先生のための金融教育セミナー
2021年度 先生のための金融教育セミナー(オンライン開催)
オンライン意見交換会
高等学校
東京都立西高等学校 篠田 健一郎 指導教諭(公民科)
東京都立国際高等学校 岩澤 未奈 主任教諭(家庭科)
講義1 篠田先生
「成年年齢の引き下げ」
高校生に何を伝えるべきか、自立した成人になるための金融教育について
成年年齢が引き下げられると、高校3年生が様々な消費者トラブルに巻き込まれる可能性が出てきます。そのネガティブな面だけを強調するのではなく、リスクに備え、トラブルから身を守る力を養い、なりたい自分に自分の力で近づこうとする生徒の後押しができる教育が、金融教育だと考えます。高校の3年間は、自立した成人になるための大切な準備期間です。新型コロナウィルスの感染拡大を経験した生徒は、リスクに備える大切さを十分にわかっています。その意味では、社会保障、預貯金、投資の大切さがより伝わりやすい状況になっていると言えます。
社会に出ると、多様な価値観を受け入れて他者と合意形成を図りながら生きていくことになります。そのために生徒の視野を広げ、思考力、判断力を養うことが必要ですが、公民科だけでそれができるわけではありません。また、成年年齢引き下げに備えた内容や金融に関する内容を公民科だけで網羅することもできません。そこで、家庭科など他の教科との連携が必要になります。
私たちはどうしてもすべて教えようとしてしまいますが、発想を転換して割り切ることも必要です。他の教科で扱う内容には公民科としてあえて触れないという方法もあります。生徒は教えなくても気づくことはたくさんあります。自分で気づいたことは生徒の心に深く刻まれ、忘れません。また、教科間連携の方法は一つではありません。公民科の授業で、家庭科の先生に短い時間でも説明に加わってもらうだけで、生徒の意識はかなり変わると思います。家庭科の先生が授業の中で「公民科の先生が授業の中でこんなふうに仰っていたでしょう」と一言添えるだけでも、生徒にとっては大きな違いがあると思います。教科間で授業者がお互いを意識することで、生徒の注意を喚起できることがあるはずです。
授業にはこれで終わりという完成形はありません。来年度から始まる「公共」についても、私たちは試行錯誤の連続です。しかし、それにより先生方は色々な授業の展開を財産として持つことになり、先生方の熱意がよい授業を生み出すことになると考えています。
講義1 意見交換
講義1の後の意見交換では、全国で金融教育に取り組んでいる先生方から事例紹介がありました。また、「金融教育は範囲が広く、小・中・高と発展させながら教えていく必要があるが、高等学校では、中学校でどの程度まで学習しておくことを期待しているか」という問いかけに対し、篠田先生は「中学校までに基礎、基本をしっかり学習してきてほしい。それさえきちんと押さえていれば、あとは生徒が自分でどんどん変化していく」と述べられました。岩澤先生は、「中学校までに支払いをICカードでピッと済ませるだけでなく、現金を使う、お金を貯めてみるといった様々な生活体験をしてきてほしい」と述べられました。
講義2 岩澤先生
「資産形成」
公民科とのコラボ授業の実践
2年生を対象に行った「キャッシュフロー・家計管理と投資」の授業を紹介します。導入と前半の展開を家庭科で担当し、後半の展開で行うグループワークを公民科の先生が担当、最後のまとめを家庭科が担当するという流れで行いました。
導入で、家庭科でこれまで学習した収入と支出のバランス、キャッシュフローについて振り返った後、家計管理で生まれたキャッシュのストックをどうするか生徒に問いかけました。多くの生徒は銀行への預金を考えます。ここでインフレについて説明します。ほとんど利子がつかない状態で物価が上がると、今、100万円で買えるものが1年後に100万円で買えなくなる。それは見方を変えれば、お金が減っているのと同じことだと説明し、それでも普通預金だけで備えますかと問いかけます。そして、預貯金を含む金融商品の特徴を説明し、知識を持って選択することの大切さを伝えて、公民科の先生に交代します。
グループワークで、公民科の先生が「自由に使えるお金が100万円あったら何に使うか」と投げかけると、外貨預金や株式投資といった意見も出てきます。そこで自分のためだけでなく社会のためになる投資もあること、ローリスクでハイリターンのものはないことなどを説明します。さらに投資先を選ぶ際、環境、社会、企業統治の観点から判断する方法もあるとESG投資の提案をします。
最後にまた家庭科に交代してまとめです。適切な意思決定に向けてリスク管理の具体的な方法を説明します。さらにESG投資の話をエシカル消費と結びつけます。自分で調べて納得して投資先を決めることは、持続可能な社会の実現にもつながると、本時の授業を振り返ります。
コラボ授業のメリットは、異なる教科の教師がそれぞれの専門の立場で指導することで、限られた授業時間を有効に使って、対話的、協働的な深い学びの機会とすることができることです。家庭科はあらゆる教科と関連が深く、カリキュラムマネジメントの中核になりうる教科だと思います。
講義2 意見交換
講義2の後の意見交換では、「日本の経済をボトムアップしていくために、公民科と家庭科それぞれでできることは何か」という問いかけに対し、岩澤先生は、「家庭科としては、自分のキャリアプランを立てて、働いて収入を得ることをまずは基本としてしっかり教えていきたい」と述べられました。篠田先生は、「公民科の立場からは、生徒に社会的存在としての生きる意味、よく生きるというのはどういうことかをきちんと考えてほしいと思う」と述べられました。
また、「日本の投票率の低さを金融教育で上げていくことはできるか」という問いかけに対し、篠田先生は、「金融教育を通して世の中に主体的に関わろうとする意識が涵養されることで、投票率向上にもつながる」と述べられました。岩澤先生は、「保育の分野を勉強した時に、社会福祉の大切さがわかる。家庭科でも投票や社会参加の重要性、自分の意志を表明することの大切さを伝えている」と述べられました。