金融経済教育を考えるつどい
(2)「私たちの力が国の流れを変えていけるはず」
かつて「金は天下の回りもの」といわれていた時代、「天下」の範囲といえば自分の住む村や街道すじといった地域でした。情報の発達で「天下」は大きく拡がり、今やお金はインターネット上では、わずか2秒で地球を一周しています。
いま地球上では、ドル、円、そしてユーロなどたくさんの通貨が、大変な勢いで動いています。この地球上を回るお金の量は外国為替市場において、1営業日平均で133兆円という金額になります。インターネットという通信環境の下で、様々な情報を世界同時アクセスしながらこれだけのボリュームのお金がやりとりされています。
野中ともよ(のなかともよ)
ジャーナリスト。NPO金融知力普及協会理事。文部科学省中央教育審議会委員など多くの審議会委員を兼務。
*肩書きは出演当時のものです。
デリバティブという昨今生まれた金融派生商品は1日での取引が306兆円にものぼります。また、証券取引所でも大変なボリュームのお金が動いています。この5~10年でものすごい勢いで金融界の中身が変わってきています。
こうした中で、国内総生産(GDP)という私たち国民が一生懸命働いてどれだけの生産をしたかという数字を見ると、2001年では米国を第1位として、日本のそれは英独仏の合計より大きいのです。
つまり、私たちはまだとても力強い経済大国であるということが事実として確認できます。しかし、日常生活の中では、その強さを実感できません。何故なのでしょう。
50数年前の焼け野原から日本の国民は一生懸命に働き、家や車、さらには別荘などを夢見て、実際に手にも入れてきました。その時代に作り上げたのが「年功序列・終身雇用・高度経済成長・安い医療費・豊かな年金」などの社会システムです。
確かに私たちは一生懸命働いてきましたが、働くこと以外はプロに任せっきりにしてきたのです。自分で考えなくても年金をしっかり面倒を見てくれる人がいました。
ところが、成長期に作り上げたシステムが崩壊しつつあり、不安になり右往左往しているのが、今の私たちの状況だと思います。戦後の世界で私たちは、お金や金融のこと、経済のことを習ってこなかったのです。だから今、呆然としてどうすべきかわからない。逆に言えば、一人ひとりが金融・経済について気づき考えれば、国の流れを変えていけるはずなのです。
わが国の個人金融資産残高は1,400兆円弱にのぼります。これはわが国のGDP500兆円余りと比較して大変な額です。このお金を「お足」として働かせて経済は動くのですが、現状は5割程度が現預金という形で据え置かれています。
私は、お金は大変パワフルなクーポン券だと思っています。お金をためておくのは大事なことですが、ためることが目的ではありません。主人公は私たち自身です。一人ひとりが一度しかない人生をどういうふうに歩みたいのか。お金は目的ではなく、あくまでもその手段です。お金との真の付き合い方を学ぶことがとても大事になっているのだと思います。