2018年度 先生のための金融教育セミナー
【小学校・中学校向け】
3.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)
小学校分科会2
- 進行・コメント:
- 東京都東村山市立回田小学校 曽我部 多美 校長
実践発表およびワークショップ(1)
「情報を収集して買い物の計画を立てよう」(6年 家庭科)
北海道札幌市立本郷小学校 兒玉 重嘉 教諭
実践発表
本校は北海道札幌市白石区にある中規模校で創立60年になります。金融教育を始めたきっかけは、「せっかく物を買っても使わないまま放置していたり、すでに持っているのにまた買ってしまう」といったりする児童の実態から、「物やお金を大切にする態度、必要な物を必要な時に選んで買う力」を身につけて欲しいと考えたからでした。
「買い物名人への道」は5年生及び6年生の家庭科の授業で行った実践です。題材は5年生が「じょうずに使おう 物やお金」、6年生が「くふうしよう おいしい食事」で、ともに開隆堂の教科書です。6年生では金融教育公開授業を行いました。まず、5年生では、児童に自分の家から使っていない文房具を持ってきてもらい、その金額を計算し、なぜ使っていない文房具があるのか話し合いを行いました。その結果、「値段が高く、不必要な物」を買ってしまう生徒が多いことがわかりました。生徒の間で「買い物3カ条」を決めることになり、計画を立てて買う、必要かどうか考える、ほしい物の値段のお金しか持っていかないなどの声が挙がりました。
6年生では、5年生の授業を振り返りつつ、買い物をして調理実習をする授業を設定しました。自分が家族につくりたい「献立」を考え、グループで買い物計画を立て、決まった「買い物計画」を伝え合いました。用意された食材で調理するのではなく、家庭から預かったお金で子どもたちが食材を購入し、調理することで、子どもたちは食材を大切に扱い、食べ残しはほぼゼロでした。5年生の家庭科でも茹で野菜をつくりましたが、そのときは野菜が嫌いなどの理由で食べ残しがあったので、これは成果の一つだと思います。文房具については、家にあるものを探して使う生徒が増え、物を大切にする姿が見られました。課題としては、今回は題材計画に「買い物」の活動を取り入れましたが、地域によってはそのような活動ができない場合があるため、改善が必要だと思っています。今回の「買い物体験」を通して、生徒の家族のためにおいしい料理をつくりたいという愛情が垣間見られ、これが家庭科のいいところだと再認識しました。
ワークショップ
グループに分かれ、「じゃがいも」を使った「あったかディナー」の献立を考え、一人分の量を算出し、買い物計画を立てていただきました。S社のスーパーとT社のスーパーの広告を見比べ、どちらのお店で買うかを検討するワークもありました。参加者からは、「どちらかの店舗だけで買うのではなく、S社とT社の両方に行ってできるだけ安い食材を購入する」、「お金の負担の仕方について話し合ったところ、自分の献立では使わない食材があっても、均等に負担し合おうという結論になりました」などのコメントが聞かれ、和やかなワークショップになりました。兒玉先生からは、「学級にはさまざまな家庭環境の子どもがいます。私はほかの人の痛みを理解し、分かち合えるような学級づくりを目指しています。教師は現実に目を向けようとしている子どもたちをサポートするのが仕事だと思っています」とのコメントが添えられました。
コメント
曽我部多美先生より、次のようなコメントがありました。
金融教育やお金に関する教育での「買い物体験」は、買い物の仕方も大事ですが、単に買い物をするということだけではなくて、買い物を通して子どもたちがお金の価値観を身につけていくことが重要です。兒玉先生の実践では、家に眠る文房具を学校に持参させてお金に換算しました。ふだん見ている何気ない物に、実は大きな価値があること、そして、それを十分に活用していないということに子どもたちが自分で気づくことが、金融教育の第一歩だと思います。
新学習指導要領の家庭科には、内容C「消費生活・環境」があり、ここでは持続可能な社会の構築という「見方・考え方」を働かせることが重要になります。持続可能な消費とは何か、持続可能な社会に向けて子どもたちがどう行動すべきかが大きく問われているところです。今回のすばらしい実践に、持続可能という視点を加えていただけたらさらに子どもたちの学びが深くなると思いました。
実践発表およびワークショップ(2)
「キッズ☆カンパニー2017〜事業計画をアピールして融資を獲得しよう!」
(6年 総合的な学習の時間)
茨城県美浦村立木原小学校 長田 圭史 教諭
実践発表
本校は茨城県の南に位置し、自然豊かな環境で、子どもたちは伸び伸びと学習に取り組んでいます。本日は「キッズ☆カンパニー2017〜事業計画をアピールして、融資を獲得しよう!」という昨年度の取り組みを発表します。
キッズ☆カンパニーは、小学校6年生の総合的な学習の時間で行った起業体験活動です。4つのグループに分け、それぞれ会社を設立し、商品の開発、作成、販売を行い、融資を受けて儲けを出し、最終的には税金を納めます。全部で15の活動がありますが、大きな取り組みは、販売体験、融資審査会、産業文化フェスティバルへの出店、村への納税です。
会社の人数は10〜11人で、社長、経理部、商品開発部、営業部で構成します。勉強会を開き、社長は日報の書き方、経理部は出納帳の書き方、営業部はお店のレイアウト、商品開発部はレシピの作成などを学びます。商品開発と並行して、販売体験で本番のシミュレーションも行います。ここで、レジ袋の大きさ、陳列の仕方、ポップづくりなどを考えます。そして、融資を受けるための融資審査会への準備として、事業計画を作成します。実現可能な事業計画であること、利益を生み出す仕組みがあることをアピールできなければ、融資は受けられません。
融資審査会は、銀行の支店長、スーパーの店長、商工会など多くの人が集まり、恐ろしいほどの緊張感の中で行われます。各会社には容赦のない質問が投げかけられ、子どもたちは必死に計画をアピールします。融資を受けられることになった子どもたちは笑顔いっぱいですが、融資を受けられない子どもたちは悔し涙をこぼします。子どもたちがキッズ☆カンパニーに向けて、情熱、熱意、やる気、やりがいを持って臨んでいることを感じられる瞬間でもあります。融資審査会を通って、材料の購入が終わると、今度は産業文化フェスティバルです。キッズ☆カンパニーは昨年で5年目になりましたが、「このお祭りを楽しみにして来ました」と言ってくださる方が増えてきました。フェスティバルが終わると、決算報告を作成し、最後に各社の社長が代表して、村長に税金というかたちで納税をします。年度末には感謝の会を実施し、この時に利益金の受け渡しも行います。子どもたちは修了証も授与されます。
これらの活動を通して、社会力、問題を解決する力、感謝する気持ち、勤労の尊さなど、たくさんのことを子どもたちは身につけることができたと感じています。
ワークショップ
参加者がグループに分かれ、事業計画書の作成と融資審査会に向けてのプレゼンテーションづくりを行っていただき、融資審査会を体験していただきました。各グループは、社長を決め、会社名、経営目標、お店のレイアウトなどに頭を悩ませました。融資を受けるグループが、「地域でつくった安心・安全なスイートポテトスープを売りたい」とアピールすると、審査員から、「経営目標が抽象的」、「200円の価格は高くないか」など本番さながらの厳しい質問が飛びました。長田先生からは、「やってみておわかりだと思いますが、話し合わないと決まっていかないのは児童も同じです」とコメントがあり、話し合いの場を増やす大切さが再認識されました。
コメント
曽我部多美先生より、次のようなコメントがありました。
6年間もこのような完璧な金融教育が続いていることに、まず驚きを覚えます。それは学校全体の伝統としての意識がしっかりしているからではないでしょうか。実在の金融機関の協力も得て、大人が子どものプレゼンテーションを熱心に聞き、お金を出すか出さないかを真剣に判断する。こうした金融教育は、木原小学校の子どもたちを地域で活躍できる子どもたちにしたい、地域を愛する子どもたちに育てたいという、美浦村をあげての熱意の現れだと思います。
新しい学習指導要領では、カリキュラムマネジメントが大きなテーマになっています。経理部の計算は算数、プレゼンテーションでは話し方に関わるので国語など、いろいろな単元を組み替えて、それぞれ相応しい時間に教科を当てはめていけば、この実践に結びつく素地をつくることができると思いました。単元を組み替えて、どう学べば子どもたちの学びが深くなるか。質の高い学びができるか。これは新学習指導要領で言われているところです。
金融広報中央委員会では、中学生向けの家庭分野と公民的分野の金融教育教材を作成しています。持続可能な社会や企業の社会貢献についても触れており、子どもたちに考えさせる授業ができると思います。中学校用の教材ですので、そのままでは小学校では使えないかもしれませんが、是非参考にしていただけたらと思います。