やさしいデリバティブ
2 先物取引
2-4 先物取引で発生する損益
先ほど述べた「受渡決済」、すなわち、あらかじめ決められていた満期日に約束していた価格で、対象商品である原資産を授受する決済を行う場合の、損益の考え方について整理していきましょう。
- 先物取引で約束どおり商品を買った場合は、その商品をすぐに市場で売る
- 他方、約束どおり商品を売る場合は、売るための商品をそのときの市場から購入する
上記を満期日に行った場合、損益は満期日における、その商品の市場価格と当初約束していた価格の高低関係で決まってきます。従って、満期日にならないと損益は確定しません。
先物での買い手の損益
先物での買い手は、予想どおり満期日の市場価格が約束の価格よりも値上がりすれば、先物の実行により約束した価格で買う商品を、それよりも高い価格で市場に売ることができるので、その差額分の利益が出ます。
逆に市場価格の方が低いと損が発生します。
- 満期日の市場価格>約束の価格 ⇒ 利益
- 満期日の市場価格<約束の価格 ⇒ 損失
先物での売り手の損益
反対に先物での売り手は、予想どおり満期日の市場価格が約束の価格より値下がりしていれば、先物の実行により約束した価格で売る商品を、それよりも安い価格で調達できるため、その差額が利益になります。
逆に市場価格の方が高くなると、逆鞘になり損失が発生します。
- 満期日の市場価格>約束の価格 ⇒ 損失
- 満期日の市場価格<約束の価格 ⇒ 利益
ペイオフ・ダイアグラム
買い手、売り手、それぞれの先物取引の損益を図で確認してみましょう。
このような損益図のことを先物のペイオフ・ダイアグラムといいます。右上がりの線が先物の買い手の損益、右下がりの線が売り手の損益を示しています。
QUIZにチャレンジ No.1
カネオさんは、先物取引でコーヒー豆を1年後に買う約束をし、その予約価格は10万円です。1年後のコーヒー豆の市場価格の変化を想定して、カネオさんに発生する損益をそれぞれ計算してみましょう。
Q1.1年後のコーヒー豆の市場価格は12万円になりました。
Q2.1年後のコーヒー豆の市場価格は9万円になりました。
先物取引のシミュレーション
先物取引の例および先物取引を用いた金融商品
為替予約
為替予約は、将来のドル等外国通貨の外国為替換算レートを現在決めてしまう取引で、為替変動リスクのヘッジに使うことができます。
例えば、3カ月後にアメリカに旅行に行く予定を立てていて、出発前に円をドルに換金するつもりだとします。
ところが、ここしばらくドルと円の為替相場は不安定で、円をドルに交換する頃には円安が進むかもしれません。円安が進めばそれだけ交換したときのドルが少なくなってしまいます。
この問題に対処する方法として、為替予約があります。為替予約を行うことで、この場合の円安進行の不安はなくなります。
ただし、予想とは裏腹に相場が円高になっても、そのメリットが受けられなくなることには注意が必要です。
なお、為替予約であらかじめ確定できるレートは、預金預入時に円貨を外貨に交換するレートと、預金満期時の払い戻しに外貨を円貨に交換するレートのみに限定しています。
取扱金融機関
一部の銀行が、外貨建て定期預金をしている人を対象に取り扱っています。
日経平均株価指数先物取引
日経平均株価指数を対象にした先物取引で、大阪取引所に上場されています。
3カ月後や6カ月後といった、現時点で決めた将来の満期(限月)に、現時点で決めた日経平均株価指数で取引します。満期までの間に反対売買をして差額の受け渡しによる決済を行うことができます。
満期まで反対売買しない場合も、原資産が「指数」なので商品と代金の受け渡しによる決済はできません。そのため、取引所によって発表される決済指数を用いて、差額の受け渡しによる決済が行われます。
取扱金融機関
証券会社が取り扱っています。
インターネット取引も可能な証券会社も出てきています。また、指数先物取引は取引代金が大きくなるため、預かり資産などで取引の制約を設けているところが多くあります。
なお、取引参加者は機関投資家だけでなく、最近は徐々に個人にも広がりつつあります。
金・商品先物、商品ファンド
商品先物は貴金属(金、プラチナ等)、穀物(小麦・大豆等)などの商品相場の価格変動を対象にした先物取引です。最近、取引できる商品が拡大し、また、インターネット取引も可能になっています。
当初証拠金を払い込む必要があります。商品ファンドは、商品や商品先物などに投資をする投資信託です。
取扱機関
商品によって異なりますが、商社や商品取引会社、銀行などで扱っています。
ファンドによっては10万円程度から購入できるものもあり、個人にも利用しやすくなっています。
デュアル・カレンシー債
デュアル・カレンシー債とは、当初の債券購入代金の払い込みと途中の利払いが円建てで行われ、償還元本が外貨建てとなっている債券のことです。
決められた為替レートで償還時に円を外貨に交換するという、為替予約取引が組み込まれています。
償還時に当初より円安になっていれば、実質的に円建て換算したときの受取額が増加しますが、反対に円高になっていれば、円に転換したときの受取額が減ってしまいます。
取扱金融機関
証券会社が扱っています。
過去、円安進行時に発行が相次ぎましたが、最近は少なくなっています。
QUIZにチャレンジNo.2
次の文章について”正しい”か”誤り”かどちらかを選んでください。
Q1.先物取引の売り手は、約束の価格よりも対象商品の価格が上昇すると、その分利益となります。
- 正しい
- 誤り
Q2.3ヵ月後に購入予定の商品について、値上がりリスクに備えておくため行う先物取引は「買いヘッジ」と呼ばれます。
- 正しい
- 誤り
Q3.100万円をドルに替える為替予約をしておくと、将来円安が進んで交換して得られるドルが少なくなる心配はなくなりますが、円高によるメリットが得られるチャンスもなくなります。
- 正しい
- 誤り
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