2015年度 先生のための金融教育セミナー
【高等学校・大学向け】
3.鼎談
「『金融教育プログラム』年齢層別目標の改訂と活用のポイント」
国立教育政策研究所 大杉 昭英 初等中等教育研究部長
青山学院大学 小高 さほみ 非常勤講師
金融広報中央委員会 事務局長 髙橋 経一
本年3月に発行された『金融教育プログラム「学校における年齢層別の目標」』について、改訂の背景と趣旨をお伺いしました。大杉氏は、「平成19年発行の『金融教育プログラム』は、平成10年版の学習指導要領に基づいており、現行の平成20年版の学習指導要領に対応した新しい形に衣替えするということです。また、中教審では、現在新教育課程が検討されており、それを踏まえ資質・能力を重視していく、世界的な教育改革の動向に沿って作成されています。つまり、学習内容(どういうことを学んでいくか)だけではなく、学習成果(ラーニング・アウトカム)を重視するところにポイントがあるのです」と述べられました。続いて注目点をお伺いしたところ、小高氏は三つのポイントとして、1.キャリア教育に関する分野に、持続可能という言葉が加わったこと、2.消費生活・金融トラブル防止に関する分野の目標が増加したこと、3.生活設計・家計管理に関する分野で、新たに事故・災害・病気などへの備えという関係が加えられたことを説明された上で、「3.11東日本大震災以後、リスクをあらためて問い、考え続けていることと思います。予期せぬ困難な出来事に遭ったとき、地域の人々と助け支え合ったり、社会的支援を求めたりすることができるように、具体的な文脈の中で、その解決方法を探っていくことを学ぶことが必要ではないかと思います」と述べられました。
次の視点として、『年齢層別目標』を活用する際のポイントをお伺いしたところ、大杉氏は「中心にある四つの基本概念を13項目に分け、さらにそれを38分野に分けて作成された236の目標が12学年に亘って解説してあります。これらの目標について学校段階に応じた発展的な示し方をしていますから、この236の目標群を、できる限り達成していただくことによって、金融教育が効果的に実践されるのではないかと思います」と述べられました。小高氏は、「先程の来賓挨拶で文科省の米原学校教育官が、「次期学習指導要領の改訂では、何ができるようになるか、何を学ぶのか、そしてどのように学ぶのかという、この3点が柱です」とおっしゃっていましたが、『年齢層別目標』を活用する際には、この順番は参考になると思います。つまり、授業をデザインするときに、何を教えるのかではなくて、何ができるようになるのかというところから入っていくということにつながるように思います。まずは目標から高校生や大学生ができるようになる姿をイメージし、そこで何を学ぶのか、学習活動は何が適しているのかを検討し、授業を構成していくということになるかと思います」と述べられました。また、『年齢層別目標』パンフレット17ページから19ページで、教える側へ向けた概念の整理がなされたことについて、活用の仕方に関するアドバイスをお伺いしたところ、大杉氏は、「ここで書かれているのは、『念頭に置いていただきたい概念』として、今回新たに設定されたものです。先生方が概念構造をきちんと持っていれば、より効果的・効率的に、子供たちの学習を導いていくことができるのではないかということで、このような形で設けられたのです。ここでは中心的な概念として、持続可能性(サステイナビリティ)や公正性(フェアネス)、生きる力などが設定されています。17ページ以降は、概念が構造化した形で示されていると理解していただくのがいいと思います」と述べられました。
3番目の論点として、アクティブ・ラーニングを使いながら、金融教育を効果的に実践するためのコツをお伺いしました。大杉氏は、「アクティブ・ラーニングとは、主体的・協働的に課題の発見、解決に取り組むように導く学習活動です。金融教育には、ワークシートを使って話し合ったり、何を買えばいいか、これはどうすればいいかを決定をする学習活動が含まれており、すでにそうしたアクティビティを伴っています。これまでやってきた金融教育の内容を考えながら、実践を振り返っていただいたら、アクティブ・ラーニングの姿が明確になるのではないかと思います」と述べられました。小高氏は、「学習環境をどうデザインするかということが今まで以上に求められているように思います。異なった意見や文化背景を持つ相手と、問題解決のために議論したり、実践したりすることが、アクティブ・ラーニングの一つの特徴だと思います。でも最初は、ガイドブックなどに紹介されている学習活用の一つを取り入れて授業をデザインしてみることから始めてはいかがでしょうか」と述べられました。
最後に、本日お集まりの先生方へのメッセージを、お二人からいただきました。大杉氏からは、「今、新たに大事にしていこうと考えられているのが、協働的問題解決能力です。課題を発見して解決する、問題解決的な学習が大切であるとよく言われてきましたが、金融教育には協働的という要素も加えていくことが大事になるかと思います」とのメッセージをいただきました。小高氏からは、「他者と協力しながら問題を解決していく過程で、自分にはない知識や考え方に触発されるとき、気付きがあります。金融教育を一つの軸にして、教科間で連携して指導案を考える。あるいは総合的な学習、キャリア教育で何ができるのかを、他の教科や専門の先生方とともに作り上げていく。そういった実践が子供たちの学びを豊かにし、また、子供たちを実社会に送り出す、高校・大学教員の役目でもあると考えております」とコメントされました。