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2016年度 先生のための金融教育セミナー

【小学校・中学校向け】

3.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)/中学校分科会2

進行・コメント:
文部科学省初等中等教育局 望月 昌代 視学官

実践発表およびワークショップ(1)

「買い物アドバイザーになろう~カメラの選択・購入を検討しよう~」
鳴門教育大学附属中学校 合田 紅花 教諭
徳島県吉野川市立山川中学校 吉兼 悠子 教諭

実践発表

徳島県中学校技術・家庭科研究会では、平成26年度の全国大会のテーマ「様々な問題と向き合い、解決する力を育む技術・家庭科教育~『深く考える授業』の創造~」であった「深く考える授業」の研究を重ねてきました。本日はそのうち消費生活に関する研究内容をご紹介します。

学習前に行ったアンケート調査では、生徒の7割以上が商品購入で失敗したことがあると回答し、深く考えずに品物を購入していたり、使用することを想像して購入することができていないことがわかりました。この結果を踏まえ、主題は、「商品の選択・購入及び活用を検討することを通して課題に気づき、授業で習得した知識及び技術を活用して、自立した消費者として主体的に意思決定できる能力を育てる」としました。また、「身近な商品の選択・購入及び活用について深く考える授業を行い、そうした授業に基づいた実践をするように促せば、自分や家族のよりよい消費生活を目指し、置かれた状況を踏まえてよりよく解決する力を身につけた生徒が育つであろう」という仮説を立てました。

深く考える授業は、生徒が自ら課題を把握して目標を設定する段階、課題へのイメージを持つ段階、具体的な解決策を決める段階を経て、教師から新たな設定条件が加えられて再考し、最適な解決策へ高める段階、最適な解決策に至った過程を共有し新たな課題に気づく段階という5段階から成り立っています。

本日説明するのは、買い物のトラブルなど消費者問題について学習した後、「買い物アドバイザーになろう」という目標を立て、カメラの選択・購入を検討する授業です。生徒たちはまず、教師が用意したカタログから3つの商品を選び、自分の購入したいカメラを決めます。ワークシートには、どのような視点でカメラを選んだのかを記入する欄を設け、思考過程が確認できるようにしました。次に、教師から「購入するのは修学旅行で使用するカメラ」という条件を提示し、再度、商品を検討させます。生徒たちは、グループ活動で自分の選択を発表したり友達にアドバイスしたりすることで考えを深めていきます。買い物アドバイザーとして、翌年修学旅行へ行く後輩へアドバイスレターを書き、買い物アドバイザーになれたかを振り返って考えることができるようにしました。アドバイスレターに対して後輩から返事が返ってきたときには生徒は喜んで手紙を読み、アドバイスをした達成感を味わうことができたようです。

条件を加える前と後の生徒の考えを比較すると、値段、デザイン、色を重視していたのが、重さやバッテリーの持続度など実際に持ち運びすることに関する情報まで目を向けたことがわかります。また、この単元の学習後、商品購入時に気をつけたいと思う項目に広がりが見られました。深く考える授業の流れに基づいた実践を繰り返し行った結果、生徒は、置かれた状況を踏まえてよりよい消費生活を工夫し創造する能力を身につけることができたと言えます。今後は、年間指導計画を工夫し、他の内容でも深く考える授業を展開させたいと思います。また他の教科等の学習を教師自身がきちんと把握していないと生徒の学びが断片的になってしまうおそれがあります。金融教育は教科横断的な要素を持つ学習です。今後も研究を重ね深く考え、しっかりと意思決定できる生徒を育てていきたいと思います。

ワークショップ

ワークショップは、スパゲッティミートソースを題材に行いました。自分が昼食に食べるミートソースをカタログから選んでワークシートに情報を整理し、それを選んだときに重視した視点をランク付けして、グループで話し合い発表しました。価格、味、調理法、見た目、安全・信頼、栄養価、保存などの視点がグループごとに異なる順位で出されました。その後、祖母と幼い妹の3人分の昼食を用意する(予算制約あり、買い物は必須)というように条件が設定され、改めて検討すると、視点の優先順位が変化して、最初に選んだ商品とは異なる商品を選択したという発表もありました。

コメント

望月昌代視学官より、次のようなコメントがありました。

アクティブ・ラーニングは主体的・対話的で深い学びのことであり、生徒がアクティブなラーナーになることが求められます。今回の実践では、教師が条件を設定して話し合わせたり、条件の順位付けをさせたりすることで、生徒の視野が広がり、他者の発表を見たり聞いたりすることで、さらに深い理解につながっていきます。深く考える授業の過程を工夫し、綿密な授業設計がされている点は高く評価できます。意思決定能力を育成する上で、技術・家庭科の学習は重要な意味を持ちます。限られた授業時数の中で、これだけは教えたいという内容をより明確にし、消費生活以外の内容との関連を図って題材を構成するなど、授業を一層工夫していただきたいと思います。

中学校分科会2の模様(1)

実践発表およびワークショップ(2)

「持続可能な社会の実現をめざすための消費者市民教育~あずま袋の製作と販売~」
三重県伊勢市立北浜中学校 西村 朱美 教頭

実践発表

本日のテーマのあずま袋は、日本手拭いを直線縫いだけで仕上げた、エコバッグのような非常に簡単なものです。前任校で1年生が実際にこのあずま袋を作った授業実践を紹介します。

私はもともと、持続可能な開発のための教育(ESD)を目指しており、これをベースに消費者市民教育を実践してきました。この授業の主な取り組み内容は、商品の製作・販売活動、CSR活動、消費者市民としての資質を育むための学習の3つに分かれます。指導計画は全12時間です。被服実習として商品の製作に取り組み、販売価格を決定して、販売における工夫等の計画を立てました。その後、企業のCSRについて調べる活動を2時間行い、まとめとして、持続可能な社会の実現を目指すための商品としてフェアトレードについて考えさせました。その後、あずま袋の販売活動を行いましたが、販売方法は、土産物屋、祭り、スーパーなどクラスごとに異なっています。

このような授業の成果として生徒に行ったアンケート結果を紹介します。「『お金の使用の際に、企業の経営の仕方や社会貢献度を配慮すべきである』という考え方について、あなたはどう思いますか?」という設問に対して、82%の生徒が「そう思う」と回答しました。その理由として多く見られたのが、自分も誰かのために何かしたい、社会貢献したいからというものでした。社会、環境をよくするために貢献している企業の商品を買うことで、その企業を未来に残すことができ、経営の仕方が悪く貢献活動をしていない企業の商品を買わないことによって、将来そのような企業を少なくすることができるという考え方、つまり、市民性、シチズンシップが育成されていることがうかがえます。

課題としては、4つあり、1点目は学校教育全体における「金融教育」、「消費者教育」の位置づけを明確化すること、2点目は教職員の質の向上を促すこと、3点目は学校全体でカリキュラムマネジメントを行うこと、4点目として学校教育から社会教育への移行をどう行っていくのかです。さまざまな主体が連携、協力していくことが大切だと考えます。

この実践を続けて「人は何のために勉強するのか?」という問いに、「人(社会)の役に立つ人間になるため」という答えがありますが、誰かのために一生懸命に活動する子どもたちの姿を見たとき、その意味が実感できました。被害に遭わないための消費者教育だけでなく、同じ地球上に暮らす全ての人々の幸せや環境改善・保全を願う消費者市民教育を実践することは、明るい未来を切り開く地球の宝物を育成することになるのではないでしょうか。2014年にノーベル平和賞を受賞されたカイラシュ・サティヤルティさんがこの春、来日されておっしゃった「消費者にはパワーがある」という言葉は私の励みになりましたので、紹介します。

ワークショップ

「地域の素材から商品を考案し、販売をめざす~学校全体で取り組むためのカリキュラムデザイン~」と題して、地域の特産品をイメージして学校全体でどのような取組みができるかをグループごとに検討しました。カリキュラムデザインを考えることで、限られた時間数しかない家庭科で学ぶべきことは家庭科で、その他の教科で学習できることは連携して行う、というように学習内容を時間軸で整理してみる活動です。一例として、児童労働をテーマに生徒たちが手話付きの合唱をDVD化した事例(音楽・美術・総合的な学習の時間等で連携)が紹介されました。

グループごとに衣食生活の分野から取り上げる商品を決め、その商品に関わる授業をどのような教科・単元で取り組むことができるかを考えて模造紙に書き出しました。日本らしさを出したお弁当や、姫路城の瓦、フリーズドライの宇宙食などがテーマとして出され、家庭科だけでなく社会科、理科、国語、美術、英語、道徳、職場体験、総合的な学習の時間などとの連携について発表がありました。

コメント

望月昌代視学官より、次のようなコメントがありました。

次期学習指導要領では、「カリキュラム・マネジメント」が重視されており、中学校の全ての教科等の教育内容を相互の関係で捉え、横断的な視点で子どもたちの資質・能力を高めていこうとしています。教育課程全体を見通す力は、全教員に必要です。

「持続可能な社会の構築」や「消費者市民社会」等は、現行の中学校の学習指導要領では扱われていない内容も含まれていますが、消費者教育推進法が施行され、その重要性を踏まえると、各学校でどのような目標を立て、指導していけばよいのか、中学校段階で必要な力として明確にすることが重要です。

最後に、学習指導要領の改訂の方向性について説明いただくとともに、中学校の技術・家庭科は、授業時間数は少なくとも「将来役に立つ教科」という生徒からの評価があるので、各学校においては自信をもって実践を積み重ねて欲しいとまとめられました。

中学校分科会2の模様(2)

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