やさしいデリバティブ
3 オプション取引
3-5 オプション取引活用の例
ヘッジング
将来、ある商品を売買する予定がある場合に、あらかじめオプションを購入しておけば、価格変動リスクに備えることができます。
将来、商品がいくらになるか分からない状況で、損失を負うリスクを限定させつつ、利益を得るチャンスも残しておくことができるので、効率的なヘッジ手段として活用されます。
通貨オプションの例
通貨オプションを例に考えてみましょう。例えば、3カ月後に円をドルに換金する予定があるものとします。ただし、この間に円安が進んで、交換できるドルが少なくなってしまうことが心配です。
この問題に対処する方法として、先に為替予約を紹介しました。為替予約の場合、円安が進むことに伴う不安はなくなりましたが、円高のメリットまで諦めなければならないデメリットがあります。
為替予約
このようなとき、通貨オプションは、円高になったときのメリットも残しつつ、円安で損をすることはヘッジできるので、とても有効です。
例えば、ドルをあらかじめ決めた120円で買うコールオプションを買っておき、3カ月後のドルと円の為替レートが120円より円安になったら権利を行使します。
コールオプション
これで円安によって損をしなくて済みます。また、120円より円高であれば権利放棄し、市場の為替レートでドルを買えばよいのです。
オプション取引を用いて、現在保有している資産の値下がりリスクに対処することができます。
プロテクティブ・プット
プロテクティブ・プットとは、株式などを保有していて価格下落による損失が懸念されるとき、その資産の保有と並行して、プットオプションの買いを仕掛ける方法のことをいいます。
例えば、株式を保有していて将来値下がりが予想される場合には、市場の株価が将来値下がりしたときに利益が出るプットオプションを買い、リスクヘッジする方法があります。
プットオプション
この場合、保有株式の値下がりによる損失を、プットオプションでの利益が埋め合わせる形となります。このような、資産保有とプットオプションの買いを組み合わせる方法を「プロテクティブ・プット」と呼びます。
保有原資産に発生する値下がり損を限定しつつ、値上がり時のメリットが受けられます。
先行きの予測に応じた投資
将来、原資産の市場価格が変動する見通しや投資の目的に応じ、複数のオプションを組み合わせ、さまざまな投資戦略を立てることができます。
グラフを使って例を挙げてみましょう。
値上がり予想のとき
原資産の市場価格の値上がりが予想される場合は、コールオプションを買えば、市場価格の上昇に応じて利益を得ることができます(予想に反し市場価格が下落しても、損失は限定されます)。
このほか、「ゼロ・コスト・オプション」という方法もあります。この「ゼロ・コスト・オプション」は、コールオプションの買いとプットオプションの売りを同時に保有します。
コールオプションの買いで支払うプレミアムと、プットオプションの売りで受け取るプレミアムが同額であれば、2つが相殺されて実質的にプレミアムのコストをかけずに、原資産価格が値上がりしたときに無限大の利益を狙える戦略です。
オプション・プレミアム
一方、予想に反し市場価格が下落すると、損失が発生し、この損失は原資産の市場価格の下落に伴い無制限に拡大します。
値下がり予想のとき
原資産の市場価格の値下がりが予想される場合は、通常の方法で利益を期待することはできません。
しかしプットオプションを買えば、原資産の市場価格の下落に応じて利益を得ることができます(予想に反し市場価格が上昇しても、損失は限定されます)。
値下がり予想の場合も、「ゼロ・コスト・オプション」が用いられることがあります。
「ゼロ・コスト・オプション」であっても、オプションの組み合わせは値上がり予想の場合と異なり、プットオプションの買いとコールオプションの売りを同時に保有します。
プットオプションの買いで支払うプレミアムと、コールオプションの売りで受け取るプレミアムが同額であれば、2つが相殺されて実質的にプレミアムのコストをかけずに済みます。
原資産の市場価格が下落したときに、利益を得られる戦略です。一方、予想に反し市場価格が上昇すると、損失が発生し、この損失は原資産の市場価格の上昇につれて無制限に拡大します。
停滞を予想するとき
原資産の市場価格が横ばいで推移すると予想される場合、通常の方法では利益を得ることは困難です。しかし、この場合でも、オプションを使えば、利益を上げることが可能となります。
具体的には、同一限月の行使価格が等しいコールオプションの売りとプットオプションの売りを同時に仕掛ける「ショートストラドル」という方法です。
ショートストラドル
ショートストラドルとは、原資産の市場価格が大きく動かないときに利益が得られる戦略です。
見込みが外れれば、損失は無限大となるためリスクは大きいのですが、原資産の市場価格の値動きが一定の範囲内であれば、当初受け取ったプレミアム相当が利益となります。
大きな変動を予想するとき
さらに、原資産の市場価格が、値上がりか値下がりかの方向は不確かですが、大きく変動しそうだと予想される場合に利益を得る方法もあります。
これは、コールオプションの買いとプットオプションの買いを同時に仕掛ける「ロングストラドル」という手法です。
ロングストラドル
「ロングストラドル」では、同一限月の行使価格が等しいコールオプションとプットオプションを同時に保有します。
原資産の市場価格が上がるか下がるか分からなくても、大きく変動しさえすれば利益が得られる戦略です。損失は当初のプレミアムの支払金額に限定される一方、見込みどおり大きく変動すれば利益は無限です。
他にもさまざまな投資戦略がある
これらの他にも、取引単位数を増やしたり行使価格を変えたりすれば、さまざまな投資戦略を組み立てることができます。
将来の見通しや、自分のリスク許容度・投資スタイルに合わせて選択できます。
ただし、実際の取引に際してオプションの売りを組み込む場合は、取引当初、証拠金を払い込まなければなりません。そのため、一定の資金が必要となることには注意が必要です(オプションの買いだけの場合は、証拠金は必要ありません)。
オプション取引の例およびオプション取引を用いた金融商品
キャップ付ローン
変動金利型ローンでは、金利の上昇に伴って利息の支払い負担が増える心配があります。
「金利上昇に伴う負担増は避けたいけれど、長期固定金利の借り入れも利息が高いからイヤだ」という人に好まれるのが、支払金利の上限(キャップ)が設定されているタイプの変動金利型ローンです。
キャップは金利のコールオプションです。あらかじめ決めておいた金利水準(キャップレート)より金利が上昇すれば、上回った分だけ利息額を受け取ることができます。変動金利での借り入れとキャップを組み合わせて、上限金利付の借り入れにすることができます。
金利のコールオプションの買いが組み込まれていますので、金利水準が一定ラインを上回ると、その分の利息を受け取ることができ、実質的に利払い負担の上限になっています。
支払利息は、通常の変動金利型と比べて、オプション・プレミアムの支払い分ほど高めになります(変動金利よりは高く、長期固定金利よりは低い)が、金利上昇リスクをあらかじめヘッジできます。
オプション・プレミアム
取扱金融機関
現在、一部の銀行が住宅ローン限定で取り扱っています。
個別株オプション
個別株式のオプション取引です。現在、複数の個別銘柄のオプションが、取引所で上場取引されています。
また、個人にも取引しやすいカバード・ワラントもあります。カバード・ワラントとは、オプションを小口に証券化した有価証券のことです。
取扱金融機関
個別株オプションは大阪取引所で上場取引されています。また、カバード・ワラントは、一部の証券会社がいくつかのリスクレベルを用意し、取り扱っています。
株価指数オプション
日経平均株価指数やTOPIX(東証株価指数)を対象にしたオプションです。いずれも、大阪取引所で上場取引されています。
日経平均株価指数オプションの日々の値動きは、主要な経済新聞の市況欄で公表されています。
EB(他社株転換社債)
社債に個別株式のプットオプションの売りが組み込まれており、株価が一定ラインを下回ると債券の償還は額面金額ではなく、株式で行われます。プットオプションのプレミアム分、クーポン(利息)が高く設定されています。
高いクーポンを受け取れる点が投資家にとっては魅力的ですが、対象株式の価格が一定価格を下回ると、償還が株式で行われるというリスクがある商品です。
取扱金融機関
証券会社が取り扱っており、個人投資家に向けても販売されています。
「4 スワップ取引」へ