2017年度 先生のための金融教育セミナー
【小学校・中学校向け】
3.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)
小学校分科会2
- 進行・コメント:
- 東京都東村山市立回田小学校 曽我部 多美 校長
実践発表およびワークショップ(1)
「商品選択の観点を意識化し、価値観に基づく選択ができるようになろう」(5年 家庭)
埼玉県狭山市立狭山台小学校 山下 綾子 教諭
実践発表
小学校家庭科において「商品選択の観点を意識化し、価値観に基づく選択ができるようになろう」というテーマで消費者教育の実践を行いました。本実践は、一人ひとりが商品を吟味する時間を確保しやすい教室で行い、児童が日常的に使っている「消しゴム」を学習対象としました。「消しゴム」を選んだのは、それぞれ好みがあること、価格・品質・環境など特徴の異なる商品を教師が用意しやすいこと、児童にとって身近な商品であるため実感を言葉で表現しやすいことからです。
まず、目的を確かめて、情報を集め、比較して、決めるという買物の手順の確認をしました。今回の目的は「学習で使うための消しゴムを買う」ことです。グループごとに用意した3種類の消しゴムを子どもたちは実際に手に取り、長所と短所をワークシートに記述します。この長所・短所をグループ分けし、これらが商品選択の「観点」になることを確認しました。それらをもとにワークシートに自分が選ぶ消しゴムをその理由とともに記述し、選んだその理由を互いに伝え合い、それぞれが価値観に基づいて選択したことを確認しました。
この学習における児童の消費に対する意識と知識の変化を調査するため、学習の前後に、「意識の変容をはかる質問」と「知識の変容をはかるパフォーマンス課題」を実施しました。
その結果、「意識の変容」では、「値段が高いほど良いものだと思う」や、「買物をする時は値段が決め手だと思う」という質問に対して、「そう思わない」と回答した児童の数が増え、商品選択の観点は値段だけではないことに気づいた児童が増えたと考えられます。また、「知識の変容」では、4種類のりんごジュースの量・賞味期限・値段などの情報からどの商品を選ぶかというパフォーマンス課題を行い、ジュースの賞味期限についての記述が中心だった児童が、学習後には他の商品と比較したりや価格にも注目するという変容が見られました。授業で扱ったのは消しゴムですが、消しゴムを選ぶための知識が、りんごジュースを選ぶ際にも生かされているということが分かります。
実際の生活で、多様な観点の中から自分に必要な商品を選択することに、絶対的な正解はありません。状況に応じて自分なりの判断基準で考える思考の柔軟性が必要であると言えます。そのために小学校家庭科においては、商品選択の観点の多様性について理解を深め、自己の価値観との関わりを知ることができる学習、即ち日常生活の中で獲得している児童の消費に対する知識に揺さぶりをかけ、知識を強化・補強することが重要であると考えています。
ワークショップ
ワークショップでは、実践発表で紹介した3種類の消しゴムを比較する模擬授業を体験し、実際に自校で実践するとしたらどのように行うか、消しゴム以外に有効な教材はあるかなどを話し合いました。「授業の中で消しゴムを比較するだけでなく、筆箱の中に3つの消しゴムを入れて、学校生活の中で使ってから結論を出させてみるのはどうか」という案や「子どもたちにしっかりとした観点をもたせ、価値観に基づいて意思決定できるようにする授業となっている点が素晴らしい」といった感想が聞かれました。
コメント
曽我部 多美先生より、次のようなコメントがありました。
今回の実践の中に、目的を明確にする、情報を集めて比べる、決定するというプロセスがありました。金融教育の視点では、買い物の際に「買わない」という選択もあります。「筆箱はまだ使えるから買わなくていい」といった意思決定ができることも、子どもたちにとっては大切なことです。
金融教育においては、一人ひとりの価値観も大切です。100円で2本買える鉛筆を選ぶことが常に正しいのかというとそうではなくて、「1本100円の高い鉛筆を選ぶことで自分がすごく満足感を得て頑張れるなら、それもあなたの価値観ですよ」と教える。子どもたちが様々な条件から自分で考えて価値観を形成していく、それが金融教育の良さではないかと思います。
実践発表およびワークショップ(2)
「金融教育との関連で実現する『考え、議論する道徳』」(6年 道徳)
東京都東大和市立第八小学校 野村 宏行 指導教諭
実践発表
「考え、議論する道徳」を金融教育との関連で実現すべく、今回の実践を行いました。考える道徳においても、金融教育においても、子どもたちの問題意識が非常に重要で、この共通点をうまく活かせないかと思ったからです。道徳教育も金融教育もゴールは自分の生き方、価値観を磨くことであり、二つを関連させることで効果的な授業ができるのではないかと思っています。一方、問題意識としては、道徳教育における金融教育が、内容項目の「節度、節制」に意識が狭まっていないかということです。道徳の副読本の内容を調査すると、お金を使った教材のうちの85%が「節度、節制」の内容項目でした。「節度、節制」以外にも多面的に道徳教育における金融教育を広げていくことが効果的なのではないかと考えています。
今回の実践テーマは「お金と生き方の関わり」で、3時間かけてそれを追求していきます。授業を進めるにあたり、問題の設定、追求、解決という、問題解決のプロセスを大切にしました。
1時間目は「3枚の銀貨」という話を使った「親切、思いやり」の授業です。漁師である夫を亡くしたべスに、友人たちができることはないかと話し合い、最後には一人一枚ずつ銀貨を渡そうということになります。相手の立場に立った時に、何が一番よいのかを考えさせます。「気持ちや心をお金で表すことはできるのだろうか」という問いに、子どもたちの多くは、「できない。お金では気持ちを表したくない」と言っていました。「べスの生活のことを考えたら、お金が必要だろう」と言う子どももいました。どちらが正しいかではなくて、思いやりをお金で表すことをあなたはどう考えますか、相手の立場を考えて、自分の判断を示しましょう、という授業です。
2時間目は「続・だってほしいんだもん」という自作教材で「自分にとって正しい、大切なお金の使い方は何だろう」ということを考える授業です。道徳はお金の使い方を勉強する時間ではなく、お金の使い方を通して自分の価値観を磨く時間だと考えています。
3時間目は「カメラマンの選択」というNHKの教材で、写真館を営むカメラマンが、写真コンクールで賞を獲り、大手企業からヘッドハンティングされ、進む道に迷い、どうするのかというところで教材は終わります。授業では、「私たちは何のために働くのか」ということを考えました。
最後に、「お金が自分の人生にどう関わっているか」を書かせたところ、ある子は、「お金は大事だと改めて分かり、働く時は、お金だけでなく、人を喜ばせる仕事に就きたいと思いました」という解決を見出しました。
この授業前後で子どもたちの意識変化を調査してみました。いくつかの質問の中で一番大きな変化は、「お金やお金の使い方について学びたいと思いますか」という問いです。ここで、「もっと学びたい」という子どもたちが増えたことは、授業の大きな成果だったと考えます。
金融教育のための道徳になってはいけませんが、各教科等に金融教育の視点をプラスすることで、各教科等の特質を活かした金融教育の授業を実現し、子どもたちの将来を生きる力を育むことが大事だと考えています。
ワークショップ
グループごとに、用意された3つの道徳の教材から、学年に合わせた教材を一つ選び、授業の構想を練っていただきました。「子どもたちに教材には書かれていない部分について質問をし、なぜそう思うのか、どうしてそれを選ぶのか、などの質問を重ねる」、「子どもたちの答えに正解・不正解を示す必要はなく、理由までしっかり考えさえることで子どもたちの考える力を鍛える」という案や、「教材について考えるだけで終わらせず、その内容を自分たちの生活に置き換えられるような質問を子どもたちに投げかける」、「教材の最後の部分をあえて子どもたちに見せず、自身で結末を考えさせる」などの案が出され、活発な意見交換が行われました。
本実践事例は、第13回金融教育に関する小論文・実践報告コンクール(2016年)優秀賞作品として当ホームページに掲載されています。
第13回金融教育に関する小論文・実践報告コンクール(2016年)
コメント
曽我部 多美先生より、次のようなコメントがありました。
道徳の授業では答えが一つではなく、子どもたちは、自分の価値観や考えの中から様々な選択をしていきます。金融教育でも、子どもたちが多面的・多角的に物事を捉え条件を整理しながら意思決定をしていきます。
子どもたちは、これから先、世の中に出て様々な挑戦をします。今回の道徳の教材の主人公に自分を置き換えて、自分に出来ることを振り返り、どんな選択(意思決定)をしていくのかを考えさせてもよいと思います。これからの教育においては、たくさんの選択肢の中で子どもたちが葛藤しながら、よりよい選択ができるよう自分の価値観を磨くという学習が必要なのではないかと思います。