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企業年金

第1部 企業年金の基礎知識

第1章 企業年金って何でしょう?

1.企業年金の歴史

企業年金は、どのように始まったのでしょうか。企業年金はもともと、「退職金」を分割して受け取るところから始まりました。

(1)退職金

退職金は、企業が社員の労をねぎらう報奨金である、という考え方があります。この考え方は、退職金の始まりとされる江戸時代の「のれんわけ」に遡ります。丁稚奉公の年季があけた丁稚さんへ、営業する権利を分けたり、独立資金を渡すのれんわけには、何よりも「功労・慰労」の意味がありました。

一方、退職金は「賃金」の一部だ、という考え方もあります。この考え方は、物価がどんどん上がった高度成長期、物価上昇に合わせて給料も上げろ!という時代に生まれました。企業の多くは、物価上昇と同じスピードで給料を値上げすることができませんでした。そこで、その分を社員が退職するときに退職金という形で支払うことを考えるようになったのです。そこから、退職金は「賃金の後払い」という意味を持つようになりました。

さらにその後、日本人の平均寿命が延びる中で、退職金は、社員の「老後の生活保障」という意味も持つようになりました。

このように、退職金の捉え方には3つありますが、実際にどのような意味付けにするかは、企業の考え方によって異なります。

(2)企業年金

「賃金の後払い」という意味での退職金は、お金を払う時期を遅くするだけで、退職時にはたくさんの資金が必要です。そのため、企業の中に、退職金を分割して支払う「退職“年金”」という考え方が出てきました。

この退職年金は、単に退職金を分割で支払うということではありません。企業は一度にまとめて支払わないですむので、その分の利息に相当するお金をプラスして支払うことにしました。これが、「企業が社員のために年金を支払うしくみ」である「企業年金」の始まりです。1949(昭和24)年、ある大手百貨店がこのしくみを取り入れました。1952(昭和27)年には、製紙と電機のメーカー2社もスタートさせ、そのころから、世間も注目し始めました。その後平均寿命が急速に延びる中、「老後の生活保障」という社員側のニーズとも合致し、1965(昭和40)年頃から企業年金が普及するようになりました。

(3)国が認めた制度

その後、退職年金は企業の都合や労働者の要望に応えて国が制度として認め、1962(昭和37)年には税制適格退職年金、1966(昭和41)年には厚生年金基金ができました。

これ以前にも、中小企業だけが加入できる中小企業退職金共済制度(1959<昭和34>年)も作られました。この制度は税制適格退職年金や厚生年金基金とは違い、退職金の支払い方法は原則「一時払い」です。しかし、現在では一定の条件を満たした社員の希望によっては「分割払い」として年金のように受け取るしくみもできました。

(4)企業年金の陰り

高度成長期からバブル期には資産の運用成績がよく、少ない掛金で給付のための資金が準備できたので絶大な力を発揮した企業年金でした。しかし、その後、バブル崩壊とともに陰りが見え、資産運用が悪化し、社員に約束した利息分を確保できなくなりました。そして、次第に、本来必要な年金の原資がきちんと準備されない企業がたくさん出てきてしまいました。

(5)新しい企業年金の動き

このままでは社員にも大きな被害が出る、退職金のために企業の経営が傾く、という恐れが現実になってしまうとの判断から、国は2001(平成13)年には、それまでの企業年金を変更することにしました。企業もまた約束どおり給付をするためには掛金を追加する必要があるので、経営の負担軽減などのために企業年金の見直しを進めていきました。

それまでの企業年金のうち、運営基準が緩やかな税制適格退職年金の廃止が決まり、厚生年金基金は健全な運営のために継続基準を厳格にし、財政状況が悪い基金には解散を命じることが可能としました。一方、新しい企業年金制度として、確定拠出年金法と確定給付企業年金法が制定され、2001年、2002年(平成13年、14年)に順次施行されました。

その後、2012(平成24)年に発覚した厚生年金基金の資産運用の失敗による年金資産消失の問題に端を発し、国は厚生年金基金の健全運営の確認について本格的に取り組みました。その結果、厚生年金基金は代行返上や解散等を余儀なくされ、それと同時に新しい企業年金制度への移行も加速しました。また、新しい企業年金も加入者の範囲の拡大等をはじめ、制度の充実が図られて利用しやすいようになっていきました。

図表1-1-1:企業年金の沿革

企業年金の始まりと新しい企業年金の動きを説明しています。詳細は本文のとおりです。

2.企業年金と他の年金

企業年金は会社が社員のために年金を支給するしくみです。この企業年金制度とその他の公的な年金制度などとの関係は、次の図のようになります。

図表1-1-2年金制度の体系(2018<平成30>年3月末現在)

※画面を横にするか、横にスクロールしてご覧ください。

年金制度は、共通の国民年金(基礎年金)を基礎に、厚生年金、企業年金の3階建ての体系となっています。国民年金(基礎年金)の被保険者は6733万人です。そのうち、自営業者である第1号被保険者は1505万人です。第1号被保険者のうち、付加年金に加入している人は72万人、国民年金基金に加入している人は37万人です。サラリーマンや公務員である第2号被保険者は4358万人です。第2号被保険者のうち、民間サラリーマンである厚生年金被保険者は3911万人、さらにこのうち厚生年金基金の加入者は57万人、確定給付企業年金の加入者は901万人、確定拠出年金(企業型)の加入者は648万人です。また、公務員等である第2号被保険者は447万人で、厚生年金のほか退職年金給付があります。第2号被保険者の被扶養配偶者である第3号被保険者は870万人です。なお、以上の各年金のほか、任意加入の個人型確定拠出年金(iDeCo)があります。iDeCoの加入者は合計で85万人です。

資料:
企業年金連合会ホームページ「企業年金制度」を参考に作成。国民年金被保険者数・厚生年金被保険者数は厚生労働省「平成29年度 厚生年金・国民年金事業の概況」、付加年金保険料納付被保険者数は厚生労働省「厚生年金・国民年金事業月報(平成30年3月)」、国民年金基金加入者数は国民年金基金連合会ホームページ、確定拠出年金(企業型・個人型)加入者数は厚生労働省「確定拠出年金の施行状況」、厚生年金基金加入員数・確定給付企業年金加入者数は一般社団法人信託協会・一般社団法人生命保険協会・全国共済農業協同組合連合会「企業年金(確定給付型)の受託概況」

この図にあるように、企業年金は国が管理・運営をする公的な年金にプラスして受けることができる年金です。老後の生活保障のための年金制度には、国の公的年金に加えて、企業が任意で入る企業年金があり、その他、個人が任意で入る保険会社などの民間の個人年金もあります。

3.企業年金の種類

企業年金には現在、次のような種類があります。

  • 確定給付企業年金(規約型/基金型)
  • 確定拠出年金
  • 厚生年金基金
  • 中小企業退職金共済制度・特定退職金共済制度

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