企業年金
第3部 年金を受け取るまでに中途退職や制度変更があった場合
第1章 企業年金を受け取るまでに退職したらどうなるのでしょうか?
1.概要
(1)中途退職した時の企業年金
企業年金は「年金」という名前がついていますが、「年金」を受け取ることができるのは、定年退職者や長期勤続者が中心です。その他の中途退職の場合は、企業年金といえども「一時金」として受け取ることがほとんどです。転職を繰り返すとそのたびにさほど多くない一時金を受け取り、老後になった時に、公的年金の他にはまとまった退職金も企業年金もないという人が増える可能性があります。こうした問題を解決するために、中途退職をした場合でも老後に企業年金が受け取れるようなしくみが徐々に増えてきました。
(2)中途退職した場合の企業年金の取り扱いの変化
かつて、企業年金は個々の企業が運営しており、「持ち運ぶ(ポータビリティ)」という考え方がほとんどありませんでした。唯一の例外は、厚生年金基金の中途退職の場合でした。厚生年金基金には、中途退職の場合に厚生年金基金から脱退一時金を受け取らず、その分の資産を企業年金連合会へ移換するというしくみがありました。
企業年金を「持ち運ぶ」しくみは、2001(平成13)年から始まった国の企業年金改革に伴い徐々に拡充し、現在では、基本的にどの企業年金の間でも持ち運びができるしくみになりました(図表3-1-1)。
ただし、気をつけなければならないのは、法律上は年金資産を持ち運ぶことができるようになっても、実際には会社や基金が企業年金の規約で持ち運びできるルールにしないと持ち運べないということです。
移換先制度 | 参考 | |||||
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確定給付企業年金(DB) | 企業型確定拠出年金(DC) | 個人型確定拠出年金(DC) | 中小企業退職金共済 | 企業年金連合会 | ||
移換前制度 | 確定給付企業年金(DB) | △可能(条件は厳しい) | ○可能(一定の条件あり) | ◎可能 | ▲現実的にはほどんどなし(持ち運び不可ではない) | ◎可能 |
企業型確定拠出年金(DC) | △可能(条件は厳しい) | ◎可能 | ◎可能 | ▲現実的にはほとんどなし(持ち運び不可ではない) | ||
個人型確定拠出年金(DC) | △可能(条件は厳しい) | ◎可能 | ×不可 | |||
中小企業退職金共済 | ▲現実的にはほとんどなし(不可ではない) | ▲現実的にはほとんどなし(不可ではない) | ×不可 | ◎可能 | ||
厚生年金基金 | △可能(条件は厳しい) | ○可能(一定の条件あり) | ◎可能 | ×不可 | ◎可能 |
- (注)
- 当図表では、確定拠出年金をDC(Defined Contribution Plan の略)、確定給付年金をDB(Defined Benefit Planの略)と表記。
(3)企業年金を持ち運ぶかどうかは本人しだい
実際に持ち運ぶかどうかは本人の選択になります。将来の年金として受け取るのが良いのか、退職のつど一時金で受け取るほうが良いのかは、それぞれの場合のメリット・デメリットを考える必要があります。
(4)企業年金を1つにするメリット・デメリット
企業年金を1つにまとめると、年金請求や住所変更などの手続きが1度で済みます。また、1つの企業年金だけでは年金を受け取る権利がなかった場合でも、通算することで老後に年金を受け取ることができる場合もあります。
一方、1つの年金制度に運営や運用を任せることになるので、基金や企業の破綻リスクや運用リスクを分散できなくなるという面もあります。そして、移換する年金資産の計算方法、移換先の企業年金の運用見込み、給付利率によっては、将来受け取る年金額が違ってくる場合も出てきます。
企業年金を1つにまとめるかどうかは、退職する時に一時金で受け取るか、将来、年金として受け取るかを判断するという面もあります。受け取り方の選択方法は第4部を参照してください。