2017年度 先生のための金融教育セミナー
【小学校・中学校向け】
3.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)
中学校分科会1
- 進行・コメント:
- 独立行政法人教職員支援機構次世代型教育推進センター
大杉 昭英 上席フェロー
実践発表およびワークショップ(1)
「会社を作ってみよう」(3年 社会)
東京都江東区立第二亀戸中学校 仲村 秀樹 非常勤教諭
実践発表
「会社を作ってみよう」という実践を20年以上行っています。模擬的な企業づくりを通して、生徒に「良い会社とはどのような会社か」を考えてもらっています。狙いは、「企業の経済活動における役割と責任」、「職業の意義と役割」、「雇用と労働条件の改善」などについて、多面的・多角的に考察し、表現することです。金融広報中央委員会の『金融教育プログラム』にもこの実践を掲載していますが、学習指導要領の改訂や世の中の動きに合わせ、逐次バージョンアップしています。
この実践では、事前学習として、「会社に関するインタビュー」を行います。生徒が、保護者など身近な人に、その方が働いている会社が社会に提供しているサービスや仕事の内容などについてインタビューするものです。保護者の協力を得て実施しています。生徒は、聞き取った内容を共有し、自分たちが設立してみたい会社の構想を練り、会社の設立計画書を作成します。ここで生徒は、株式会社の仕組み、直接金融・間接金融などに触れることになります。また、求人広告も作成します。従業員の労働時間や賃金など労働条件についても考えることになります。
準備ができたら、グループごとに、設立したい会社の資金調達のための投資家募集と社員を集めるためのプレゼンテーションを、ポスターセッション(屋台村形式)で行います。評価する生徒は、投資家の立場になって、会社の将来性や収益性、地域社会への貢献度、環境への配慮などからどの会社が優れているかを考えます。求人については、労働者の立場になって、休日や給与等の労働条件、労働環境を検討します。
各グループの投資額と求人の応募状況をまとめると、グループによってかなりの差が出ます。投資額が0円の場合もあります。生徒は、結果を踏まえて振り返りを行い、その理由を考えます。最後に、自分たちが考えた会社を評価し直し、「良い会社とはどのような会社なのか」を考え、レポートにまとめます。事後の課題として、実際に存在する会社について評価レポートを作成し、提出してもらいます。
「良い会社」を目指すときに、「良い」の定義は何かということになります。生徒は、「大企業が良い会社だ」とか、「お金を儲けられれば良い会社だ」とのイメ-ジを持ちがちです。この学習を通じて、「企業の役割と責任が果たされていること」、「投資家、働いている人、社会に対して、よりよいサービス、価値、環境を提供できること」などが大切なのだ、ということに気付いてもらえたらよいと思っています。
ワークショップ
参加者には、生徒になったつもりで「会社を作ってみよう」を体験していただきました。一人ひとりが自分の作ってみたい会社を考えたうえで、グループ内で意見を交換し、グループが設立する会社を一つに絞りました。改善提案を出し合ったうえで、全員が協力して宣伝用ポスターを作り、屋台村方式で発表しました。
他のグループからどれだけ聴衆を集められるか競う形になるため、発表には熱が入り、聴衆も疑問点を質してみるなど、会場は盛り上がりました。参加者からは、「この実践は楽しい。特に屋台村方式だとモチベーションが上がる」、「良い会社とは何か、考えていくのにピッタリの実践」と評価する声が聞かれました。
コメント
大杉昭英先生より、次のようなコメントがありました。
「良い会社とはどのような会社か」という点が議論になりましたが、たとえば、「ずっと存続する会社、長い間、生き残ることができる会社とはどんな会社か」という切り口もあると思います。仲村先生がおっしゃったように、こうした授業では、答えや判断は一つではありません。今朝の新聞に、「いつ出社しても、いつ帰っても自由。欠勤届け不要」の会社があると紹介されていました。雇う人と雇われる人に信頼関係があるのだと思います。このように、働き方にもいろいろあります。「会社を作ってみる、運営してみる」という実践は、「社会に繋がっている」ことに大きな意義があります。
外部の方の協力を得て、企画書を審査してもらうという指導方法もあり得ると思います。ダメ出しがたくさん出るかもしれません。それで生徒がもう一度企画を練り直す。そのような過程の中で、会社の役割や社会的責任について考えることができると思います。仲村先生の実践は、「こういう会社が良い会社だ」という答えを教えるのではなくて、子どもたち自身が「良い会社とはどういう会社か」を考え、答えを見出していくことができる実践になっていたと思います。
実践発表およびワークショップ(2)
「生きていくこととお金について~ライフスタイルの学習を通じて自分の生き方を考える~」(3年社会<公民的分野>、総合的な学習の時間)
岡山県倉敷市立多津美中学校 小谷 篤義 教諭
実践発表
中学校3年次における金融教育の実践とその結果分析を発表します。岡山県の倉敷市立玉島北中学校(前任校)と倉敷市立多津美中学校(現任校)の2校分の報告です。
玉島北中学校では、生徒に、自分が関心のある新聞記事をまとめてもらった後、テーマを自由に決めて「調べ学習」を行ってレポートを提出してもらいました。「調べ学習」の前後で、ほぼ同じ質問でアンケート調査を行い、生徒の意識の変化を分析しました。その結果、学習することによって、「経済の仕組み」について理解が進み、「安心感」が高まりました。今後「適切に行動できる」と答える生徒も増えました。しかし、「生活・家計」や「年金・保険」については、関心が高まった一方で、不安も高まっていました。年金や社会保険について、学習によって「生徒が問題に気づき、マイナス思考になって終わり」となってよいのだろうか、生徒が前向きに考えられるよう何か工夫する必要がある、とこの時は考えていました。
次に、多津美中学校では、「生きていくこととお金について」とのテーマで、ライフスタイルに関する学習をしました。
まず、中学3年までに自分にどのくらいのお金がかかっているのか予想してもらったうえで、実際にかかっていそうな金額を主な費目につき算出してもらいました。この学習の後、「親が私のためにこんなにお金を使っていたなんて知らなかった」、「たくさん勉強して親孝行しようと思った」といった感想が聞かれました。感謝の気持ちを持つという狙いを達成できたと思います。
また、結婚や育児など、将来かかる費用も考えてみました。この学習の後では、「老後、お金に困らないよう、お金の使い方に気をつけたい」、「人生にどれくらいお金がかかるかがわかって少し不安になった。将来のために勉強して、しっかり貯めないといけないと思った」といった感想が聞かれ、生徒が将来とお金について目を向けられるようになりました。
当初、私は「学習によって生徒のお金や経済に対する不安感を解消すべきであり、解消できるだろう」と思っていました。しかし、今は「生徒が不安感を持つのは、彼らが物事をしっかり捉えているからだ」と考えています。教員としては、生徒が不安や困難に対処するため、自分なりに考えて行動しようとする姿勢を育むことが大切だと考えます。また、当初は、「生徒の不安感が弱いことは良いことだ」と思っていましたが、現在は「不安感が弱い生徒は問題の深刻さが理解できていない可能性がある」と考えています。そのような生徒に対しては、問題を自分にとって身近なことと感じられるような教材で指導することが大切だと思います。
ワークショップ
参加者に、「生きていくこととお金について」の『社会人編』体験していただきました。25歳で結婚して共働きを始め、65歳で定年を迎えるまでの40年間を、10年ごとに4つのステージに分けた教材を使いました。生活、子育て・進学、住宅、イベントなどにかかる費用につき、プリントに記入していった後、グループで議論を行い、発表しました。参加者からは、自校にこの教材を取り入れる場合の目的・方法・課題に関する意見や質問のほか、改善提案も多く出されました。
これに対し小谷先生は、「先生方がそれぞれの目的意識・切り口で、自校に合った新しい教材を作ってください」とコメントされました。また、「指導の際、ライフスタイルに正解はなく、人によって違ってよいと生徒にしっかり伝えてください」と補足されました。
コメント
大杉昭英先生より、次のようなコメントがありました。
小谷先生の授業の一部を実際に体験され、シミュレーションにより金額が具体化し、今まで見えなかったものが明確になることを体感されたのではないかと思います。家計管理を学び、自分の生活を設計する学習、ライフスタイルを考えていく学習というのは、非常に意味のある学びだと思います。これをきっかけに、是非いろいろな形で教材開発をどんどん行っていただき、自校で実践していただきたいと思います。
学校での学びは、学校の中だけで役立つ、あるいはテストでいい点数を取れればよいということではありません。学校で学んだことを、日常生活においてうまく使えるか、働かせていくことができるかが問われるようになっています。今回の学習指導要領の改訂では「社会に開かれた教育課程」がテーマの一つになっています。これは、「学校での学びは、社会に結びついている」という提案だと考えています。金融教育で扱う題材や考えさせる課題などは、「社会に開かれた教育課程」という視点からも、とても有効な学習内容だと思います。是非実践し、効果を出してください。