2015年度 先生のための金融教育セミナー
【小学校・中学校向け】
4.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)/小学校分科会1
- 進行・コメント:
- 国士舘大学 北 俊夫 教授
実践発表およびワークショップ(1)
「ものやお金を大切にする心豊かな子供の育成を目指す授業づくり~『農作物販売プロジェクト』の取組を通して~」
福岡県八女市立矢部小学校 廣田 知良 教諭
実践発表
前任校の八女市立黒木西小学校で、平成25・26年度に金銭教育研究校の委嘱を受けました。まず子供たちの意識調査を行ったところ、子供たちには自分でお金を使う経験やお金を管理する経験が非常に少ないこと、お金やものを大事にしていない、または大事にしているかどうか分からないという子が4割近くいることが分かりました。この実態を踏まえ、『ものやお金を大切にする心豊かな子供の育成』を研究主題としました。
児童のお金やものに対する価値認識、計画性・判断力、労働観を育成するために計画的な指導を行うという構想の下で、年間指導計画を作成しました。その際、委嘱期間の終了後もこの取り組みを継続していくことができるように、指導計画をスリム化することに留意しました。指導内容は、金融広報中央委員会『金融教育プログラム』の「年齢層別の金融教育内容」を参考に、学校の実態に合わせて絞り込みました。また、授業づくりでは、問題解決の過程に沿って、「つかむ」、「しらべる」、「ふかめる」、「いかす」という段階を導入した指導過程を組み、体験的な活動、発表や表現の活動を全校的に取り入れました。
平成25年度の5年生では、総合的な学習の時間に『農作物販売プロジェクト』として、自分たちで作った農作物を自分たちで販売する学習を行いました。自分たちで作ったお米がどのような工夫をすれば売れるのかを考えながら、学級全体を一つの会社として、販売に向けた出荷作業や広告などの活動を進めていきました。また、販売体験の後、実際の収入からおおよその支出を差し引いて利益を算出したところ、一人当たりの時給が50円だったという結果になり、お金を得ることがいかに大変かということを子供たちは身を持って体験することができました。この体験を通して、「お金を得るには多くの時間と努力が必要だということが分かり、仕事をしている親に感謝しながら、ものを買うときは本当に必要かどうかを確かめてお金を大切にしていきたい」と作文で書く子もいました。この子供たちは、販売で得た利益を材料費に充てて卒業制作として学校正門の周辺の花壇を整備し、記念樹を植えるなど、大きく成長しました。
学校としての成果では、金融教育に取り組む過程で、指導計画を作成して学校としての指導体制を整えることができました。また、金融教育の視点を加えることで、子供たちの学習意欲が非常に高まるということも分かりました。
ワークショップ
「作ろう、私たちのお店」というテーマで、子供たちが実際に行った活動の一部を先生方に擬似体験していただきました。お店の名前を決めた後、店舗のレイアウトや米袋のパッケージデザイン、新聞に掲載する広告を、それぞれ担当を決めて書き出していきました。その後、グループ内でまとめ、発表していただきました。どのグループの発表にも、ユニークで面白いアイデアが盛り込まれていました。
本実践事例は、第11回金融教育に関する小論文・実践報告コンクール(2014年)優秀賞作品として当ホームページに掲載されています。
第11回金融教育に関する小論文・実践報告コンクール(2014年)
コメント
北俊夫先生より、以下のようなコメントがありました。
金融教育は関心のある先生だけではなく、学校ぐるみで取り組むことが子供にとって大事であることは言うまでもありません。学校としてどうしていくかをきちんと押さえ、指導内容を絞り込むことも大きなポイントです。年間指導計画では、学年レベルでどう取り組むかが具体的に計画されています。これから金融教育に取り組む学校や、今取り組んでいる学校は、この年間指導計画を基にその学校なりにアレンジすればいいでしょう。また、子供の実態に即して課題を把握してスタートしたことも、学校ぐるみで取り組めた一つのポイントです。さらに、農作物の生産と販売をつなげることで、キャリア教育の視点も踏まえて金融教育の質をより高めることができたと思います。
実践発表およびワークショップ(2)
「東白川に暮らす~産業体験を通して働くことの大変さ、工夫や誇りに気づく~」
岐阜県東白川村立東白川小学校 佐々木 亮 教諭
実践発表
本校の子供たちの特徴として、お金を使う機会が限られているためにお金の価値を実感することができない、ものや金銭を生み出した労働の尊さまでは思い至らない、また、村内に高等学校がないため、16歳になると寮・下宿生活で出納管理をしなければいけない子供が多いということが挙げられます。そこで、研究テーマを「そこに込められた気持ちがわかり、合理的に考えてものやお金を大切にすることができる児童の育成」としました。理解する力、見つめなおす力、実践する力の3つの視点を設け、それぞれ「ものや金銭、労働に関する正しい知識・認識をもつことができる」こと、「ものや金銭、労働に関わる自らの生活を見つめなおすことができる」こと、「ものやお金を大切にし、勤労を尊ぶ生活を実践することができる」ことを目標にしました。また、現在の教育カリキュラムで新たに金銭教育の時間を生み出すことは大変難しいため、今ある教育活動の中で金銭教育に関わるところを探しながら、全ての教育活動を通して意図的・計画的に実践を進めました。
その中の事例として、地域の指導者を活用した実践を紹介します。5年生の総合的な学習の時間では、東白川村にどんな産業があるのかを知り、地域の人々が身近にある豊かな自然に働きかけて様々な苦労や工夫をしながら生活していることに気付くとともに、仕事は大変だけれど自分の仕事や故郷に愛着や誇りを持って働いていることに気付いてほしいと思い、東白川村に特化した産業での職場体験とともに、地域の指導者を活用した指導の計画を考えました。職場体験を通して、大変な思いをしてまでも地域で仕事をしているのはなぜかについて子供たちで意見を出し合い、その後、地域で村おこしをしている方を講師に招き、働く思いを話していただきました。
6年生の総合的な学習の時間では、はじめに子供たちが村の人口減少などの問題を解決するためにどうしたらよいかということを考えてアイデアを出し合い、その後、実際にその問題に取り組んでいる地域の指導者を講師に招いて話を聞きました。先に自分たちでアイデアを考えることで、それと比べながら講師の話を聞くことができ、意欲的な学びにつながるのではないかと考えました。この学習を通して、子供たちは村おこしのために頑張っている方の思いを知り、自分たちも村のためにできることを頑張りたいという思いが高まったように思います。皆さんの地域にも、地域活性化など様々な目的で活躍している方がいらっしゃると思います。そういった人々に教育活動に協力していただくことは、そこに暮らす子供たちにきっとよい影響を与えるのではないかと考えます。
ワークショップ
「わが町、村の地域人材の発掘に向けて」というテーマで、自分の町や村の特産物は何か、その特産物の良さは何かということを踏まえて、特産物を作る人の願いや思いについて先生方に考えていただきました。その後、グループ内で情報交換の時間を設け、最後に各グループ1人の方に発表していただきました。ワークショップを通して、改めて自分の地域の特産物を見直すことができたので、そこから地域人材を見つけて、今後の金銭教育につなげることができるのではないかという感想も聞かれました。
コメント
北俊夫先生より、以下のようなコメントがありました。
地域の身近なところに目を向けて金融教育を実践したことで、産業に対する理解や関心を深め、職業観や勤労観を育むというキャリア教育が可能になりました。つまり、キャリア教育の視点から金融教育にアプローチした取り組みと言えます。金融教育において、自分の周りの地域がどうあるべきかということは非常に大事な要素であり、そこにも視点を当てているところが特徴的でした。その手だてとして地域の人材を活用しています。この地域の人材の活用は、今、学校教育全体に求められていることの一つです。地域の方を理解し、そして地域から学ぶだけではなく、学んだことを踏まえて自分が地域に対して何ができるのかを考えさせるというように、地域とともに教育に当たることが求められています。また、教育活動全体の内容を可視化し、教材や題材レベルで関わりがないかどうかを検討し、学校全体で取り組む体制を整えることも重要です。さらには、なぜ今、金融教育が必要かということを押さえることや、地域に目を向け専門的な知識を持っている方たちと一緒に教育を行うこと、さらには金融教育に関する様々な手引きを参考にすることで、より質の高い実践ができるのではないかと思います。