大学生のための 人生とお金の知恵
II. お金の知恵
8. 損失に備える
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人生は不確実です。病気、死亡、財産の喪失など、さまざまなリスクがあります。リスクが現実のものとなると、損失が発生します。損失に備えておく必要があります。
1) 貯蓄
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損失に備えるために、貯蓄は効果的な方法です。
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貯蓄は、たとえば「教育資金」「結婚資金」などのように特定の目的のために行うことができます。また、「いざというときのために」など、“さまざまなリスクに備える”目的で行うこともできます。
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“お金に色はない”といわれます。リスクが現実のものとなり損失が発生したとき、「特定の目的のために貯めたお金」を、「損失をカバーするために使う」(流用する)ことも可能です。このため、お金をある程度貯めておくことは、無駄になりません。
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ただし、流用すると、本来の目的に使えなくなり、ライフプランに支障が出ることもあります。最初から“リスクに備える”目的でお金を貯めておくことも大切です。
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2) 貯蓄と保険の違い
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とはいえ、大きな損失をカバーできるだけの貯蓄をするのは大変です。また、貯蓄は少しずつしか増えません。
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これに対して、保険は、損失に備えて保険料を払っていれば、損失を賄うお金がすぐに確保できるという特徴があります。
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貯蓄と保険にはこのような違いがあります。両者をうまく使い分けることが大切です。
コラム23貯蓄と保険を使い分ける~「貯蓄は三角、保険は四角」など
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貯蓄は少しずつしか増えませんので、最初はカバーできる損失の額が限定されます。これに対し、保険は最初から損失を賄う額を確保できます。このため、「貯蓄は三角、保険は四角」といわれます(下にイメージ図)。
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貯蓄には「何にでも使える」利点があります。このため、「貯蓄は万能の保険」ともいわれます。しかし、貯蓄が少ないと損失を十分にカバーできません。一方、保険は損失をカバーするお金がすぐに確保できるため、「発生頻度は低いが、発生した場合の損失が大きい」リスクに向きます。ただし、保険料を払った対象となる損失でなければ(=支払事由に該当しなければ)、保険金は支払われません。
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この特徴の違いを理解して、両者を使い分けることが大切です。たとえば、貯蓄が少ない中で要保障額が大きくなった場合(子どもが生まれたときなど)、保険の必要性が高くなります。その後、貯蓄が増え、要保障額が小さくなっていくと(子どもが成長・独立するなど)、保険の必要性は低下していきます。ただし、要保障額が大きいケース(自動車を運転して歩行者を死亡させたときなど)は貯蓄ではカバーできないため、やはり保険が必要です。
3) 社会保険
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保険には、公的な保険(社会保険)と民間保険があります。
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社会保険には、年金保険(国民年金など)、医療保険、介護保険、労災保険、雇用保険などがあります。これらは政府によって加入が義務づけられるなどの措置がとられ、わが国は“国民皆保険(皆年金、皆医療保険)”とされます。社会保険は、保険料や税金によって運営されています。
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このため、民間保険の利用を検討する際には、社会保険の内容を踏まえる必要があります。
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社会保険によってカバーされる内容(範囲・金額)を知る
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社会保険ではカバーされない内容について、民間保険を利用すべきか検討する
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なお、勤務先の企業が企業保障(企業年金ほか)を設けている場合は、企業保障の内容も踏まえる必要があります脚注19。
4) 民間保険
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必要な保険には入る
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必要以上の保険には入らない
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必要な保険には入っておかないと、いざというときに大変困ります。必要以上の保険に入ると、貴重なお金が無駄になります。
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民間保険に入る前に、以下の点をよく考えましょう。
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自分にとって民間保険でカバーすべき事象は何か
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その事象が発生した場合、カバーすべき金額はいくらか
民間保険でカバーすべき事象
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「事象」とは、たとえば死亡、疾病、交通事故、火災、地震などのことを指します。
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「民間保険でカバーすべき事象」は、社会保険との関係でいえば、社会保険の対象とならない事象(対象となるかどうか不確かな事象を含む)、対象となるものの保障額が十分でない事象です。貯蓄との関係でいえば、損害額が大きいなどの事情により貯蓄ではカバーしきれない事象などです。
民間保険でカバーすべき金額
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「民間保険でカバーすべき金額」は、損失額そのものとは限りません。社会保険や企業保障でカバーされる額があればそれを差し引いた額になります。また、貯蓄によって一部をカバーしようと考える場合は、その分も差引いた額になります。
まとめ
【どのような場合に利用するか】
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「社会保険等ではカバーされない対象や金額についてカバーしたい」と考えており、かつ、その金額を「貯蓄ではなく(貯蓄だけではなく)、保険でカバーしたい」と考えている場合
【どの程度の金額にするか】
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「損失額 -(社会保険等でカバーされる金額 + 貯蓄でカバーする金額)」が目安
【注意】
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自分がカバーしたい対象、金額が、支払の対象となることをよく確認する
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契約概要、注意喚起情報、ご契約のしおり(約款の重要事項の解説)、約款で確認する
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5) 民間保険の基礎知識
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民間保険の代表的なものは、生命保険、損害保険、医療保険です。
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大学生としては、以下の知識と判断ポイントを身につけてください。
生命保険
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生命保険は、死亡、生存など、人の生命に関連するリスクに備える保険です。
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生命保険には、3つの基本的な型があります。
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① 死亡保険・・・・・・・死亡、高度障害状態となった場合に保険金が支払われる
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② 生存保険・・・・・・・特定の時期まで生存した場合に保険金が支払われる
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③ 生死混合保険・・・死亡保険と生存保険を組み合わせたもの
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生命保険には、以下のような商品があります。
【保障に重点をおく保険】
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① 定期保険・・・保険期間を定め、定めた期間内(満期まで)に死亡または高度障害になった場合のみ、保険金を受け取れます。満期保険金はありません。
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② 終身保険・・・保険期間が終身(一生涯)です。死亡したときに保険金を受け取れます。
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③ 定期保険特約付終身保険・・・終身保険に、特約として定期保険を付加した保険です。特約期間中は定期部分が上乗せされ、特約期間終了後は終身部分のみとなります。
【保障と貯蓄を組み合わせた保険】
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養老保険・・・保険期間内(満期まで)に死亡すれば死亡保険金、満期まで生存していれば死亡保険金と同額の満期保険金を受け取れます。生死混合保険です。
【貯蓄性のある保険】
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学資保険・・・満期を18歳などとして保険料を払い、満期に保険金を受け取り学資にあてます。契約者(親など)が満期前に死亡すれば、その後の保険料が免除されます。
【投資性のある保険】
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変額保険・・・運用状況により保険金額等が変動し、そのリスクは契約者が負います。死亡保険金には基本保険金額が保証(最低保証)されます。有期と終身があります。
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どのような商品を選ぶかは、保険に入る目的次第です
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たとえば、死亡に対して遺族の生活費の保障を得たいのであれば死亡保険に加入し、保障に重点を置いたものを選ぶのが適切です。保険金額は、遺族の生活に必要な金額から、社会保険から支払われる金額(たとえば遺族年金)などを差し引いた金額が目安となります。なお、内容面とともにコスト面にも留意しましょう(企業等の団体割引が利用できないか、掛け捨てタイプの保険の検討、保険料がどの程度保険金に回るかの比較検討など)。
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貯蓄性や投資性のある保険は、自分の目的に合っているかをよく確認し、他の金融商品(貯蓄目的、投資目的の金融商品)と比較検討しましょう。
コラム24生命保険が最も必要になるのはいつか?
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人生で生命保険が最も必要になるのはいつでしょうか。
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典型的なケースとして、「結婚して、子どもができたばかりのとき」が挙げられます。このようなときに夫(父親)が死亡するとどうなるでしょうか。妻(母親)は子どもができたばかりで当分は働けません。子どもの今後を考えると要保障額は大きい一方、若い夫婦の貯蓄額は通常僅かです。生命保険に入っていることが最も望まれるケースです。
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その後、子どもが成長し、貯蓄が増えていくと、要保障額は減少していきます。
損害保険
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損害保険は、事故や災害の際の自分や他人の損害を補償するものです。
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事故や災害は多様で、損害保険はさまざまなリスクに対応しています。
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損害保険の代表的な商品には、以下のものがあります。
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① 火災保険・・・火災による建物や家財の損害を補償する保険です。住居と家財に関する住宅保険には、火災による損害の補償を中心とするものから、水災(床上浸水、土砂崩れ等)や盗難による損害なども対象とするものまで、さまざまな内容のものがあります。
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② 地震保険・・・地震、噴火、津波(地震・噴火を原因とするもの)による被害を補償するための保険です(これらの被害は、火災保険では補償されません)。地震保険に加入するためには、住宅火災保険、住宅総合保険などの火災保険に付帯して契約する必要があり、単独では加入できません。保険金額は、火災保険の保険金額の30〜50%の範囲内で自由に定めます。ただし、上限があり、建物は5,000万円、家財は1,000万円となっています。
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③ 傷害保険・・・事故によって身体に傷害を負った場合に保険金が支払われる保険です。
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④ 自動車保険・・・自動車事故に関する損害を補償する保険です。強制保険である自賠責保険と、任意の自動車保険があります(コラム25参照)。
コラム25車やバイクの運転と、自賠責保険、任意の自動車保険 -
⑤ 個人賠償責任保険・・・個人の日常生活などで生じた事故により他人を死傷させたり、他人の物に損害を与えたために損害賠償責任を負い、これによって損害が生じた場合に保険金が支払われる保険です。他の保険(傷害保険、火災保険、自動車保険、学校の団体保険等)の特約として入るケースが多くなっています。たとえば自転車で走行中に歩行者に傷害を負わせた場合なども補償対象になります。なお、自転車での加害事故で賠償額が数千万円に上るケースが相次いでいます。
コラム25車やバイクの運転と、自賠責保険、任意の自動車保険
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すべての自動車(バイクを含む)は、自賠責保険をつけていないと運行できません。自動車損害賠償保障法でそう定められています。このため自賠責保険は“強制保険”といわれます。
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法律がそう定めているのは、自動車による人身事故の被害者の保護を図る目的です。このような目的ですので、自賠責保険は、他人を死傷させた場合の損害賠償(対人賠償)のみを補償します。運転者や搭乗者の死傷、他人の物(自動車、建物など)の損害、自分の自動車の損害は対象になりません。人身事故の被害者への支払にも限度額があり、1名につき最大3,000万円です(死亡の場合)。
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このため、運転者や搭乗者の死傷、他人の物や自分の自動車の損壊に備えるには、任意の自動車保険への加入が必要となります。また、自動車事故による損害賠償額は高額化しています(損害額の認定が3億円を超える事例が相次いでいます)。自賠責保険の最大3,000万円の補償額では不足します。
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任意の自動車保険への加入は必須といわれます。大学生であっても、車を運転する場合は任意の自動車保険への加入を検討しましょう。
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任意の自動車保険は、対人賠償保険(自賠責保険の支払額を超える部分に対して保険金が支払われるもの)、対物賠償保険(他人の自動車、建物など)、車両保険(自分の自動車)、自損事故保険(電柱に衝突して運転者が死傷した場合など)などさまざまな保険を組み合わせたものが中心となっています。どれを組み合わせるかよく考え、保険金を設定しましょう。
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損害保険は、対象物(建物、家財など)の時価または再調達原価脚注20のどちらかを基礎として加入するのが一般的です。損害が発生した場合、保険金額の範囲内で、実際に生じた損失額に応じた保険金が支払われます。
コラム26火災保険の保険金額
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火災保険に入るとき、建物の保険金額は時価、再調達原価のどちらとすべきでしょうか。
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これは、考え方次第です。「保険によって火災前と同等の建物を新たに建てる資金を調達したい」と考える場合は、再調達原価となります。一方、「貯蓄があるので、建物の現在の価格が補償されれば十分」と考える場合には、時価とすることも考えられます。
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このように、要補償額は、その人の考え方に依存します。
医療保険
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わが国は“国民皆保険(皆医療保険)”とされ、医療費の自己負担は1割〜3割に抑えられています。民間の医療保険は、自費で負担しなければならない医療費などの保障を得るために加入するのが通例です。
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民間の医療保険は、病気やけがによる入院や手術などを幅広く保障します。保障の中心は入院日数に応じて支払われる「入院給付金」や所定の手術を受けた場合の「手術給付金」です。「通院給付金」「退院給付金」「診断時一時金」などもあります。
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医療保険の中には、原則として「がん」のみを保障する「がん保険」もあります。通常の医療保険とは異なり「入院給付金」に日数制限がない例が一般的です。
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生命保険に対して医療保険を特約としてつける「医療特約」もあります。たとえば傷害特約、疾病入院特約、災害入院特約、女性疾病入院特約、三大疾病(がん、急性心筋梗塞、脳卒中)保障特約などがあります。
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公的医療保険(健康保険ほか)でカバーされる対象範囲や金額を確認し、貯蓄でカバーする金額も考えながら、何に入るか、いくら入るかを決めましょう。
脚注
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企業保障の内容は企業によってさまざまですが、たとえば企業年金、退職一時金などのほかに、死亡退職金、弔慰金、遺族年金、災害見舞金などを設けている例がみられます。医療費の付加給付のしくみがある企業もあります。
- 20
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再調達原価とは、対象物(建物、家財など)と同等のものを調達する(新たに建てる、購入する)ために必要な金額です。