさせつつ、2カ月の育休を取ることができました。
「最初のうちは、お弁当を作ったり、ゴミ出ししたり、正直、『なんだ、楽じゃん』って思っていました。
でも2週間ぐらいたったら、『やばい、もう仕事に戻りたい』と思うようになって。
家事って同じことの繰り返しで、やって当たり前だから誰からも評価されないし感謝もされないんです。
息抜きの外食だって簡単には行けないし、黙々とこなすしかない。
『わあ。これ辛いわ』と思ったんです。
ある日、子どもを塾に迎えに行ったとき、知り合いのママたちがいたので、その日あったことをバンバン愚痴ったら、みんなが『わかる、わかる』『つるパパ、よくやっているよ』と言ってくれた。
それがもう本当にうれしくて。
ああ、ママたちはみんな辛いなか、我慢しながら頑張っているんだなって思いましたね」。
家庭での学びは会社でもきっと役に立つ
やがて世間で“イクメン”がもてはやされるようになると、早々に育休を取ったつるのさんは、その代表のような存在として扱われるように。
ただ本人は「イクメンになりたかったわけじゃない。妻と一緒に子育てをしただけ」と、イクメンという言葉の一人歩きにもやもやした気分だったといいます。
そんなころ5人目を授かり、「よし、今回はきっちり『イクメン』をやってやろう」と決心。
「ねじり鉢巻きにメモ帳持って、自分にマニフェストを課して、イクメンに真っ向から取り組んだんです。
まず、『家のことは全部僕がやるから、ママは赤ちゃんだけ見ていて』と宣言。
朝から晩まで家事に追われる日々は、案の定、あっという間に1日が終わり、目標をつくってもなかなか達成できないし、家族以外とおしゃべりしたくなるし、お弁当を作ったら誰かにほめてほしくなる。
何が大変なのか、家族に何をしてほしいのか、どうしてイライラしちゃうのか。
思ったことをそのつどメモ帳に書き留めて、1カ月後、全部ブログに書いてアップしたんです。
そうしたら500万回も見られて、『男の人でも、ここまでわかってくれるんだ』とママたちから共感の嵐。
衝撃的でしたね。改めて、男性が育休を取ることの大切さを伝えていかなくては、と思ったし、もっと育休を取得する人が増えてほしいと願うようになりました。
僕、育児休業という言葉はおかしいと思っていて、個人的には“家庭訓練”、ママに家事・育児のスキルを鍛えてもらう時間だと思っています。
初めて知ることが多いから、本当に勉強になります。
もちろん、組織の中で働いている方の育休取得は大変だとは思います。
僕は芸能人だから取れたんだろうと、よく言われますけど、家庭での学びは今までにない視点を持てるようになるので、会社に戻ったときに必ず役に立つはず。
決して損にはならないと思います」。
育休を取るメリットは、ほかにもあります。
それは、1~2カ月、家事・育児の大変さをきっちり経験したパパは、確実にママの理解者になれるということ。
「仕事から帰ってくると、ママがその日あったことを話してくれるんですが、大変さがわかっていなかったときは、正直、右から左に聞き流していました。
でも、今はちゃんと理解できるので、『大変だったね。ありがとう』と労(いたわ)り、『この日俺が子どもたちを見るから温泉にでも行ってきたら』と言えるようになりました。
今は、育休中ほど家事はできていないけれど、大変さを理解して声かけできるだけでも、ママの気持ちはずいぶん楽になっていると思います。
以前は『これはパパに言っても、どうせわからないから』と話してくれなかったこともちゃんと話してくれるので、会話が増えた。
いいことだらけだと思います」。
子どもが小さいときからお金を稼ぐことの大変さを伝える
子ども5人と夫婦の7人家族のつるの一家。
家計をどんなふうに回しているのか、ということも気になります。
「僕は趣味が多くて、すぐにお金を使ってしまうので、家計はすべて妻に任せています。
銀行員だった親父が実は借金を抱えていたことが、亡くなってからわかったこともあり、お金はちゃんとしなければと若いころから思っていて、結婚前に2人で保険にも入りました。
子どもたちそれぞれの学資保険にも加入していて、月々積み立てています。
これは子どもたちには内緒で、将来、お金について相談されたら、『これ、パパたちからのプレゼント』と言って渡そうと思っています」。
では、お子さんたちのお金の教育については、どんなことに気を付けているのでしょう。
「小さいときにやっていたのは、子どもたち一人ずつに貯金箱をつくり、僕が仕事から帰ってきたら、その日、ママのお手伝いを頑張った子の貯金箱にお金を入れてあげる、というシステムですね。
月末にみんなでお小遣い会議をすると、お手伝いした子のお小遣い残高は増えている。
それは、お金を稼ぐとはどういうことか、を理解するのに有効だったかなと思います。
ほかには、大前提としてパパとママに感謝をしてから使うんだよ、ということも言ってきました。
稼いでくれる人がいるからこそ使えるお金があるんだということを理解すれば、ありがたみがわかるかなと。
うちは、子どもたちに18歳になったら家を出て独立するように言っています。
いつまでも親の脛(すね)をかじっていてはだめですからね。
そうしたら、あるとき、子どもたちが住宅情報誌を見て真剣に部屋を探していたので、びっくりしました。
ちょっと強く言い過ぎたかなって、今は反省しています(笑)」。
幼児教育の大切さを知り、専門性を身に付ける必要性を実感
子育てに積極的に取り組んできたつるのさんは、その経験を仕事にも生かし、多くの子ども関係の番組に携わってきました。
そして2020年、新しい挑戦として、小田原短期大学に入学し、幼児教育を学んだのです。
「今後も子育て関係の仕事は増えていくだろうし、『子どもが自然の中で過ごせる“こども園”のような施設をつくりたい』という夢もあったので、改めて専門的なことを学ぼうと思ったんです。
久しぶりの勉強は、楽しかったですよ。
通信教育ですが、定期的に登校日があって、キャンパスライフもエンジョイできました。
電車に乗ってキャンパスへ行き、主婦や社会人などいろいろな立場の人たち(9割が女性!)と一緒に学校でお弁当を食べたり勉強したり。
新鮮でした。
1カ月間の教育実習にも行きました。
朝から晩まで、個性溢れる子どもたちと向き合い、この子たちの未来に少しでもいい影響を与えられたら、という思いで取り組んだ、責任も重いけれど充実した毎日でした。
ただ、日誌書きだけは大変だった!
その日あったことをすべて、事細かに書かなくちゃいけないので夜中までかかっちゃうんです。
ようやく書き上げたと思ったら、翌日はまた8時に出勤。
それが毎日続くんです。
土日は休みなので、初めて僕は“花金”の意味を知りました(笑)。
でも、教え子やそのママたちは、今でも街で会うと『つるの先生!』って声をかけてくれるし、地域とのつながりもできたと実感できて、得るところの多い時間でしたね」。
幼児教育をみっちり学び、幼稚園教諭二種免許を取得し、保育士試験にも合格したつるのさん。
夢だった“こども園”を開園するのかと思いきや、なんとこの春、再びキャンパスに通い、心理士の資格取得も視野に勉強することを決めたといいます。
「乳幼児の期間は、人間性を構築するのにとても大事な時期で、保育に携わる保育士や先生方は、社会的にとても価値のある仕事をされています。
にもかかわらず、そこがあまり認知されていないと感じたんです。
彼らの地位向上に取り組まないと、保育に関わる様々な問題が解決しないし、声を上げてくれるママたちも、すぐに次の課題に直面して移っていってしまう。
そういう現状について、きちんと発信できる人が社会に訴え、社会全体で少子化を考えるべきだと思います。
もちろん、それを自分ができるとはまだ言えませんが、何か一石を投じられるような人になりたい。
そのためには、もっと自分の学びを深めなくては、と思ったんです。
結婚や子どもを持つことがデメリットになってはいけない」。
50歳まであと2年という年齢になり、つるのさんは、改めて、自分が専門性を持ち、世の中に訴えかけていく存在になろうと意欲を燃やしているのです。
夢を語るつるのさんの顔は、まさに教育者そのもの。
ゴールは何ですか、と聞くと、
「ゴール?決めてないです。後悔しない人生にしたい。
やりたいことを全部やっていたねと、みんなに思ってもらえる人になりたいし、自分も『やりたいことは全部やった!』と満足して終わりたい。それが今の目標ですね」。
本インタビューは、金融広報中央委員会発行の広報誌「くらし塾 きんゆう塾」vol.64 2023年春号から転載しています。