2018年度 先生のための金融教育セミナー
【高等学校向け】
3.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)
高等学校分科会4
- 進行・コメント:
- 富山県立新湊高等学校 谷内 祥訓 校長
実践発表およびワークショップ(1)
「生徒が作ったお金の本」(3年 商業科)
愛知県立一宮商業高等学校 矢野 公教 教諭
実践発表
本校は、平成28〜29年度に愛知県金融広報委員会の研究校委嘱を受け、金融学習への取り組みの成果を、生徒が「お金の本」としてまとめましたので、本日はその実践事例をご紹介します。
本を作るにあたっては、誰を対象とした内容にするのかを決める必要がありますが、話し合いの結果、「自分たちと同じ高校3年生に向けた本を作りたい」ということになりました。次に本の内容ですが、「お金の使い方が上手になるにはどうすれば良いのか」、「お得とはどういうことなのか」といった問題意識から、「お金を上手に使っている人、例えば社長に話を聞くのが良いだろう」ということになり、同窓会の縁故を頼って地元企業を訪問することにしました。社長へのインタビューや、本に掲載するための写真撮影などもすべて生徒が行いました。このほか、地元の2つのショッピングセンターを取材してセールスポイントや販売戦略等を店長に伺ったり、全国チェーンのハンバーガーショップの許可をいただいたうえで、提供されているセットメニューの価格やボリューム等のデータを詳細に比較・分析したりもしました。
次に生徒が行ったのは、貯蓄に関する世代間の意識調査です。「20〜30代の若者層」、「40〜50代の主婦層」、「60代以上の高齢層」を対象に、学校内や街頭でアンケート調査を行って、貯蓄の有無、年収と年間貯蓄額、収入に占める支出割合の大きいもの等について調査しました。
これらの取材活動は、主に夏休みを利用して生徒が行い、その結果をもとに2学期から、11月の金融教育公開授業での発表に向けて、本作りがスタートしました。記事のまとめ方からデザインの方法に至るまで何一つ分からない状態でしたが、印刷会社の方にいろいろ教えてもらいながら完成に漕ぎ着けました。最終的に本という形に残る成果を残すことができ、生徒にとって大変有意義な体験になったと思います。
ワークショップ
参加者には、「高校生がお金の本を作るとしたら」というテーマで、その本の目的や内容を検討し、グループ毎に発表していただきました。参加者からは、「アルバイトの比較を通じてその意義を考えさせる」、「生活に必要なお金について調べて、親のありがたみや働く意義を考えさせる」などの提案がありました。矢野先生からは、実際に生徒が作った本が配られ、その完成度の高さに参加者から驚きの声が聞かれました。
コメント
谷内祥訓先生より、次のようなコメントがありました。
矢野先生の実践は、生徒が地域に目を向けて意欲的に勉強する大きなきっかけになったと思います。また、実際に作成された本の構成をみると、生徒の学習活動に対する強い意欲や地域の方々からの協力が窺え、実践の成果が十分に表れていました。
金融教育においては、単に授業の中で株式ゲームをして「儲かった、損をした」といった一断面だけでなく、お金の意義や役割、株式に投資する意味合いなどについて生徒にしっかりと教えることが大切です。すなわち、「お金の本」を作るとしても、社会全体におけるお金の流れを俯瞰しつつ、企業が収益をあげて従業員への賃金や株主への配当が支払われる仕組みや、金融機関が預貯金を集めて企業に融資を行う仕組み、経済が活性化して私たちの生活が豊かになる仕組みなどについて、順を追って関連付けながら学ばせる方法として活用する方が、生徒も理解しやすいと思います。また、生徒には、将来に向けて働く意識を持たせるとともに、「限られた資金を適正に管理する」ことの大切さを是非教えてください。
実践発表およびワークショップ(2)
「財務計画の立案〜ビジネスプランを実現するために」(2年 商業科)
兵庫県立小野高等学校 松原 隆志 教諭
実践発表
本校は、平成28〜29年度に兵庫県金融広報委員会の研究校委嘱を受けました。従来から地域と連携して新商品を作るなど、「対話的・主体的・体験的に深い学びに繋げる」活動を続けてきた土台がありましたので、さらに金融の要素を加えた形で、「収支計画を盛り込んだ商品企画」をテーマとした金融教育公開授業に取り組みました。本日はその実践事例についてご紹介します。
金融教育公開授業に向けては、担当クラスの生徒を5つのグループに分けたうえで、商品企画書を練ったり、プレゼンテーション資料を準備したりしながら、約1ヵ月取り組みました。実はもともと、担当する授業の中で、ある大学が主催するコンペティションに生徒を応募させることとし、協賛企業が提示したテーマについてのビジネスプランを考えさせた経緯があります。授業時間の制約もあり、やむなく完成度が低いまま応募するだけで終わってしまったのが心残りだったのですが、折しも研究校の機会を得て、改めて練り直すことができました。
本日ご参考までにお配りした資料は、そのうち1つの商品企画書(「有機・無農薬野菜を使ったフリーズドライカレー」)を若干手直ししたものです。本番の授業では、兵庫県金融広報委員会や金融機関の方々を審査員に招いて、各グループの生徒が提案するビジネスプランに対し、それぞれに割り当てた元手からいくら出資できるかを審査していただきました。
この実践の成果の一つとして、生徒がいろいろ質問してくるようになり、「キャッチボール」の機会が増えたことが挙げられます。また、公表されている上場企業の財務諸表を生徒に提示したところ、読み込んできて売上原価率について質問する生徒もいました。簿記の授業で教えたことが、単に検定試験のためだけでなく、他の科目にも応用できたことは、今回の実践の大きな収穫であったと思います。
ワークショップ
参加者には、「ありえないけど、あったらいいな」と思う商品・サービスについて、収支計画を含めた商品企画書を検討し、グループ毎に発表していただきました。松原先生から、「この実践は楽しく盛り上がることが大事なので、まずは高校生らしい自由な発想で商品を考えさせたうえで、お金のことも意識しつつ、徐々に現実的なものに近づけていくと良い」といったアドバイスがありました。参加者からは、「災害のときに役立つ『空飛ぶ家』」などさまざまなアイデアが出され、大いに盛り上がりました。
コメント
谷内祥訓先生より、次のようなコメントがありました。
松原先生の実践で特に素晴らしい点は、実在する企業の実際の財務諸表を教材として活用しているところです。ただ欲を言えば、収支計画の中に「資金計画」の観点も加えることにより、必要な資金を出資だけで賄えなかった場合の対応を生徒に考えさせることができれば、さらに深みのある学習に繋がったように思います。
商品開発において、源泉となるアイデアが重要なことは言うまでもありませんが、商品化するには「コスト感覚」も必要です。金融教育の視点からいえば、「限りある資金を適正に管理する」ということです。生徒が考えた商品を販売する際、売上高だけをみて終わりということではなく、事前に市場調査を行うとか、協力企業の方と経費について話し合うといったプロセスを踏むことが大事だと思います。
金融教育は、多様化、複雑化した社会を生き抜く力を養う生き方教育だと私は考えています。金融教育を特別な教育だと身構えずに、さまざまな授業の一場面やホームルームなど折に触れて、ちょっと金融に関連付けた話をされてみてもよろしいのではないでしょうか。