大学生のための 人生とお金の知恵
I. 人生のデザインとお金
5. 働くこととお金
1) 人生と「働く」こと
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ライフデザインは、「どんな人生を送りたいか」についての自分の構想でした。その中には、さまざまな内容が含まれます(例:結婚、家族、くらし、遊び)。中でも働くこと(職業)は、ライフデザインの中核を占めます。
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人間は、(広い意味において)「働く」ことで「夢」を実現しようとします。また、働く時間は人生の時間の大きな割合を占めます。このため、どのように働くかは、人生の充実感を左右します。
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また、生きて行くにはお金が必要です。通常は、「働くこと」でお金を得ます。社会人として自立するためには、収入を得ることが出発点となります。ライフプランも、経済的な基盤があって初めて成り立ちます。
2) 「働く」ことと世の中、お金
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「働く」ということは、世の中に対して、自分の時間や頭・体などを使って、価値を提供するということです。価値を評価してくれるのは他者(他の人)です。価値に対する評価が、対価(報酬)として、給料や利益などの形で働いた人に返ってきます。
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より多くの人が働き、より多くの価値を提供できるようになると、経済は成長します。経済が成長するということは、世の中全体としてのくらしぶりが良くなるということです。
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「働いてお金を得る」ということは、このように、自分のくらしを良くするだけではなく、世の中全体のくらしぶりを良くすることにも密接に結びついています。
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働いて「どの程度の収入を得られるか」は、基本的には提供できる「価値」に依存します(相手にどの程度満足してもらえるかなど)。一般的には、能力を高め、働いて提供できる価値を高めていくほど、収入は増加していき、より高い収入を得る機会(転職、独立を含む)も広がります脚注6。
3) 働き方と収入
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働き方によっても、収入には大きな違いが出ます。
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たとえば、正規の職員・従業員と非正規の職員・従業員では、以下のような年収の違いがみられます。
(出所)総務省統計局『労働力調査(詳細集計)2022年(令和4年)平均』 |
4) 人生でかかるお金と生涯賃金
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コラム3で、「人生には、大きな支出だけでも億円レベルのお金がかかる」ことを確認しました。どのようなライフプランを描くかにもよりますが、たとえば2億円、3億円といった金額が必要になることも十分に想定しておく必要があります。
コラム3人生には、大きな支出だけでも億円レベルのお金がかかる -
これに対して、生涯賃金はどの程度になるのでしょうか。大雑把にいえば、1〜3億円強の範囲に多くの人が属するようです脚注7。これは、働く期間を仮に40年とすると、年収換算では250〜750万円に相当します。
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このため、多くの人にとっては、収入との兼ね合いを考えて、ライフプランを描いていくことが必要になります。とくに収入が限られる場合は、本来の夢や希望をライフプランに反映するうえで制約が生じ、工夫が必要となります。
5) 大学時代の過ごし方
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大学時代には、ライフデザインを描き、人生で実現したい夢を自覚するとともに、その夢を実現することができるよう、さまざまな能力を養っておくことが望まれます。
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とくに、「将来、どのような仕事をするか」を考え、世の中に対して提供できる価値を高めることができるよう、能力を磨いていくことが大切です。
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大学時代は、自分の自由になる時間が豊富にあります。「時間」という資源を、「能力」という資源に変換できるよう、時間を有効に使いましょう。発揮できる能力を少しずつでも着実に高めていくことが、経済的に自立することに結びつきます。人生の夢や希望を実現するうえでも大切なことです。
コラム4「時間」という資源の使い方
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「限られた資源を、いかに効率的に使うか」は、非常に重要です(このテーマを主に研究する学問が、経済学です)。学生時代の過ごし方や人生のデザインを考えるときにも重要です。
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「資源」には、「お金」や「時間」が含まれます。学生時代には「時間をどのように使うか」が重要な課題になります。能力を大きく伸ばすことができる学生時代に、「時間を有効に使う」ことで、人生の「夢」を実現する可能性を高めることができます。
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「時間を有効に使う」ためには、まず、①時間を「何に配分するか」が重要です。次に、②配分した時間を効果的に使うこと、つまり「集中すること」を心がける必要があります。
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「時間」を使って「お金」を得ることができます。たとえばアルバイトをすれば、時間をお金に換えることができます。しかし、その時間に他のこと(たとえば勉強)はできなくなります。アルバイトをする必要がある場合も、たとえば自分の関心がある分野で働いてみるなど、なるべく今後の人生にとって価値の高い時間の使い方を考えてみましょう。
コラム5人生という「時間」の使い方
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「人生」自体が「時間」です。「時間の使い方」は「人生の生き方」と同じです。ライフデザインは、人生という「時間」を使って、自分の夢(希望)を実現しようとする構想です。
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人生をお金の観点からみると、老後は働いてお金を得ることが困難になるため、若いうちに働いてお金を貯めることになります(その貯蓄の取り崩しや利子・配当を、老後の支出にあてます)。これは、若いころの「時間」の一部を、「仕事」(価値の提供)を通じて「お金」に換え、その「お金」を老後の「時間」の充実(消費など)にあてていると見ることもできます。
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下のイメージ図では、「時間」を使って「仕事」として提供した価値を、「お金」の形で貯めて老後まで保存し、消費にあてています。お金のこのような機能を「価値保存機能」といいます(お金の機能(役割)参照)。
お金の機能(役割) -
もちろん、若いころの「時間」にも、「働いている」時間だけではなく、「余暇」があります。また、「働いている」時間も、人生の夢の実現や充実感と結びついています。
脚注
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価値を提供すれば必ず他者からすぐに評価されるとは限りませんが、価値の提供を続け、価値を高めていくほど、正当に評価される可能性が高まります。
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生涯賃金については、労働政策研究・研修機構の『ユースフル労働統計』などが各種の推計値を公表しています。職種、業種、企業規模、学歴、性別などによる差異が大きくみられます。