2016年度 先生のための金融教育セミナー
【高等学校・大学向け】
2.パネルディスカッション
「社会に開かれた教育課程と金融教育」
パネリスト- 国立教育政策研究所 大杉 昭英 初等中等教育研究部長
- 東京都立西高等学校 篠田 健一郎 指導教諭
- 千葉県立流山おおたかの森高等学校 仲田 郁子 教諭
- 東京大学大学院経済学研究科 松島 斉 教授
- 金融広報中央委員会 事務局長 鶴海 誠一
「社会に開かれた教育課程」の注目点について、新しい学習指導要領の目指す姿として、「社会に開かれた教育課程」とはどういうことなのか、これからの学校教育にどのような役割が期待されているのかについてご紹介いただきました。大杉氏は、社会に開かれた教育課程についての考え方を示され、「子どもたちの学びを社会でどう生かしていくのか。そのためには、社会や地域と協力しながら学びを進めていくことが大切である」と述べられました。
続いて、社会に開かれた教育課程のもとで各パネリストが指導されている教科、科目がそのような役割を担っているのかについてお伺いしました。篠田氏は、「自分が教えている公民科そのものが社会に開かれており、社会とのつながりを教えていく科目であると考えている」と述べられました。仲田氏は、「家庭科は、家庭生活について考えるのがテーマだが、家庭生活が社会と切り離されて存在するということはないので、家庭科も社会と直結する教科です」と話されました。松島氏は、高等学校での教育について、「大学や大学院で経済学を教えている立場から、社会に強い関心を持つ人材や、優れたリーダーシップをとれる人材の育成を望む」と述べられました。松島氏の話を受けて、仲田氏は、高校で家庭科を学んだことによって大学で国際政治経済を学ぶことを志した生徒の事例を紹介され、「全ての教科が経済と結びついている。家庭科を学ぶことで、将来の自分の方向性をつかむきっかけを得る生徒もいるのではないか」と述べられました。篠田氏は、「高校の授業では、大きな器を持った人間を育てる授業をしている」と紹介されました。
アクティブ・ラーニングの意義、新しい学習指導要領をめぐる最近の議論の状況について、大杉氏は「アクティブ・ラーニングが求められている背景は、知識や技能を身につけるだけではなく、それを使って判断、表現する力、学んでいこうとする力、資質・能力を育てようということにある」と述べられました。アクティブ・ラーニングを取り入れる際の留意点や金融教育を効果的に実践するためのコツについて篠田氏は「この先生についていれば学びは深められるという生徒との信頼関係を築き、安心感を生徒に与えることが大切である」と述べられました。また仲田氏からは、生徒が作成した「人生すごろく」の活用事例について紹介がありました。松島氏は「大学のゼミで築地に社会見学に行き、そこで見た仕組みをもとに、関連する教材について勉強する。こうしたことは、アクティブ・ラーニングにつながっていると思う」と話されました。
続いて『金融教育プログラム』を活用する際のポイントについて、大杉氏から説明がありました。「『金融教育プログラム』には金融教育の目標と方法が示されている。特に、ものには限りがあって、欲しいもの全てが手に入る訳ではないということを小学校低学年から高等学校まで体系的に学ぶようになっている」と紹介されました。続いて『金融教育プログラム』の指導計画例、実践例について、篠田氏から、1.日銀が制作した映像資料を使うこと、2.物価動向を通して日本経済の様子を知ること、3.需要・供給曲線を使って筋道立てて考えることを体験すること、4.具体的な対策を考えたり、意見を交換したり、合意形成を目指すこと、5.実際の日本経済の動きと組み合わせて理解を深めること、の5つのポイントについてお話がありました。仲田氏は、「人生すごろくから始まる生活設計の授業は、家庭総合における人の一生と青年期の自立、共生社会における家庭や地域、資金管理とリスク、生涯の生活設計を全て組み合わせ、子育て支援や高齢者福祉の視点も入れて総合的な観点から実施しました」と紹介がありました。松島氏からは、「『金融教育プログラム』はビジネスリーダーを広く育成するということに大きな効果があるのではないか」とコメントがありました。
最後に、パネルディスカッションのまとめとして、大杉氏は「合理的で公正な意思決定をする力がこれからの子どもたちに求められており、そのための教育に尽力したい」と述べられました。篠田氏は「金融教育やアクティブ・ラーニングは生徒の能力を引き出すことになるので、生徒の無限の可能性を信じて工夫してみましょう。いろいろな試みが私たちの授業改善につながり、必ず効果を生むということを信じてこれからも授業を進めていきたい」と話されました。仲田氏は「お金や金融の様々な働きを理解し、それを通じて自分の暮らしや社会について深く考え、自分の生き方や価値観を磨きながら、より豊かな生活やよりよい社会づくりに向けて、主体的に行動できる態度を養う教育は、まさに家庭科の目標だと思いました」と述べられました。松島氏からは、「子どもは生まれながらに判断する資質を持っているので、それを傷つけない教育が重要だと思う」と結ばれました。