2017年度 先生のための金融教育セミナー
【高等学校・大学向け】
2.パネルディスカッション
「次期学習指導要領が求める児童・生徒像と金融教育」
- パネリスト
- 独立行政法人教職員支援機構次世代型教育推進センター 大杉 昭英 上席フェロー
-
- 東京大学大学院経済学研究科 松島 斉 教授
- 東京都立国際高等学校 宮崎 三喜男 主任教諭
- 東京都立忍岡高等学校 高橋 靖子 主幹教諭
- コーディネーター
- 金融広報中央委員会事務局金融教育プラザリーダー 岡崎 竜子
次期学習指導要領が目指す資質や能力を育むために、金融教育がどのような役割を果たすことができるのかについてご紹介いただきました。冒頭、大杉氏は、「金融教育が目指しているのは、金融に関する知識を身につけ、それを使いこなす力を育てることであり、次期学習指導要領が求めている、自分たちが学んだ知識をうまく使いこなすことと、方向性が一致している」と述べられました。
続いて、本日のテーマについて実際に高等学校で指導している経験を基に、宮崎氏、高橋氏に、教科との関連を踏まえた上でのご意見を伺いました。高等学校公民科を担当する宮崎氏は、「次期学習指導要領においては、『育成すべき資質・能力の三つの柱』をより強く意識した授業の実施が重要である。また、金融教育をより一層充実させることが、よりよい主権者を育てることになる。さらに、新科目『公共』では、経済的、政治的、法的主体となる私たちといった側面が相互に関連してくるため、自立した主体として社会に参加するという視点をもって金融教育を行っていくべきである」と述べられました。高等学校家庭科を担当する高橋氏は、「次期学習指導要領における『社会に開かれた教育課程』の3つの柱は、まさに家庭科で生徒に培っていきたい教育目標である。こうした中、生活全般への興味、関心を高め、問題をより身近なものとして捉えて、様々な視点に立って考える力をつけていくことができる金融教育は、非常に有効である」と話されました。また、大学で教鞭を執っておられる松島氏は、「優秀な学生が論文を書けないということが少なくないが、これは、サプライズを経験しイマジネーションやクリエイティビティを引き出すアブダクション推論を、学生たちが分かっていないことにある。そこで、モティベーション、アプローチ、コントリビューションの三つをポイントにした問いかけを学生に行っているが、こうしたアプローチが、金融教育の根底にも据えられていなければならない」と述べられました。
次に、具体的な事例を基に、次期学習指導要領を踏まえて金融教育を効果的に実践するためのポイントを各先生方に伺いました。大杉氏は、「金融教育の実践に当たって、『金融教育プログラム』を確認してほしい。同プログラムでは、金融教育を実践する上で念頭に置いていただきたい概念、『学校における金融教育の年齢層別目標』と現行の学習指導要領との関連、金融教育の指導計画などが体系的に整理されている」と説明されました。宮崎氏は、「主体的で対話的で深い学びはより一層充実させていくべきではあるが、高等学校においては、特に深い学びをいかにして育んでいくかのかが重要である」と述べられました。高橋氏は、「『金融教育プログラム』の中の指導計画例『ライフプランを立ててみよう』を実践している。知っておいてほしい金融の知識とか現実的に要する具体的な費用の目安を教えながら、これからの自分の生活の現実を主体的に考えられるよう、時間を取って生徒と一緒に進めていくことが重要である」と説明されました。松島氏は、「学生たちは、概念を正確に理解しなければ、情報化社会に流されて生きていくことになると感じているため、今年度より、これまでの社会見学などを織り込んだアクティブ・ラーニング的なゼミから、概念理解に重点を置いた教科書を輪読するゼミに変更している」と大学の実情を踏まえつつ補足されました。
最後に、参加者の質問に答えつつ、本日のまとめを伺いました。宮崎氏は、「学力のあまり高くない学校での金融教育の実践について、5分間でも何かアクティブ・ラーニングを取り入れ、実践してみることが重要である。その際、生徒の視点に合わせたテーマを取り扱い、概念につながるような問答を生徒と行うなど、色々工夫することがポイントである」とアドバイスされたうえ、「次期学習指導要領では、何を教えるかではなく、どのような力を身につけさせるかというコンピテンシーが重視されている。金融教育を通して、どのような資質や能力を生徒に身につけさせるべきなのかを考える良い機会である」と締めくくられました。高橋氏は、「限られた時間の中で金融教育の時間を確保するための方策として、年間指導計画の内容、進め方を見直す、事前課題を出して、主体的に調査研究させる、ホームルームや総合的な学習の時間を活用するなどが挙げられる」とアドバイスされたうえ、「家庭科では、社会の変化に対応する力を育成するということが非常に重要な課題となっている。特に、生計を管理する金銭感覚を身につけ、生涯を見通しつつ生活し自立していける力を生徒につけさせなければならないので、金融教育の重要性を理解し、指導内容を工夫しながら取り組んでいかなければならない」とまとめられました。大杉氏は、「時間的制約の問題は、『最後に子どもたちに一つだけ教えるとしたら』、『二つだけ教えるとしたら』というように付加的に考え、最終的に1年間で何を教えるのかという発想で考えていくとよい」とアドバイスされたうえ、「持続可能な社会を考えていく上で、自分にとってよいことはみんなにとってもよいことかという視点で、様々な金融問題を考えていく必要がある」とコメントされました。松島氏は、「目的を最大限達成するためにはインセンティブがポイントとなるが、金融教育ではまだ十分に取り扱われていないので、教育現場ではタブー視せず、子どもたちに気づかせる必要がある」と結ばれました。