2018年度 先生のための金融教育セミナー
【小学校・中学校向け】
3.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)
中学校分科会2
- 進行・コメント:
- 山梨大学大学院総合研究部教育学域 神山 久美 准教授
実践発表およびワークショップ(1)
「生活に必要な金銭の流れを理解し、消費行動を見直そう〜『見えないお金』が見えてくる!〜」(2年 技術・家庭科)
横浜国立大学教育学部附属横浜中学校 池岡 有紀 教諭
実践発表
本日は、標題の中学生用金融教育教材(指導書およびワークシート)を用いて行った授業実践の内容をご紹介します。この教材では、生活の中でどのように金銭が扱われているかを理解すること、キャッシュレス化が進行する中で仕組みを理解することを大きな目標としています。
授業は、対応する各ワークシートを用いて以下のように実践しました。
第1時:
1日の生活の中でどのようなことにお金が使われているのかを生徒に考えさせ、それらが「生活する上で必要なこと」と「娯楽的なこと」に分類できることに気付かせる。起こり得るトラブルを生徒に予想させた後、悪質商法の被害に関する新聞記事を見せるなどして、今後の生活に向けた課題を持たせる。
第2時:
成人するまでにかかるさまざまな費用を生徒に計算させ、生活を営むのにどのくらいのお金が必要かを理解させる。
第3時:
成人したときに購入したいものについて、タブレットを使い、その商品の情報を収集して検討させる。
第4時:
商品の販売・支払方法の特徴や、クレジットカードの仕組みについて理解させる。特にクレジットカードの学習では、日本クレジット協会から無償レンタルを受けたモバイル端末機を用いて具体的な購入場面を模擬体験させる。
第5時:
消費者被害にあわないための対応を考えさせる。
第6時:
環境に配慮した消費行動について考えさせ、「エシカル消費」や「持続可能な開発目標(SDGs)」の概念と取り組みなどについて理解させる。
第7時:
これまでの学習を踏まえ、成人したときに購入したい商品の購入・支払方法や、購入上の留意点などを改めて深く考えさせ、相互に評価させる。
第8時:
ワークシート8の金銭管理に関わるアンケートに回答させ、消費者としての自分の課題を見つけさせる。また、「消費者としての自分にできること・するべきこと」を川柳で表現し、クラスで共有する。
前述のアンケートは、一連の授業を行う前にも生徒に回答させました。授業の前後での回答内容の変化をみると、クリーリング・オフやエシカル消費について「理解していない」旨を回答した生徒の割合は、授業前は約8割でしたが、授業後には約1割に減りました。また、「学習したことを自分の消費生活に活かそうとしている」との項目に対して、「そう思う」旨を回答した生徒の割合は、授業後に約9割となりました。他方、プリペイドカードやクーリング・オフ、エシカル消費について、「理解している」旨を回答した生徒の割合が相対的に低かったことから、もう少しこれらに焦点を当てて授業を行うことが、今後の課題と考えられます。
ワークショップ
「この教材をどのようにアレンジして実践するか」をテーマに、参加者がグループに分かれてワークショップを行いました。多くの参加者から、「この教材で扱われている各テーマは社会科の授業で扱うものも多く、両者が連携して授業を行えたら良いし、テーマも広げられるのではないか」、「もっとも、お金について学習するタイミングが各科目で異なるため、どう連携するかが課題」といった意見が聞かれました。このほか、「とくにこの教材の第6時で扱われている『環境に配慮した消費行動』のところは大変良くできており、年間を通して授業で使えるのではないか」との意見も聞かれました。
コメント
神山久美先生より、次のようなコメントがありました。
持続可能な開発目標(SDGs)の「世界を変えるための17の目標」の一つとして、「つくる責任、つかう責任」がありますが、これは技術・家庭科(家庭分野)や社会科(公民的分野)で扱う「消費者の権利と責任」に通じるものです。消費者の権利の行使には責任の遂行が伴います。「つくる責任、つかう責任」として、事業者・消費者が共に持続可能な生産・消費を目指すことが重要です。池岡先生が導入なさっていらしたように、教員がSDGsやエシカル消費という視点を意識しながら授業づくりをすることが大切です。
また、先ほどのワークショップで各グループの議論を拝聴した際、「授業の中で生徒に小遣い帳をつけることを教えたが、成果が出なかった」旨のコメントが聞かれました。最近の子どもは、欲しいものがある都度、保護者から小遣いを貰う子どもが多く、「限られたお金をやりくりして使う」という経験が少ないのです。このため、例えば修学旅行の際の決められた小遣いの中でお土産を買うなどの体験の場を設けて、実践的に教えていくことも必要となります。
実践発表およびワークショップ(2)
「『大島の未来を輝かせろ!!』~地域活性化事業の提案と相互評価〜」
(1〜3年 総合的な学習の時間)
新潟県上越市立大島中学校 古澤 博之 校長
実践発表
本校は、平成28年度から新潟県金融広報委員会の研究校委嘱を受けて、「社会の中で生きて働く力を育む金融教育の推進」をテーマに金融教育と関連付けた研究を重ねてきました。本日は、本校が行った授業実践の内容をご紹介します。
はじめに、本校が所在する大島区の現状について触れておきますが、人口減少率が上越市で最も大きく、高齢化が進むなどして、地域のさまざまな行事において学校との連携が欠かせなくなっています。このため、本校としても、「社会に開かれた教育課程」の創造が必要との問題意識を持っておりました。
このような教育課程を進める手立てとして、まずは生徒の発想を広げることが重要と考え、社会で活躍している著名人による講演会を行ったほか、日本証券業協会の協力を得て「親子で学ぶ起業と投資体験」イベントを開催したり、日本銀行新潟支店を訪問してお金や銀行の役割を学んだり、新潟の大手企業やJA青年部の協力による体験学習なども行いました。また、地域のイベントにも参加して、夏祭りでの空き缶回収や募金集めのほか、「大島雪ほたるロード」で雪の壁にろうそくを灯すなど、ボランティア活動にも取り組みました。
このほか、新潟で町づくりに携わる専門家や地域の若手の協力を得て、「未来の大島を輝かせる!!『大島プロジェクト』」と題したワークショップを開催し、地域を活性化させるアイデアを生徒に提案させました。このワークショップでは、班ごとに提案内容のプレゼンテーションを行った上で、魅力の有無や、実現性、採算・集客性などの観点で互いに評価して、その提案への投資額を決定させます。生徒の提案を受けて、今年の7月に「よんご提灯まつり」が地元で開催されたほか、ご当地丼の開発試食会も開かれました。
この実践の成果として、生徒は、「田舎に住むことがリスクではなく、付加価値となり得る」ことや、「人の流れを新しくつくると、お金の流れを生む」といったことなど、多くのことを学ぶことができました。こうした金融教育の取り組みは、生徒が社会で生きて働く力を育成するのに有効であったと思います。
ワークショップ
参加者には、配付資料(「大島区観光・物産30選」)を参考にしながら、当地の活性化策を提案し、互いに評価するなどして、大島中学校の実践事例を体験していただきました。古澤先生からは、「活動をして楽しかったということで終わらせるのではなく、グループでの話し合いとか、必要な材料の数を計算させることなどを通じた、基礎的な学力の向上を想定しながら、授業実践を行うとよい」とのアドバイスがありました。
コメント
神山久美先生より、次のようなコメントがありました。
古澤先生の実践には、各教科で育成する資質能力を相互に関連付け、実社会、実生活において活用できるものとしながら、各教科を超えた学習の基盤となる資質能力を育成する、という探究的な学習の過程がたくさん入っていて、とても素晴らしいものであったと思います。さらに、古澤先生は、総合的な学習におけるいろいろな活動が学びに結びつきにくいということを認識した上で、最初の段階でその活動の狙いや育てたい学力を明確にして、継続的かつ発展的に取り組んでおられます。
ワークショップでは、参加された先生方が大島区が「第二のふるさと」のような気持ちになり、少人数の学校の生徒や地域の方々と一緒に学んでいるかのような心の繋がりを感じておられる様子を垣間見ることができました。生徒も楽しく、教員も楽しいこのような実践を、ぜひ今後も継続していただきたいと思います。