金融経済教育を考えるつどい
(1)「いきいきした経済社会を築くために」-お金の番人からのメッセージ
はじめに
皆様こんにちは、日本銀行の福井です。きょうは「金融経済教育を考えるつどい」にお招きいただき、大変嬉しく存じます。私も金融経済に関する知識や情報を如何にして一般の皆さんと共有するか、かねてより強い関心を持っておりましたので、本日は喜んで参加させていただきました。
今日の「つどい」が実りあるものとなり、また、教育関係者の方々をはじめ多くの皆様が、この問題に今後一層積極的に取り組んでいただく契機になればと願っております。
福井俊彦(ふくいとしひこ)
日本銀行第29代総裁。1935年生まれ。58年日本銀行へ入行し、94年副総裁に就任、98年退任。その後(株)富士通総研理事長、経済同友会副代表幹事を経て2003年3月より現職。
「安心を贈る」とともに「いきいきを贈る」
中央銀行は昔から「お金の番人」と呼ばれてきました。“番人”といわれるのはお金をしっかり見張り、パトロールし、何か問題があれば即座にそれを取り除くことによって、皆さんが安心してお金を使えるようにすること、すなわち「安心を贈る」役割を負っているからです。
日本銀行の機能に則して申し上げれば、皆さんにお札を安心して使ってもらえるようにすること、お札と並ぶ重要なお金である銀行預金について、そのやりとり、すなわち銀行を通じて行われる各種の決済が円滑かつ安全に行われるようにすること、国のお金を預かり、国民の皆さんと国との間のお金のやりとりが安全で効率的に行われるようにすること、お金の価値の安定、すなわち物価の安定を図ること、などです。
こうした役割と同時に、私は、日本銀行が「いきいきを贈る」という役割も果たしている、また果たしていかなければならないと強く思っております。本日は、この「いきいきを贈る」ということについて少しお話申し上げたいと思います。
人生に必要なものは勇気、想像力、そして少々のお金
お金は「天下の回りもの」とか「お足」とか言われ、走り回ることをその性分としています。かって金融広報中央委員会ではチャップリンをイメージ・キャラクターとして使っていましたが、これは、彼がライムライトという映画のワンシーンで、踊れなくて落胆しているバレリーナを励ますために語った次のような言葉が委員会の活動にうまくフィットしていたからだと聞いています。
「ああ、わかった。人生に必要なものは勇気なんだ。それに想像力。そうそう、それに少々のお金もだ」
勇気をもって未来を開こうとする人になってください、ただ、それを実現するには多少のお金も要りますよ、と多少皮肉を込めた言葉ですが、お金のもつ力―少額であっても人々の夢を切り開いていく力―を見事に言い当てていると思います。
こうしたお金の大切さが、これから新しい日本を導いていこうとする人々に、
広く正しく理解されているのだろうか?
お金が人々の夢や目的を実現するために十分活用されているのだろうか?
未来を切り開こうとしている人にちゃんとお金が回るようになっているだろうか?
将来の社会や経済が活性化するようにお金はうまく使われているのだろうか?
勇気を出してリスクを取ろうとする人に応分の報酬は約束されているのだろうか?
お金の流れが隅々まで行き渡るような仕組みがちゃんとできているだろうか?
そういったことをしっかりパトロールし、障害があれば直ちにそれを取り除いていくこと、それを通じてお金がもっともっといきいき活躍してくれるようにすること、それこそ、これからの時代における私たち日本銀行の重要な役割のひとつだと思っています。
番人という古めかしい呼び名もいいのですが、今風に言えば、日本銀行はサッカーのゴールキーパーのようにゴールを守ってくれるという安心感をフィールドプレーヤーに与えると同時に、自陣の最終ラインから大きな声で皆を励まし、プレーヤーがいきいき動いてくれるようにする存在、そんなイメージなのです。