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2016年度 先生のための金融教育セミナー

【小学校・中学校向け】

3.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)/中学校分科会1

進行・コメント:
国立教育政策研究所 大杉 昭英 初等中等教育研究部長

実践発表およびワークショップ(1)

「消費生活とカード社会~協調学習を通して~」
福岡県飯塚市立二瀬中学校 河野 睦 教諭

実践発表

飯塚市中学校教科教育研究会社会科部会の2年間の取り組みと私の実践を報告させていただきます。飯塚市中学校教科教育研究会社会科部会とは、飯塚市内10校全ての社会科教員が所属する研究会です。活動としては、授業公開とフィールドワークが中心です。毎年数名の教員が授業を公開し、その授業を部会員全員で参観して、部会員の授業力の向上を目指してきました。フィールドワークでは、県内の様々な施設を見学し、より深い教材研究を行い、日々の授業に生かすことを目指してきました。

当部会が最終的に目指した研究のゴールは、「お金や金融に関する問題を自分のこととして考え、判断し、表現する生徒を育てる授業」の創造です。題材は、クレジットカードの使用上の留意点について学ぶこととしました。指導法(手立て)は知識構成型ジグソー法を用いた協調学習に決まりました。

私が行った授業実践、「消費生活とカード社会」の説明を行います。アンケートによる飯塚市の生徒の実態を踏まえ、授業のゴールを「クレジットカードのしくみを理解できる」、「クレジットカードのメリット・デメリットを理解できる」、「クレジットカードの使用上の留意点を理解した上で、将来持つか持たないかを主体的に判断できる」の3つの中から、主眼を「クレジットカードの使用上の留意点を理解し、適切に行動する態度を身につける」ことに設定しました。課題を設定し、まずエキスパート活動として、資料を読み取り、読み取った3人が集まってジグソー活動――パズルを組み合わせるような形で行う活動を行いました。その後、各3人の代表が共有した内容のポイントを発表するクロストークを行い、もう一度自分で課題について向き合うという流れで行いました。

この成果としては、協調学習を通してクレジットカードの仕組みや、メリット・デメリットの理解、主体的な判断など、どの視点においても高まりが見られたことです。また、学力の上位層だけでなく、どの生徒も自分のこととして考え主体的に取り組んでいたことです。課題は、クレジットカードの使用が社会全体に影響を与えるなど、個人の経済活動と社会とのつながりを意識させることまではできなかった点です。

研究を終えての社会科部会員の感想を紹介します。チームとしての一体感が生まれた、協調学習を取り入れることで問いづくりの大切さや生徒が主体的に考える場面設定を学ぶことができた、他の先生がどのように単元を進めているか普段の研修では学べないことが学べた、都市部と周辺部で生徒の実態も異なることがわかり、地域の実情に合わせて指導を行っていく必要があると思った、といった感想が寄せられました。

ワークショップ

昨年実践した授業を模擬授業という形で参加者に体験して頂きました。エキスパート活動として、Aグループは「日本におけるクレジットカードの現状と日本政府の立場」をテーマに「日本におけるクレジットカードの現状を読み取ろう」という課題で、Bグループは「クレジットカードのメリット」をテーマに「クレジットカードを持つことでどんな利益があるのか」という課題で、また、Cグループは「クレジットカードのデメリット」をテーマにクレジットカードを持つことでどんな課題や危険があるのか」を課題に掲げグループで話し合いました。その後、それぞれのグループから1人づつ、計3人一組になってジグソー学習を体験しました。

コメント

大杉昭英先生より、次のようなコメントがありました。

金融教育でジグソー活動を行うのが相応しいかといつも悩まれているという話がありました。先生方もこういうやり方は面白いと思われたと思います。何故こういうやり方をするのかと問われた時に、基本となる考え方があります。まず、科学哲学には実在論と構成主義という2つの考え方があります。実在論は、「先生方の外側に客観的な世界がある。その世界にはちゃんとした秩序があり、法則があり、理論があり、真理がある。我々はそれを発見できる」という考え方。構成主義は、「いや、そんな秩序があるかどうかはわからない。どうなっているかわからない世界に生きている我々が合意して秩序などをつくり上げる。それが正しいかどうかはわからない」という考え方です。知識構築型をベースにしている協調学習は、構成主義に立つ学習方法と言えます。このため、必ず複数の人で、それぞれ自分が得意としている内容の知識を出し合うことになります。他人と意見を出し合って人間は学ぶ。このような建設的な相互作用によって人は学ぶと考えるのが協調学習です。学校では、各教科の目標があって、ここは協調学習ではなく、こういうやり方で勉強したほうが効果的という学習が幾つもあります。どの学びのときに協調学習を取り入れると子どもたちがよくわかるのかということを研究しないといけません。今日は、先生方もご自分の考えや、いつも疑問に思っていることを述べられ、非常に素晴らしい展開になっていたと思います。

中学校分科会1の模様(1)

実践発表およびワークショップ(2)

「職場見学と職場体験学習を中心としたキャリア教育」
香川県土庄町立豊島中学校 岡下 朋平 校長

実践発表

豊島小学校・豊島中学校は、本年度、施設一体型小中併設校として新たに再スタートしました。小学校児童26名、中学校生徒7名、教員は小学校籍教員が7名、中学校籍教員が7名という構成になっています。豊島小学校・中学校の小中共通の教育目標は、「ふるさと豊島を誇りに思い、たくましく生きる力をもった児童・生徒の育成」です。自然が豊かなこの豊島で生活していること、豊島小・中学校で学んだことを誇りに思えるような教育活動を展開していきたいと考えています。

本日は、本校中学校部の取組を中心に発表させていただきます。キャリア教育を通して学校教育に求められている課題として、「生きる力の育成」、「社会人・職業人としての自立した社会の形成者の育成」があげられています。本行では、地域の特性を生かした自然体験、勤労生産体験、社会体験を充実させることや、小中併設校の特性を生かした小中連携の推進や家庭・地域との連携を中核にしてこの課題解決に取り組んでいます。

豊島中学校での具体的な実践事例として、総合的な学習の時間の中で、豊島の歴史や、文化、産業などについての調べ学習、職場見学や職場体験を中心にした進路学習や勤労生産学習として稲作に取り組んでいます。また特別活動として近隣の福祉施設でのボランティア活動や家庭や地域を巻き込んだエコバザーなどを行っています。

職場見学や職場体験学習のねらいを達成するためには、効果的な事前指導、事後指導が大切になってきます。職場体験の直前の事前準備として、礼儀やマナーに関すること、連絡の仕方などについて指導することはもちろんですが、何よりも職場体験の目的と自分の課題について生徒個々がしっかり認識していることが重要になってきます。本校の指導では、少人数の特性を生かして丁寧に個別指導を実施することで目的意識がもてるように配慮しています。30名のクラスでは、一斉指導、その中でのグループ指導、また個別指導という形で効果的に使い分けることが必要になってきます。事後指導については、生徒のキャリア育成につながるようにいかに充実させるかということが大切です。職場体験の後、感想文を書いて、手紙を書いて終わりというのではなく、その後につながる意図的な指導をどのように配慮していくかが重要ではないかなと考えています。

小中連携については、小学校1年生から中学校3年生の義務教育9年間を見据えた効果的なキャリア教育を展開できるように小中併設校のメリットを最大限活用していきたいと思います。

ワークショップ

「効果的な事前指導、事後指導を展開するための職場体験学習チャートマップ」を使い、職場体験学習を実施する上での事前指導と事後指導の課題を洗い出し、グループで協議しました。その後、生徒の活動と学校・保護者の役割についても話し合いました。学校の規模や地域の状況によって、職場体験学習ができる環境にはばらつきがあるものの、他校、他地域の状況を共有できたことは、自校のキャリア教育を推進していく上でよいきっかけになったとの意見が多く出されました。

コメント

大杉昭英先生より、次のようなコメントがありました。

キャリア教育というのは、学校の外の世界と学校の中の世界をつないでいるものです。生徒がキャリア・デザインを行う力をどう育てるか、これを考えないと、というのがこれからの時代の教育課程のあり方になろうかと思います。冷水をかけるようなことを1点言わせてもらうと、アメリカの大学の先生が、小学校の子どもたちが大人になったときに、65%は今はまだ世の中に存在しない仕事につく可能性が高いと述べていました。このため、大人になったときには存在しないかもしれない仕事を体験することの意味を改めて問い直さないといけないということです。教育課程、学習指導要領上の問題で言うと、職場体験というのは、就業体験だけでなく、起業家精神を育てるという新しい視点としてこれから重視していかなくてはならないと思います。キャリア教育は金融教育の一つの分野ですが、新しい社会を想定して、新しい取り組みを是非行っていただければと思います。

中学校分科会1の模様(2)

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