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2016年度 先生のための金融教育セミナー

【小学校・中学校向け】

3.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)/小学校分科会1

進行・コメント:
国士舘大学 北 俊夫 教授

実践発表およびワークショップ(1)

「郷土をひらく~八王子織物と多摩地域の発展~」
東京都教職員研修センター 東京教師養成塾 小林 巧 教授
東京都八王子市立第二小学校 田邉 きよみ 主幹教諭
東京都青梅市立霞台小学校 峯岸 正光 主任教諭

実践発表

八王子はもともと織物産業が盛んで、織物によって発展した町です。この地域教材を活用して郷土を開くという単元の狙いに迫れないかということで、八王子二小が教材開発した単元です。この価値が認められて、八王子市の社会科の副読本にも掲載されるなど、学校独自のものから市全体のものにまで広まっています。織物産業は富岡製糸工場がNHK大河ドラマに出たこともあり、話題になりました。市内には絹を運んだ絹の道が残っているとか、昭和40年代頃までネクタイの生産量が全国有数だったというようなこともあります。

身近で取材ができたり織物体験をしたりと、織物と児童が深く結びついているので、終始児童は興味関心を持って学習に取り組むことができました。授業では、児童にコスト意識を持たせるために、金銭教育の視点を学習計画の中に位置づけ、金銭に関する発問を積極的に取り入れました。1時間目では3年時の蚕飼育体験や織物体験のふりかえりを行いました。次に、学区域にある織物組合の写真や実物の織物、昔の織物取引の様子などの資料から、八王子市と織物との関係を考えました。2時間目では、前半、外国人が使用していた地図や絹の道の資料から、当時の外国商人が八王子まで生糸を買いに来ていた事実を確認しました。授業の後半では、読み取った事実をもとに、なぜ外国人が八王子まで生糸を買いに来ていたのかを話し合いました。3時間目は、買いたい人が多いのに生糸の生産量が増えていない現状について資料を提示しながら読み取り、生産量を増やすためにはどうすればよいのかを考えました。4・5時間目では、戦前戦後の織物産業の様子を当時の写真や生産量のグラフから読み取りました。授業の後半では、当時の人々の織物に関する思いをDVDで確認しました。

単元のまとめで八王子織物のこれからについて考えました。外国の安い繊維に押され、生産量が落ちている現状を知った児童は、このままではいけないと考えるようになりました。八王子織物にかかわる人々も自分たちと同じような危機感を持ち、郷土・八王子織物に対する強い思いからいろいろな取り組みをしていることを知りました。そのことから、自分たちの町の文化を守っていくことの大切さ、伝承していくことの必要性に気づき、自分なら何ができるのかを考えることができました。

ワークショップ

金銭教育の視点を生かして、社会的な見方・考え方を養う模擬授業形式で進行しました。まず、横浜の外国商人の地図にも、八王子には絹の道があり、外国人が命がけで多くのお金と時間をかけて八王子に生糸を買いに来ていたという事実を説明しました。一方で、明治9年から明治13年までの間に生糸の生産量は思ったよりも増えていないという事実をグラフで示して説明し、「それはなぜなのか」、「自分が当時の人だったら生産量を増やすために、どのような工夫をすべきなのか」をグループで考えて頂きました。グループ発表では、「もっと効率のよい機械を導入する」、「近隣地域と共同で技術向上を図る」、「流通網を整備する」などの意見が多く出されました。

コメント

北俊夫先生より、次のようなコメントがありました。

金銭教育や金融教育は、単に知識を習得させるだけでなく、能力を育てることや態度を養うことも大切です。教師が金融教育の視点をどう意識しているか、子どもたちをどう育てたいかと考えているかがポイントです。教師の役割が大きいことを実践発表を通じて改めて感じました。

次期学習指導要領では、「見方や考え方」を養うというキーワードが強調されます。ここで言う「見方や考え方」とは、社会科では時間軸と空間軸などで社会や社会的事象を見ることです。こうしたことも、実践発表から学ぶことができます。

小学校分科会1の模様(1)

実践発表およびワークショップ(2)

「キャベツから学ぶ」
山梨県鳴沢村立鳴沢小学校 室伏 由梨 教諭

実践発表

鳴沢小学校では総合的な学習の時間で「キャベツから学ぶ」という単元がありましたので、これに金銭教育を関連づけて取り組みました。単元の目標は、「鳴沢村の特産物であるキャベツ作りを通して、生産者の工夫・苦労について理解し、栽培から販売までの体験活動を行う中で、ものやお金の大切さや、人との関わりの大切さを感じることができる」です。子どもには少し難しかったので、授業の中では、私から3つのキーワード、「もの」、「お金」、「人」で考えるということを提案しました。

主な活動を紹介すると、まず体験を生かした活動です。実際に栽培を体験し、スーパーマーケットや道の駅を見学したり、インタビューに行きました。次に、ものやお金の大切さを学習する活動では、「人」、「もの」、「お金」の3つの要素に分けて考えさせました。考えを深める学習では、個人で考えてから、グループで検討し、それを全体で発表する活動を通して考えを深めました。司会役を毎回ローテーションで行うことで、ひとり一人が責任を持って活動に取り組めるようにしました。

本単元で身につけさせたい力は、学ぶ力、考える力、そして表現する力です。考える力を育成するためには、グループで話し合いを行いました。その結果を画用紙に書いて、黒板に張ったり、教室の後ろに掲示したりして、全体でお互いの意見を学び合う活動を設けました。表現する力を育成するために、実際に販売体験を行いました。これまでに学習した知識、技能を生かしながら、お客さんにキャベツを売る活動を行いました。学習内容ですが、まずキャベツ作りをし、水やり、虫取りなどの活動を行いました。次に、キャベツについて調べ、その後、キャベツパーティーをしよう、ということになりました。3年生の社会科の学習では農家の仕事という単元がありますので、そちらとも関連して学習を行いました。

最後に今回の研究を通しての成果と課題を挙げたいと思います。子どもたちは自分の生活や身近な世界に目を向けることができ、ものやお金の大切さや人とのかかわりの大切さを考えることができました。「人」、「もの」、「お金」という3つのキーワードを提示することで、子どもたち自身も悩んだときにはここに戻る、私たちも指導について悩んだときにはここに戻るようにすることができました。

今後に向けて、教科や領域によって、金銭教育を指導できる題材がたくさんあるということがわかりました。今年度の研究で得たものを生かして、これからも子どもたちが確かな学力を身につけ、生き生きと学ぶことができるように、私たち自身も謙虚に学ぶ姿勢を持ちながら、子どもたちのよりよい成長のために、日々実践を積み重ねていきたいと思います。

ワークショップ

「オリジナルキャベツレシピを作ろう」というタイトルで、グループ毎に材料と作り方を考え、完成予想図を作成するワークを実施しました。まずは個人で考え、後にグループで話し合い、最後に画用紙に完成予想図を書いて全員の前で発表して頂きました。また、単にキャベツを使ったレシピを作るだけでなくて、お勧めの言葉やキャベツをいくらで売るかについても考えました。発表者からは、鳴沢小学校の近くの富士山にちなんだ富士山の形をしたキャベツ料理や、健康に配慮した無農薬キャベツ料理、大阪のお好み焼きの具材としてキャベツを使うことなどバラエティに富んだレシピが紹介されました。

コメント

北俊夫先生より、次のようなコメントがありました。

鳴沢小学校の実践発表は、研究の筋道が金融教育、金銭教育の委嘱校にとって大変参考になるのではないかと思いました。大事なポイントとして、1.体験を重視していること、2.地域の人材を活用していること、3.3年生の社会科で学ぶ農家の仕事と関連づけていること(教科等との関連を図っていること)、4.総合的な学習の時間の趣旨とも合致していることの4点が挙げられます。

金融教育、金銭教育の実践に当たっては、1.子どもたちの意識・行動実態をどう把握するか、2.金銭教育・金融教育の目標をどう掲げるか、3.関連のある単元や題材をどう見極めるかが大切です。『金融教育プログラム』全面改訂版に掲載されている内容についても参考にしてください。

小学校分科会1の模様(2)

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