2015年度 先生のための金融教育セミナー
【高等学校・大学向け】
4.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)/大学分科会
- 進行・コメント:
- 横浜国立大学 西村 隆男 教授
実践発表およびワークショップ(1)
「大学生のための金融経済教育」
金沢大学 松浦 義昭 専任講師
実践発表
金融教育の授業は毎年、後期(10月から2月まで)に行っています。対象学生は経済学類を中心に大学2年生から4年生までです。『金融リテラシー・マップ』が授業の軸であることと、アクティブ・ラーニングで金融リテラシーを習得することが特徴です。教員の一方的な講義だけではなくて、グループ学習など学生参加型の討論や発表を取り入れ、授業中に金融広報中央委員会の「知るぽるとホームページ」にスマートフォンあるいはパソコンでアクセスして診断ツールやシミュレーションを活用する授業も行いました。その際、『金融リテラシー・マップ』の4分野8分類に基づき、8つのワークショップを設けました。適切な収支管理について学習する際には、大学生のための生活設計ゲームを使用しました。
『金融リテラシー・マップ』をベースとしつつ、学生自身が学んだ知識を活用してみる状況を作り出すべく学生参加型授業を取り入れたところ、その効果は非常に大きいものがありました。
授業の前後には理解度の確認のため4択問題に取り組ませ、どの程度この授業の内容が理解できたかを確認できるようにしました。さらに授業の予習用として書き込み式ワークブックも活用しました。
学期の初めと終わりには、128問の4択問題のテストを実施します。この結果は学生にフィードバックし、成績評価にも反映します。
授業について学生にアンケートを実施したところ、「こうした金融リテラシー、金融教育の授業をぜひ継続させてほしい」あるいは「学校ではなかなか学ぶ機会のないお金の話はとても興味深い」といった感想がありました。
今後の課題として3点挙げます。まず、1点目は授業の効果測定。先ほどの128問の4択問題を実施して、学生の強いところ、弱いところを探り、授業の改善に役立てたいと考えています。
2点目は授業内容の検討です。来年度から、学校の授業が2学期制から4学期制に移行する中で、何を重点的に教えるべきかという検討も今後の課題です。
3点目は家計簿アプリの活用です。現在、8分野のうちでどの部分が強いか、弱いかを把握することができる家計簿アプリを学内研究者と共同開発しています。
ワークショップ
「大学における金融教育の普及に向けて」というテーマのもとに、「『金融リテラシー・マップ』の内容やマップに対応した授業や教材について理解を深める」、「大学における金融教育の意義と必要性、現在の取り組みなどについて意見交換を行う」、「このワークショップを通して大学において金融教育に取り組む関係者の間で、気軽に情報交換できる関係を作る」という3つの目標を設定し、4グループに分かれて意見交換や議論を行いました。
また、「大学生のための生活設計ゲーム」を実践しました。残高を100万円と設定し、春夏秋冬のイベントが書かれたカードを先生方に引いていただきました。
その後、グループの中でそれぞれの先生方が取り組んでいる、あるいはこれから取り組もうとしている金融教育について意見交換を行いました。また金融教育を進めるために推進力となる要因、抑制する方向で働く要因についても話し合っていただきました。
コメント
西村隆男先生より、次のようなコメントがありました。
私自身も大学の共通科目、いわゆる教養教育科目の中で金融リテラシー入門という授業を始めて3年になります。松浦先生のお話、そして皆さんの発言を聞きながら、大学で金融教育を展開する難しさを感じました。意見発表でもあったように金融リテラシーは金融論や経済学としては位置付けにくく、また、例えば社会科教育や家庭科教育などに落ち着かせようと思っても、なかなか難しい部分があります。経済学部、経営学部でも金融論の一部としてだけではなく、個人が生きていく上で必要な金融の知識やスキルを学ぶことによって企業金融についてもより詳細に分かってくるという展開にうまく組み込んでいって欲しいと思いました。
実践発表およびワークショップ(2)
「教職課程における金融教育」
青山学院大学 小高 さほみ 非常勤講師
実践発表
教職課程において、金融教育の課題は、金融教育を学習した経験がないこと、金融教育の位置付けを学ぶ機会が少ないことです。金融教育を体系的に学ぶ科目はありませんが、さまざまな切り口で金融教育を取り上げることができるのではないかと考え、「教科に関する科目」や「教職に関する科目」で取り組んでおります。
本日は、ある私立大学の「教師論」という教職の意義等に関する科目(中学・高校の教員免許状取得を目指す3年生対象、半期2単位)での実践例についてお話ししたいと思います。15回の授業計画の中で前半4回目までは、教師の日常生活を生徒側ではなく、教師側から理解していくことを中心に展開し、第5回から第8回までは、授業をデザインすることを授業実践例から学ぶようにしました。授業実践例は、教科が異なる受講生たちが共に学べるように、総合的な学習の時間における金融教育にしました。
ここで、映像教材DVD「見てわかる!金融教育」を活用しました。DVDは、授業の「導入、展開、まとめ」がどう進んでいくのかも、コンパクトにまとめてあります。例えば、導入では「毎月いくらお小遣いを使っているかを記入しましょう」と生徒たちの生活についての発問があり、学習への動機づけや導入の工夫を学ぶことができます。展開の前半では、生活をするためにどのようなお金が必要かという課題について、生徒の発言に対する先生の応答や板書なども観察できます。前半で基本がわかり、後半の問いにつながっていくことや、生徒たちが実際にワークシートを活用しながら、どのように学習しているかということもわかりやすくまとまっています。
そして、実践者のインタビュー映像からは、教材研究や願いなど、授業をデザインする教師の姿を学ぶことができます。
一方、視聴後は、教科横断的な教育課題としての金融教育への関心も高まります。そこで、第9回目からの授業づくりでは、自分の教科のどの内容や要素が金融教育と関わりがあるのかということにつなげ、教科または総合的な学習の時間の授業案を検討していきます。
このように金融教育の実践例を活用した教職科目の試みは、多面的な学習が可能となるように思います。
ワークショップ
先生方に授業を作る、デザインするということを参加型授業の中で理解していただくため、アクティブ・ラーニング型の授業をデザインするという課題を提示しました。そのうえで、授業デザインの方法の一つとして、教えるべき内容を網羅的にカバーすることに中心を置く方法ではなく、学習者中心アプローチを紹介しました。そして、学習活動を構造化する方法の事例を参考にして取り組んでいただきました。
ステップ1では班ごとに、教職の専門科目の一つを決定し、授業を通して、学生にこんな姿になってほしいというイメージを描きました。ステップ2では、年齢層別目標から教育目標を一つ設定し、どんな教材を使って、どんな学習活動をするのかを班ごとに話し合い、最後に発表を行いました。携帯電話の契約やゴミ問題など、学生の身近にある事例を題材に使うなどの実践例の発表がありました。
コメント
西村隆男先生より、次のようなコメントがありました。
学習を意義あるものにしていく、とりわけアクティブ・ラーニングをどう展開していくかということは今日、大学にとっても大きな課題になっています。経済事象や経営事象であったり、環境事象であったり、諸々のものを学生の意識の中に埋め込んで、かつ彼らの行動を変容していかないといけません。そのために、さまざまな工夫がなされているということが実践発表とワークショップを通して分かりました。
自分が教えている金融リテラシーの授業にもいろいろな分野の学生がいます。最近はクラウドファンディングや社会的責任投資などの話をすると学生はとても興味を持ちます。こういった事柄は、実際に専門としての金融論を学んでいく中で、学生にとって取り組み易い素材だと思いました。