2018年度 先生のための金融教育セミナー
【高等学校向け】
2.パネルディスカッション
「新学習指導要領の下での金融教育」
- パネリスト
- 教職員支援機構 次世代教育推進センター 大杉 昭英 センター長
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- 玉川大学教育学部 樋口 雅夫 教授
- 東京都立西高等学校 篠田 健一郎 指導教諭
- 千葉県立流山おおたかの森高等学校 仲田 郁子 教諭
- コーディネーター
- 金融広報中央委員会事務局金融教育プラザリーダー 岡崎 竜子
新学習指導要領の目指す資質・能力を育むために、金融教育がどのような役割を果たすことができるのかについてご紹介いただきました。大杉氏は、「『OECD/Japanセミナー』でOECDのシュライヒャー教育・スキル局長が、『新学習指導要領はOECDの考え方を取り入れて作られた』と発言しました。さらに、日本の子どもたちは知識を組み合わせて問題解決を図る戦略が足りないのではないかという課題を掲げています。新学習指導要領のポイントはまさしくそこにあり、いろいろな教科で学んだことを結び付けて物事を考える力を養うために金融教育はその学習モデルを提供できるのではないか」という考えを示されました。
続いて、実際に学校で指導されている立場から、新学習指導要領が求める生徒像と金融教育の関係について、篠田氏と仲田氏にご意見を伺いました。公民科を担当する篠田氏は、「これを学べば、社会ですぐに役立つというものもあれば、社会の在り方といった抽象的な学びもあります。生徒にディスカッションをさせたり、紙にまとめさせたりと方法もさまざまです。生徒からすれば他の教科もあって、毎週のように調べて発表をしています。結果的には、こうして考える基礎が自然にできているのではないかと思います」と述べられました。家庭基礎を担当する仲田氏は、「新学習指導要領における内容としては、経済の計画を立て、生涯を見通してリスクに備えること、消費者として消費生活の現状と課題を知り、契約の重要性を知ること、の2点です」と話されました。
次に、新学習指導要領の作成に携われた樋口氏に、高等学校での新学習指導要領の下での指導のポイントや込められた期待について伺いました。樋口氏は、「新学習指導要領のポイントの一つに『社会に開かれた教育課程』がありますが、社会の変化を視野に入れることが議論の中心でした。この間、平成34年に成年年齢が18歳に引き下げられることが決定しましたが、図らずも新しい高等学校の学習指導要領が年次進行で実行され始めるのがこの年です。例えば、公民科で金融の仕組みを学びます。単に仕組みを学ばせるだけではなく、どのような力を子どもたちに身につけさせたいのかを日々明確にしながら、授業を進めていただきたいと思います」と述べられました。加えて、「学習指導要領改訂の背景の一つに、人工知能の急速な進化があります。しかし、いくら人工知能が進化しても、学校での学びがなくなることはないと思います。ICTで先生が生徒に一斉に発信するだけではなく、生徒が通学し、集まって学ぶことは何なのかを考えたときに、これからの学びで必要なことが見えてくると思います。「私はこう思う」という気持ちと、目の前の友達の思いが異なるという多面的な価値観に触れていくことが、学校教育で忘れてはならない大事な部分だろうと思っています」と発言をされました。
新学習指導要領の「主体的・対話的で深い学び」、「社会に開かれた教育課程」、「教科間連携」を取り入れた具体的な事例を、篠田氏、仲田氏にお伺いしました。篠田氏は、「現代社会や政治・経済を生徒が学んだときにどんな分野でも、お金の流れに触れざるを得ません。お金の流れを見れば、いろいろなことが見えてくることを生徒自身が知る。自分がどのような社会にいて、どのように生きることが望ましいのかを知る。大切なことはまず、教師と生徒が信頼関係を築くことで、生徒同士が学び合える場(チャンス)をどうつくるか。そこは教師の腕の見せどころになります」と述べられました。仲田氏は、「公民科の先生方との勉強会に出席した際に、『8日間はクーリングオフできるから大丈夫、という教え方はしないでください』と話す先生がいました。これは家庭科では意識してこなかった部分で、クーリングオフや未成年契約取消しは例外規定であることなど正確な知識が不可欠であることを再認識しました」と語られました。
最後に、新学習指導要領では公民科に新科目「公共」が設けられることについて、樋口氏は、「従来の公民科とどの部分が違うのですかと聞かれれば、「社会に参画する自立した主体を育てる」、「他者と協働して社会をつくる」の部分がキーワードになるかもしれません。公民科の学習で「公共」を学ぶわけですが、家庭科の学習に繋がっている部分があると思います。契約、消費者の権利に関する部分を家庭科と連携すれば、非常にダイナミックですね」と述べられました。大杉氏は、「自立した個人が、より良い判断ができる子どもを育てよう、というのが新科目「公共」のねらいです。もっとも考えなくてはいけないのは、判断の妥当性や正しさは何なのかについてですが、金融教育はその判断の妥当性を求めるときの枠組みを示してくれているのではないかと思います」と結ばれました。