2015年度 先生のための金融教育セミナー
【高等学校・大学向け】
2.基調講演
「生徒・学生の生きる力と学校における金融教育」
国立教育政策研究所
大杉 昭英 初等中等教育研究部長
本年3月に発行された『金融教育プログラム「学校における金融教育の年齢層別目標」』では、「生きる力・自立する力」、「社会とかかわり公正で持続可能な社会の形成を意識し行動する力」、「合理的で公正な意思決定をする力・自己責任意識」、「お金と向き合い管理する力」という四つの中核となる力を育て、より良い生活と社会作りに取り組む金融教育を進めていこうとしています。カリキュラムの観点から見ると、現在中教審で検討されている資質・能力を重視したカリキュラム編成の考え方と軌を一にしたものとなっていると思います。これまでは、「何を教えるのか」という、コンテンツを中心に考えられていましたが、今日世界的な教育改革の潮流は、どのような力を身に付けるのかを考えて、どういう内容を、どう学んでいくかということが重視されているのです。ただし、こうした資質・能力は、何の知識もなしに育つものではありません。資質・能力と知識は車の両輪ですから、どういう知識を使って、どういう資質・能力を育てるかを考える必要があります。
次に具体的な学習方法についてですが、OECDでは、こうした資質・能力は特定の文脈の中で働くと言っています。つまり、学習者は単なる観客ではなくて、実際の状況に身を置いて、そこで問題解決を図るプレーヤーとして学ばせる必要があるというのです。さらに資質・能力を育てるために、主体的、行動的、能動的、協働的な学習活動を目指した、アクティブ・ラーニングが中教審で議論されています。そして、発見学習、問題解決学習、体験学習、あるいはディベートやグループワークなどが有効なアクティブ・ラーニングの方法であると言われています。すでに金融教育では日常生活上の問題を取り上げ、いかにより良い生活と社会を作り上げていくか能動的な活動を通して考えさせるなど、アクティブ・ラーニングを先取りしており、今後ますます充実させていただきたいと思います。
最後に、金融教育の教材開発について述べてみたいと思います。私はどんな授業も面白いものでないといけないと考えています。そのためには内容に具体性がないといけません。そして、知識の活用を重視することが必要です。また学習者が能動的に活動できる内容であることが大切です。イギリスの「シチズンシップ」という教科書の中にも、スポンサーの立場でコマーシャルを作らせる能動的な学習活動が書かれています。こうした学習により、消費者として商品購入の際に何に気を付ければいいかが分かってくると思います。このように、具体性、知識活用性、活動性に注目しながら、学習することが金融教育においても重要になると思います。