2015年度 先生のための金融教育セミナー
【高等学校・大学向け】
4.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)/高等学校分科会3
- 進行・コメント:
- 文部科学省 初等中等教育局 西村 修一 教科調査官
実践発表およびワークショップ(1)
「奨学金の返還と滞納」
愛媛県立大洲高等学校 仙波 鉄也 教諭
実践発表
商業科生徒の進学率の今と昔から、進学率が増加している様子がうかがえます。奨学金の貸与額、貸与人数も増加しており、これに比例して奨学金の滞納も増加し、社会問題にまでなっています。『金融教育プログラム』の中にある、高校卒業までに社会の中で生きる力として身に付けさせたい目標は、借入にあたって生活設計の中で返済可能かどうか確認することや、奨学金について試算できることです。『金融リテラシー・マップ』にも、同様の内容がうかがえます。私個人としても、ローンやクレジット、奨学金の返還と個人情報機関についての知識は、大学生よりも高校生で学習したほうが望ましいように感じております。商業科の場合、「経済活動と法」という科目が最も適していると判断し、授業に取り入れることにしました。
まず、アンケートを実施しました。その結果、「1カ月の貸与希望金額は5万円、返還期日は15年、利息3パーセント」で返還計画を立てることにしました。返還総額を把握するために、“返還シミュレーション”でも確認を行いました。次に、実際にライフイベント表とキャッシュフロー表を作成しました。自分と家族の年齢を19年先まで記入し、学生生活や卒業後のイベントを予測しながら、ライフプランを想像しました。
ワークショップを終えての本校生徒の感想は、「貸与総額と返還総額を比べてみると、差額が61万8,000円もあり驚いた。奨学金は借金だということを頭に置いて使わなければならないと感じた」「奨学金を借りる場合、計画を立てておかないと返せなくなる、と思った。必ず返還するために、自分に合った会社を選んで就職し、返還計画を立てていきたい」といったものでした。
成果としては、1つ目に、自分の将来をシミュレーションすることで、より良い人生を送るために必要な考え抜く力が養われ、長期的な視点からお金との関わりを推測できるようになったこと。2つ目は、世の中が抱える諸問題の解決に効果的である、発達段階に応じた金融リテラシーを身に付けさせることができたこと。3つ目は、問題解決能力の伸長。お金を計画的に管理するために必要な知識が身に付いたこと。4つ目は、学習意欲の向上。学びと社会を結び付けたことにより、自分の将来について真剣に考えて、主体的に取り組む様子がうかがえるようになったこと。最後は、自ら学ぶ姿勢と自立力が身に付いたことです。一方、課題は、ライフプランとキャッシュフロー表の作成に時間がかかりすぎることです。しかし、生徒自らが作った表を活用したほうが、より考察を深めることができるので、やはりこれを作る必要があると思います。家庭科の先生との協力、あるいはホームルームや総合的な学習の時間などとの連携があれば、実施しやすいと考えています。
ワークショップ
先生方には、「4年制大学に進学をして、日本学生支援機構から第2種の奨学金を毎月5万円ずつ借り、15年をかけて毎月2万円を返還する」という設定のキャッシュフロー表をお渡ししました。なぜ奨学金の返還が滞ってしまうのか。その問題点や対策について、先生方の意見をそれぞれ付箋紙に書いていただきました。その後、グループで話し合いながら、お互いの意見を確認し合い、最後に発表していただきました。「返還年数を再計画する必要がある」、「予定外の出費に備える必要がある」など、総じて「返還計画も含めてライフプランを作ることが大事である」という意見が多く見られました。
コメント
西村修一先生より、次のようなコメントがありました。
今回は奨学金を題材にして金融教育を展開されました。子供たちにとって、人生最初の借金は奨学金です。金融を身近に感じさせるという点で、非常に有効な方法だと思います。
商業科ですので、こういうアプローチをしたらいいのではないかと思ったところがあります。奨学金を借りて大学に行きたい子供に、「あなたは金融機関の立場として、どのような助言をしますか?」と聞いてみる。そういう切り口で子供たちに考えさせることによって、いかにも商業としての金融教育という形が、しっかり築き上げられるのではないかと思います。また、商業としての金融教育と組み合わせて、家庭科の中でも奨学金を題材にした金融教育を展開していくと、立体的で奥行きのある金融教育ができるのではないかと思ったところです。
実践発表およびワークショップ(2)
「長期型インターンシップ~おもてなし活動・ホテル実習~」
鹿児島県立霧島高等学校 新留 崇夫 教諭
実践発表
1点目の「金融教育研究グループの活動」ですが、霧島高校は国分中央高校と財部高校と連携して活動を行っています。具体的には、教師の学校横断的な組織を作り、金融教育の研究を行っております。この研究の成果を踏まえて、今度は子供たちのグループが、「環霧島高校生会議」という名称で実践を行います。国分中央高校は、「霧島茶」のパッケージデザインを行い、地域の企業と連携して特産茶の販売を行い、クルーズトレイン「ななつ星」の外国人観光客に対して、英語でおもてなし活動を行っています。また、サプリメントの会社と連携して、健康サプリの開発をしています。霧島高校は、大手コンビニエンスストアと連携して、商品開発を行いました。6週間の販売でしたが、売上金額は約700万円に上りました。財部高校も家庭科と連携して商品開発を行い、地元の道の駅で販売をしています。
2点目は、「おもてなし活動」です。1学期に鹿児島県の観光スポットである嘉例川駅で、「はやとの風」から降りてこられる観光客の方に、子供たちが特産茶の「霧島茶」で、「おもてなし」を行っています。バスの観光ルートにもなっていますので、バスツアーのお客さまや地域の方との触れ合い活動もしています。キャリア教育に関する分野の意義・目的は、働く意義と職業選択、生きる意欲と活力、社会への感謝と貢献とあります。「おもてなし活動」は、地域の方と触れ合い、おもてなしの心を学ぶことから、金融教育のキャリア教育分野を包括していると考えています。
3点目は「ホテル実習」です。実習先は、提携先のホテル5社です。これは2学期に行う活動で、9月から12月までかけて、計10回参加しています。最初の2回で霧島温泉についての歴史、鹿児島の観光についての歴史を勉強し、3回目からは客室清掃などの実習活動になります。企業訓練をイメージしていますので、従業員と同じ実践の動きになります。この活動の目的は、発信力、傾聴力、柔軟性、状況把握、規律性を身に付けることです。
この活動を省察してみるとわかることは、地域の方は観光に携わる人材の育成を考えているということです。学校も長期型インターンシップを活用して、子供たちの社会人基礎力を上げたいと考えています。今後は、本格的な企業内訓練を想定しながら、地域産業界に貢献できる人材を育成したいと考えています。このように複数の学校が連携して取り組みを行っている地域は少ないと思います。地域に根づいた金融教育を実践するために、子供たちの実態や変化に合わせたカリキュラムデザインを行い、地域や子供たちに還元していきたいと考えております。
ワークショップ
3校でどうやってカリキュラムを作ってきたかということを踏まえて、カリキュラムデザインのワークショップを行いました。先生方に、「A.自分の姿」、「B.将来の自分の姿」を紙に書き込んでいただいた後、それぞれの学校の金融教育カリキュラムデザインについて、プランニングシートに科目ごとに色分けされたカードを貼りながら、現在の取り組みを確認していただきました。金融教育が学校の中で定着するために、どういう形をデザインする必要があるかを現状からイメージし、AからBに行くための、「C.カリキュラム開発」や、「D. 具体的な方策」に触れていただきました。その後、グループの中で他校の先生との交流の時間を設け、金融教育の取り組みについて意見交換を行いました。
コメント
西村修一先生より、以下のようなコメントがありました。
金融教育を生かして、実践的な活動につなげていく取り組みについて、今は「何を学ばせるか」ということだけではなく、「何をできるようにするのか」といったことも非常に大切です。たとえば商品開発や販売実習を行う際、子供たちに販売計画や仕入れ計画を立てさせ、活動資金をグループごとに提案させる。その提案に実現性があると思ったところには少し多めに活動資金を提供し、それを元に子供たちに活動させると、金融教育と実践的な活動とのつながりはかなり強くなると思いました。また、カリキュラムデザインについては、それぞれの教科の特性を生かしてアプローチをしていくことによって、素晴らしい金融教育の形が出来上がると思います。そのためには、他の教科ではどういう形の金融教育ができるのかを知ることが大切です。先ほどのようなカリキュラムデザインは、金融教育に限らず、いろいろな場面で活用できますので、学校に持ち帰って取り入れていただけると、素晴らしい学校教育ができると思います。