大学生のための 人生とお金の知恵
II. お金の知恵
7. お金を借りる
1) 「お金を借りる」と
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人生を送っていくうえでは、いろいろな「もの」(物やサービス)を買う必要があります。ものを買うときには、お金を払う必要があります。
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ものを買うとき、「お金を貯めてから、買う」というのが通例ですが、「お金を借りて、買う」こともできます。
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「お金を借りて、買う」と、あとで「お金を返す」必要があります
お金を借りる ⇒ 買う ⇒ お金を返す
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「お金」は、一般的に、働いて価値を提供することで得られます。このため、「お金を借りて、買う」ということは、「買った後で、働き、報酬の中から借金を返す」ということを意味します。
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このため、ものを買うために「お金を借りたい」と思ったときには、そのお金を返せるかどうか、よく考えてみる必要があります。
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今後働いて得られる収入を予想します。そこから生活費その他の支出を差し引き、それでも返せるかどうか考えます。
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その際、余裕(安全)をみておく必要があります。予想に比べて収入が少なくなったり、急な出費で支出が増えることもあるためです。
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2) お金を返せないと
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「お金を借りる」ときには、「お金を返せないと、どうなるか」を知っておくべきです。
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自分の自由な意思に基づき、正当な契約によりお金を借りた以上、お金(元本および利子)を返す必要があります。
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返済期限が来ているのにお金を返せないことを、「延滞」といいます。一般に、延滞が2~3か月以上続くと、「個人信用情報機関」脚注16に延滞情報が登録されます。
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その場合、クレジットやローンの利用に支障が出るのが通例です(クレジットカードを作れない、カードの利用を止められる、自動車ローンや住宅ローンを組めない、など)。
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また、延滞すると、延滞金利が発生します。延滞金利は、借りた金利に比べ通常は大幅に高くなります(上限は20%です)。
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住宅ローンの場合、延滞金利は14%前後が多いようです(延滞元金にかかります)。
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日本学生支援機構の奨学金の延滞金利は、現状は3%です。
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借りたお金は返すのが大原則です。しかし、いまある財産や今後の収入を考えてもどうしても返済できそうもない事態に至ってしまったときには、思い詰めた行動(たとえば自殺、犯罪など)に走るのではなく、「自己破産」というしくみがあることを知っておきましょう。
自己破産 -
お金が返せない場合でも、ヤミ金融からお金を借りることは絶対にやめましょう。ヤミ金融は超高金利で(たとえばトイチ=年利365%、トゴ=年利1,825%など)、犯罪です(コラム18参照)。
コラム18ヤミ金融
コラム16金利の上限
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金を貸す業者に対して、金利の規制が行われています。必ず知っておきましょう。
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① 利息制限法
10万円未満のとき・・・・・・・・・・・・・・・・・・・年20%
10万円以上、100万円未満のとき・・・・・年18%
100万円以上のとき・・・・・・・・・・・・・・・・・・年15%-
この金利を超えるときは、超える分の金利は無効(借りた人は払う必要がありません)。この規制に違反した業者は、行政処分の対象になる。
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② 出資法
年20%を超えるとき
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刑事罰の対象になる(5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれらが併科)
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コラム17「72の法則」の活用
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お金を借りるとき、「72の法則」を活用しましょう。
「72の法則」 -
たとえば消費者金融でお金を借りる場合、金利18%が中心です。この場合、72÷18=4ですので、借りたお金は約4年で2倍になることを理解しておきましょう。
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クレジットカードも、1回払い(一括払い)などを除いて金利がかかります。分割払いやリボルビング払い、キャッシング(下記参照)の利用を考える場合には、どの程度の金利がかかるか確認し、「72の法則」にあてはめてみましょう。
3) クレジットカード
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大学生の中には、クレジットカードを既に持っていたり、これから持ちたいと思っている方も多いと思います。
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クレジットカードの使い方は、ショッピング(買い物)とキャッシング(現金の引出し)に分かれます。
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① ショッピング・・・買物をした代金をカード会社に立て替えてもらい、後日、支払うもの。通常、1回払い(一括払い)などには金利はかかりませんが、3回以上の分割払いには金利がかかり、分割回数が多いほど金利は高くなります。「リボルビング払い」(毎月一定額を返済するなどの方式)も、回数が多い分割払いと同程度の金利がかかります。
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② キャッシング・・・クレジットカードを使って現金を引き出すもの。金利はカードの使い方の中で通常は最も高くなります(回数が多い分割払いと同程度以上)。
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カードを使ったショッピングも、キャッシングも、「お金を借りている」(借金している)ことになります。カードを使う前には、「借りたお金を返せるか」と自問しましょう。
4) 消費者金融
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消費者金融は、たとえば「生活費が足りない」「旅行に行きたい」など、さまざまな支出目的に対して、無担保でお金を貸してくれます。小口・短期・緊急の資金ニーズに柔軟に応じるとの特徴をもっています。
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その分、金利は高くなっています。たとえば10万円以上100万円未満を借りるとき、利息制限法の上限金利は18%ですが、多くの会社は上限の18%で貸しています。
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18%という水準は、「72の法則」を使えば、約4年で借りたお金が2倍になる水準であることがわかります。借りたお金を返せるか、よく考えましょう。
コラム18ヤミ金融
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ヤミ金融とは、出資法に違反して、超高金利で貸し付けを行うことです。
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金利は、たとえば「10日で1割(トイチ)」(年利365%)などから、「10日で5割(トゴ)」(年利1,825%)などもあります。
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ヤミ金融を行う業者には、貸金業の登録を受けず「闇」で貸し付けを行う業者だけではなく、貸金業の登録を受けている業者もありますので注意が必要です。登録を受けることで、正規の業者であると利用者を欺くことなどを狙っています。ヤミ金融業者は、多重債務者や自己破産者にも、ダイレクトメールを送ったり電話をかけたりして、融資の勧誘を行います。
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貸金業者が業として年109.5%を超える金利の契約をしたときは、契約そのものが無効になります。そのような金利で貸した場合、重い刑事罰の対象になります(10年以下の懲役もしくは3,000万円以下の罰金、またはこれらが併科)。
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ヤミ金融は、犯罪です。暴力的・脅迫的な取り立てが行われ、周囲の人にまで被害が及ぶケースが少なくありません。決して近づくべきではありません。
5) 住宅ローン
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「お金を借りて、住宅を買う」との行動は、世の中で広くみられます。しかし、「お金を借りて、住宅を買う」ことは、人生を左右し、家計にも大きく影響します。このため、ライフデザインや生活設計に照らして、住宅に関する判断を行う必要があります。判断するためのポイントを紹介します脚注17。
「住宅」の特徴
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人間には、「住む場所」が必要です。
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住宅に住むには、さまざまな方法があります。「所有する」だけではなく、「賃借する」(賃貸住宅を借りる、社宅に住むなど)、「家を所有している人(親など)と同居する」もあります。「所有する」場合でも、自分で「購入する」とは限らず、たとえば「相続する」などもあります。
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住宅は一般に高価です。住宅を「購入する」場合の平均的な価格(全国)は、一戸建て、マンションとも3千万円台から5千万円台です。住宅を「所有する」場合、さまざまな費用(維持管理費、税金など)がかかります。建て替え費用が必要となることもあります。
コラム19「住宅費用」
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住宅費用とは、「住宅(住居)にかかる費用」のことです。すなわち、住宅を「取得する」場合の費用に限りません。「賃借する」(賃貸住宅を借りる)場合には家賃等が住宅費用になります。「親と同居する」場合、税金や修繕費を負担するのであればそれが住宅費用になります。
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このため、住宅費用は、人によって大きく異なるといえます。
「住宅ローン」の特徴
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住宅は高価ですので、住宅を取得するためには住宅ローンを借りるのが一般的です。通常は長期間(たとえば20年、35年など)にわたって返済していくことになります。
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借りたお金には金利がかかりますので、返済する額は借りたお金より大きくなります。たとえば2,000万円を35年間借り、元利均等方式で毎月返済する場合、総返済額は金利2%では2,783万円、金利3%では3,233万円です。金利以外にも費用がかかります(各種手数料、税金、団体信用生命保険料など)。総費用を把握する必要があります。
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住宅は、購入したときに買い手の所有物となります(売主から買主に所有権が移転します)。しかし、住宅ローンを借りている場合、返済が終わるまでは、本当の意味で自分のものになったとはいえません。住宅ローンを借りると、貸し手(銀行など)に対してローンを返す義務を負い、住宅を担保として提供します。ローンを返せない場合には、自ら住宅を売却する、または貸し手が住宅を売却する(担保権を実行する)こととなり、所有権を失います。また、すぐに売れるとは限らず、住宅価格が下落している場合などには住宅を売って返済にあてても借金が残ることはよくあります。
ライフデザイン、ライフプランの下で考える
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「どこに住むか」「誰と住むか」は、人生において非常に重要です。このため、これらはまずライフデザインの一部として考えるべき内容です。
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また、「どこに住むか」「どのように住むか(所有か、賃借かなど)」は、「どこで、どのような仕事をするか」(職業)と一体として考える必要があります。職業はライフデザインの中核です。職業と両立する形で住宅について考える必要があります。
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さらに、住宅(「どこに、誰と、どのように」住むか)は、職業だけではなく、人生におけるさまざまな夢や希望(結婚、出産、子の教育、友人関係、余暇、老親、老後など)と関連します。他の夢や希望とできるだけ整合的になるように、全体構想(ライフデザイン)の下で、住宅について考える必要があります。
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とくに、住宅を「取得する」場合、その住宅に長く住むことを想定するのが通常です脚注18。仕事との関係、今後の家族構成の変化などに考えを巡らせる必要があります。また、住宅は高価ですので、たとえば結婚、教育、老後などの費用との兼ね合い、これらの費用を貯める時期との兼ね合いなどを考える必要があります。
「買う」か、「借りる」か
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若い人にとって、「買う」か「借りる」か、判断する際のポイントは、以下のとおりです。
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① 「借りる」ことと「所有する」こととの間で、どの程度の満足の差を感じるか
「借りる」物件と「買う」物件との間で、どの程度の満足の差を感じるか -
② 「借りる」場合と「買う」場合との「将来の自由度」の差、「将来の安心度」の差に、どの程度の価値を置くか
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③ 「借りる」場合と「買う」場合の費用の差、住宅価格の上昇・下落の影響の違いについて、どのように考えるか
「買う」ときの注意点
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「買う」場合には、国土交通省『土地総合情報システム』を使うなどして、買いたい物件の近隣の不動産取引価格を調べましょう(同システムには実際に取引された価格が掲載されています)。
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また、いざというとき「貸しやすい」「売りやすい」物件をなるべく選ぶようにしましょう(立地など)。
コラム20「買いたい」物件が見つかったら、「貸せる」賃料を調べる
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気に入った物件が見つかり「買いたい」と思ったら、その物件を「貸す」とした場合にどの程度の賃料(家賃)を得ることができそうか、調べてみましょう。
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類似の物件を貸している例や、近隣地域の賃料相場を見れば、だいたいの水準はわかります。
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住宅ローンの返済額や管理費等を考えても納得できる家賃水準で貸せそうなときには、「買う」際の不安が軽減されます。
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貸せる賃料が「安い」と思う場合には、購入予定価格が適当か、類似物件を借りた方がよいのではないか、などをもう一度よく考えてみましょう。
「お金を借りて、買う」ときの注意点
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「お金を借りて、買う」と決めた場合には、できるだけ、以下のように努めましょう。
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「自己資金」を多めに用意する
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「返せる額」を借りる。毎月の返済額を、家計管理上、余裕をもって返せる額とする
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住宅ロ-ンにつき、できるだけ金利負担や総返済額が小さい方式を選ぶ
【自己資金】
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住宅を買う際、貯めておいたお金など(自己資金)を頭金にすれば、住宅ローンの額が小さくなり、安全性が高まります。
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毎月の返済額が小さくなり、収入が減少した場合でも返済できる可能性が高くなる
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返済できず住宅を売却することとなった場合でも、借金が残る可能性が小さくなる
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【借りる金額、毎月返済する金額】
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金融機関から「借りることができる金額」を目一杯借りると、「返せる額」を上回ってしまう可能性があります。「返せる額」の範囲内で借りましょう。
【住宅ローンの選び方】
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同じ金額を借りても、住宅ローンの選び方によって、金利負担、総返済額、月々の返済額などが違ってきます。よく検討したうえで、できれば金利負担や総返済額が小さくなりそうなものを選びましょう。
コラム21住宅ローンの選び方① ~固定金利か、変動金利か
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住宅ローンは、金利によって、2つの方式に大別されます。
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① 固定金利型・・・借りたときの金利が、返済終了まで適用される(固定される)
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② 変動金利型・・・世の中の金利の変動に応じて、借入金利も変動する
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基本的には、「先行き金利が上昇する場合 ⇒ 固定金利型が有利」、「先行き金利が低下する場合 ⇒ 変動金利型が有利」です。
コラム22住宅ローンの選び方② ~元金均等か、元利均等か
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住宅ローンの返済方式は、2つの方式に大別されます。
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① 元金均等返済・・・元金を均等に返済していく
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② 元利均等返済・・・「元金+利息」を毎回均等に返済していく
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元金均等返済は、毎回の返済額について、「元金」の返済の部分を「均等」にし、これに利息の返済の部分を上乗せして、返していくものです。元金の返済(=元金の減少)に伴って、利息の発生は減少していきます。このため、利息の返済の部分は、回を追うごとに減少していきます。つまり、返済額は当初が最も大きく、その後減少していきます。
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元利均等返済は、毎回の返済額を一定(均等)にするものです。その中には、元金の返済部分、利息の返済部分がともに含まれます。元金の返済に伴って利息の発生は減少しますので、返済額に占める利息の割合は当初が最も大きく、回を追うごとに縮小します。
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どちらを選ぶべきでしょうか。同じ金額を同じ金利で借りる場合、総返済額は、元金均等返済の方が小さくなります(元金が早く減るためです)。毎回の返済額は、元利均等返済では一定です。元金均等返済では、当初の返済額が元利均等より大きく、返済が進むにつれ減少していきます。
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このため、基本的に以下のとおりです。
「当初の返済は少し苦しくても、総返済額が小さい方がよい」と考える場合
⇒ 元金均等返済がよい
「総返済額が大きくとも、毎月の返済額が一定額の方がよい」と考える場合
⇒ 元利均等返済がよい
脚注
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お金の貸し手にとっては、借り手の信用(借入や返済)に関する情報を得ることが重要です。自社の情報だけでは不足するため、貸し手が協力して「個人信用情報機関」を作り、個人の借入や返済の情報を登録し、互いに利用しています(登録・利用につき本人の同意を得ています)。個人信用情報機関は現在3機関あり、その会員は銀行、クレジット会社、消費者金融会社などです。3機関はネットワークを通じて情報交流を行っています。このようにして貸し手は借り手の信用状態を確認し、返済能力を超える貸出を行うことを避けようとしています(これは多重債務者の発生を防止することにも役立ちます)。なお、自分の信用情報を知りたいときは、信用情報機関に情報の開示を求めることができます。
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住宅を実際に購入する際には、より具体的な知識が必要になります。「住宅の買い方」(物件の選び方、契約時の留意点、住宅ローンの選び方)といった内容の書物などを読み、購入前に詳しく学ぶ必要があります。
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住宅の購入や売却には、手数料、税金など、かなりのコストがかかります。また、新築の住宅の市場価格は購入後数年で下がることもあります(“新築”分のプレミアム剥落など)。