おかねのシンポジウム2004
『地元発信。元気な未来はみんなでつくる』
パネルディスカッション
心の教育の必要性
藤田 福井さんは教育のあり方についてどんなお考えをお持ちですか。
福井 私は小学校も中学校も高等学校も大学も、好きな科目しかやらなかったんですね。ですから、教育については語る資格がないように思うんです。ところで、2ヶ月に1回スイスのバーゼルで世界の中央銀行の総裁が集まって、経済を良くするための議論をしているのですが、晩飯の時は、金融政策の話以外にもいろんなことを話します。
僕はあるとき、鎌倉の女学院で女生徒を相手に話をしたが、これは面白かったという話をしたら、アメリカのグリーンスパン議長が、「俺だって学生相手には話している」となかなか面白いことを言っていましたので、これを僕の教育論の代わりに皆さんにプレゼントします。
「学生の諸君がこれから関わっていく世界では、お父さん、お母さん、おじいさん、おばあさんの時代が必要としていたものとは比べ物にならないくらい、「知的技能」が求められる。変化の激しい時代だけに、君たちも20歳代に得た知的レベルでは、たとえば40歳代になったときには全く通用しない。だから、教育、勉学には継続して取り組んで欲しい。
しかし、教育、勉学だけでは充実した人生は決して保障されない。もう一つ大事なことは「分かち合う精神」だ。一部にはお人よしでは競争に必ず負けるっていう人もいるけれども、自分の職業人生を振り返ると、その見方は全く間違っている。
自分が人生で最も充実感を感じることができたのは、同僚や仲間と誠実に付き合いながら、得られた成果を一緒に分かち合えたときだ。諸君もそのことだけは絶対に忘れないでほしい」と言ったというんですね。私の鎌倉での話よりはこの方がずっと高級だと思います。
藤田 福井さん、今の世の中、子どもの教育というと、ある程度名の通った学校に入れてできれば大学は国公立で、ということが目標であるような教育観が広がっているように思うんですが、こうした風潮をどう思われますか。
福井 自分たちが受けた教育は決してそうではなかったですし、自分たちも全くそのような意識はなかったですね。ところが、勤めに入って、若い人たちを採用する立場に回ると、毎年、年を経るごとに、何か一定のコースを懸命に歩んできたっていう人たちが多くなってきた。
それは君たちの信念か、と色々質してみると、いや、お母さんからそういう風に厳しく言われたということで、何か全体のしくみが刻々とそう変わってきてしまったような気がします。何か、お互いに土俵を狭くして生きてきてしまったという気がします。日本銀行の職場だってもっと広いよというのですが、このぶつかり合いがだんだんひどくなったという気がします。
藤田 堀田さん、司法の世界でも何か今の教育を反映したようなことはありますか。
堀田 相手を分かる心が大事です。頭の方は、法律課目の点が85点と65点でも大した差ではありません。学校や試験の世界では優等生とだめな方と分かれるのかもしれませんが、実際に仕事をしていると優等生の方が良い仕事をするかというと全然そんなことはない。
司法の世界で何が大事かというと、人の気持ちです。気持ちが分からないで頭から法律を当てはめるとろくなことになりません。だからどれだけ人間が好きで、どれだけ自分と違う人の気持ちが分かって、それを判断の中に活かせるか、そういう能力をどう育てるか、ということが非常に大事です。これは自分で育てるしかないですね。
藤田 大平さんは、成績と心、ということについてどのように思われますか。
大平 私はもともと劣等生ですから、成績ということを言われるとつらいものがあります。本当に心です。私、過日、教員面接をはじめていたしました。中学校の英語の教師の面接だったんですけれども、英語の教師になろうという人たちですから、英語エリートなんです。子どもの頃から英語が大好きで、英語でつまずきを知らない、そこで、面接で聞きましたことは、「出来ない子の気持ちが分かりますか」っていうことです。
「なぜ英語が嫌いなのだと思いますか」と聞きますとね、多分勉強が分からないから嫌いになったんだと思います、っていうんですね。じゃあ、なぜ分からないと思いますかっていうと、そこでつまるんですよ。だから、教師になって頂く方には「出来る子は抛っておいてもできるんです。だから出来ない子の気持ちが分かるように努力をして頂きたい」とそれだけは最後にお願いしました。
やっぱり、心なんですね。自分はできるから、出来る子の気持ちはわかると思うんですが、出来ない子の気持ちは分からない。でも分からないままに抛っておくのではなくて、分かるように努力して欲しいのです。
河合 勉強の方は点数がつけやすいんですが、心の点はつけにくいんですね。どこまで、分からない子の気持ちが分かりますか。85点、そういう風に点がつけられますか?どうしても点がつけられる方にみんな向くんですね。そこが難しいところです。点がつかないんだけど大事ですよと常に誰かが言っていないといけませんね。