2018年度 先生のための金融教育セミナー
【小学校・中学校向け】
3.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)
小学校分科会1
- 進行・コメント:
- 総合初等教育研究所 北 俊夫 参与
実践発表およびワークショップ(1)
「みんなの山辺っ子カンパニー〜ブドウ作りから学んだこと〜」
(6年 総合的な学習の時間)
長野県松本市立島立小学校 小原 由紀夫 講師
実践発表
長野県松本市の山辺というブドウの産地にある前任の小学校において、6年生の総合的な学習の時間で取り組んだ「ブドウづくり」についてご紹介します。
この活動は、地域に根ざした栽培活動として前任校で長年続けられてきたものですが、児童としては、進んで取り組むというよりも「6年生になると取り組まざるを得ない」という感覚が強かったように思います。そこで、金融広報中央委員会の『金融教育プログラム(全面改訂版)』を参考にして、「キャリア教育」(模擬会社づくり)、「商品づくり」(需給の視点からフドウづくりを見直し)、「栽培と販売を通じて社会の仕組みを学ぶ」(工夫や努力を価格や費用を含めて理解)といった金融教育の視点から、この活動を捉え直すことにしました。また、どうすれば児童がブドウづくりに一生懸命取り組むようになるのかを考え、会社組織「山辺っ子カンパニー」を設立しました。その際、社内には、戦略企画部(ブドウの価格決定やブランド化)、広報営業部(広報活動やポスター等のデザイン)、技術研究部(ブドウ栽培の技術習得と作業計画の立案)の3部を設置のうえ作業を分担しました。
ブドウづくりは5月から9月までかかります。子どもたちは生食用だけでなくワイン用のブドウづくりにも取り組み、2月には地元ワイナリーに醸造を委託していたワインもできあがりました。会社組織ですので、ブドウ園の看板づくりから商品の価格設定まで、すべて子どもたちが行い、教師は一切口を出しませんでした。最終的に、売上高は244,900円に上り、経費126,874円を差し引いた純利益は118,026円となりました。子どもたちはそのお金の使い道を自分たちで考えました。そして、自分たちでデザインしたTシャツを作り、音楽会、運動会、発表会で着ました。また、子どもたちの間で、「お世話になった方のために使いたい」、「地域に貢献することも考えたい」という思いが高まりました。
この活動を通じて、子どもたちの意識は確実に変化しました。そして、金融教育との繋がりを感じました。子どもたちは、「やらされている」のではなく、自分たちの活動が収益に繋がることを意識して「どうすればいいブドウができるだろう」と考えるようになりました。また、栽培や販売といった活動に会社組織で取り組みました。さらには、将来ブドウづくりに取り組んでみたいという子どもが増えたほか、ブドウをつくることが自分たちのためばかりではなく、周りの人たちの喜びにも繋がることも子どもたちは意識することができました。これらは、実践の成果だと思います。
当初は、「どれだけ儲かったとか、コストがかかったということを授業で取り組むのはいかがなものか」といった意見もありましたが、子どもたちがお金と正しく接することが本当の金融教育であり、この活動を通じて実践できたと感じています。
ワークショップ
ワークショップでは、「金融教育に視点をあてて地域教材の実践を考える」というテーマでグループワークを行いました。地域や保護者の協力をどのように得るか、金融教育のエッセンスをどのように取り入れるかといった議論を踏まえ、グループ毎に地域教材の素材となり得るものについて検討しました。各グループの発表からは、「特産品がないので、サービス業で独自事業を考える」、「棚田で作った無農薬のお米をブランド化させる」、「地元企業にアプローチして、物づくりから教わり、販売活動まで繋げていく」といった様々なアイデアが出てきました。また、「先生方と話し合っていたら、今まで学校で取り組んできたことは実は金融教育だったと気づかされました」といったコメントも寄せられるなど、活発な議論が行われました。
本実践事例は、第14回金融教育に関する小論文・実践報告コンクール(2017年)推奨実践事例賞作品として当ホームページに掲載されています。
第14回金融教育に関する小論文・実践報告コンクール(2017年)
コメント
北俊夫先生より、次のようなコメントがありました。
小原先生の実践は、ブドウを栽培する取り組みが素材でした。このように栽培活動に取り組む学校は全国的に多く見受けられますが、ややもすると栽培活動に終始してしまう場合があります。この実践は栽培して収穫した物を売るという販売活動に踏み込んだことに大きな特色があり、こうした踏み込みが小学校において金融教育を実践するうえでのポイントだと思います。
ポイントの一つ目は、子どもたちが価格を決めたことです。必要経費を踏まえ赤字にならないように総合的に判断して値づけしたことです。二つ目は、商品の売り方の問題です。一房で売るのか、食べやすく切って売るのかといった売り方を工夫していたことです。さらには、売上金をどう使うかということを子どもたちに考えさせたことです。併せて、子どもたちの仕事や職業に対する関心や理解も深めました。小学校らしい展開でキャリア教育の実践にもなっています。多くの学校で行われている栽培活動の取り組みに、いかにプラスアルファの味付けをするか、それによって小学校らしい金融・金銭教育にどう繋げることができるか、ご提案いただけたのではないかと思います。
1点補足すると、この実践は総合的な学習の時間での取り組みでしたが、子どもたちは既に3年生の社会科においてスーパーマーケットで働く人たちの勉強をしています。この点を新学習指導要領でみると、売上げを増やすための工夫といったことが挙げられており、こうした教科の狙いと関連づけて、スーパーマーケットの人たちの工夫を参考にしながら総合的な学習の質を高めていく。すなわち、教科の学習成果を総合的な学習にどう結びつけるかといった視点も大事ではないかと思います。
実践発表およびワークショップ(2)
「ごみのしょりと利用」(4年 社会科)
香川大学教育学部附属高松小学校 木村 勇樹 教諭
実践発表
本実践を行った前任校では、お金の使い方よりも、お金の重みやお金に正しく接していく姿勢に重きを置いて金融教育に取り組んできました。こうしたことを総合的な学習の時間のみで取り組もうとすると、質的には高いものが期待できる一方、金融教育のみに時間を割くことは難しい状況でした。そこで、授業全体で約980時間ある中の総合的な学習の時間の70時間ではなく、980分の910で取り組めばよいというのが本校の考え方です。
また、授業を構想する際に一番意識したことは、教科としての目標を第一にすることです。私が担当した社会科の学習において一番重視すべきことは、学習指導要領にある「公民的資質の基礎を養うこと」になります。また、新学習指導要領で掲げられている「主体的・対話的で深い学びの実現」も無視できませんでした。こうした中、「感受」(なぜ?どうして?おもしろい!と子どもたちに衝撃を与える)、「想像」(解決方法を子どもたちが見通す)、「意味付け」(子どもたちが見出したことを子ども自身が価値づける)といった3つのキーワードを重視して単元を構想しました。さらに、金融教育も食育、人権教育、道徳などと同様に社会科を味づけするエッセンスの1つだと考え、金融教育単体ではなく、社会科にどのように関連づけていくかといった視点を持ちつつ、6年間のカリキュラムを見越して継続的に取り組めるようにしてきました。金融教育を推進して行くには、このように無理なく持続可能なかたちで取り組めることが大事だと思います。
私が4年の社会科で実践した「ごみのしょりと利用」(東京書籍)の授業は、金融広報中央委員会の『金融教育プログラム(全面改訂版)』を参考にしつつ組み立てました。すなわち、社会科の目標を主軸としつつ、同プログラム掲載の「学校における金融教育の年齢層別目標」におけるキャリア教育の目標をエッセンスの1つとして関連づけて、単元計画を構想しました。授業では、前述の「感受」、「想像」、「意味付け」の3つの視点を踏まえつつ、私たちのごみはどこへ行くのか、だれが処理しているのか、香川県のごみの循環型社会は何%完成しているのかといったことなどを子どもたちは学んでいきます。こうした中、子どもたちが最も衝撃を受けたのは、きちんと分別されていないごみを最終的にクリーンセンターの方が人手で分類している現場を見学したときでした。そこで子どもたちに、「あれだけの人が仕事をしてくれているから、社会はキレイに守られているんだね」、「ごみ袋はいくらか知っている」と問いかけることで、子どもたちの更なる思考につなげました。このように教師が金融教育の視点を取り入れた社会科の学習を展開することで、子どもたちは自然に金融教育を学ぶことができたのではないかと思います。
ワークショップ
4年の社会科の「水はどこから」(東京書籍)を使って、金融教育のエッセンスを取り入れた単元計画を参加者に考えていただきました。同計画の構想に当たって、社会科としての目標を第一とし、主体的・対話的で深い学びになるように検討いただきました。参加者のほとんどの方が、プールを満タンにするには100万円以上の水道代がかかるといったような、水道代を入口にして金融教育を関連づけした単元計画を策定されました。こうした中、木村先生からは、「私も最初は水道代から金融教育に繋げることを考えましたが、私の授業では、水が届くまでの苦労や努力が水道代の価格なんだという、本校が重視するお金の重みに繋げました」とコメントされました。
コメント
北俊夫先生より、次のようなコメントがありました。
木村先生の発表は、6年間のカリキュラムの全体をみながら持続的に取り組むことが大事との提案でした。その際に大切なことは、先生方がみんなで取り組むために、どの学年のどの教科のどの単元が、金融教育と関わりがあるのか、内容、題材、活動といったレベルで洗い出しておくことです。これにより、みんなでいつでもどこででも金融教育が実践できる土台が学校でつくられることになります。また、教科の目標を踏まえた実践は大事ですが、金融教育と深く関わっている教材や活動はどこにあるのか、『金融教育プログラム(全面改訂版)』でいう「金融教育の視点」を明確にしないと必ずしも金融教育にはなりません。なぜならば、この視点を明確にして意図的に授業に当たることが、共通理解に基づく共通実践の観点からも、より重要であると考えるからです。この視点を踏まえて先生が子どもたちに話をすれば、お金の動きにも子どもたちの目が向きます。こうしたことを先生が普段から意識しながら子どもたちに伝えていくことで、金融教育の実践になるのではないかと思います。
最後に本分科会のまとめとして、3点お話しします。
1点目は、お金に関する学習事項が各教科等にどう位置づいているかを意識した指導が大事なポイントになるということです。社会科だけでなく、家庭科でも道徳でも金融教育の要素を扱います。教科内はもとより、教科間の横断的なカリキュラムを作るというところに目を向けていただけたらと思います。
2点目は、先生方は必ずしも金融や経済の専門家ではないということです。金融教育の実践というとすべて自分でやらなければならないと受け止めてしまうかもしれませんが、地域には金融機関や商店の方など専門的な方々がいます。そうした方々の力も借りて地域ぐるみの金融教育の実践をできる範囲で構わないので取り入れてみてはどうでしょうか。
3点目です。「金融教育の視点」を捉えるためのヒントとして、金融広報中央委員会の「学校における金融教育の年齢層別目標」を活用していただきたいと思います。この目標を参考にすることによって、教科や単元での視点がみえてくるではないかと思います。ただし、この目標は、小学校の低・中・高学年とステップを踏んで学習してきていることを前提しているので、高学年で新規に取り組もうとする場合には、その前段階の内容を学び直す必要があります。そのため、その学校の実態や子どもたちの発達に応じて、柔軟に金融教育を実践していただければと思います。