金融経済教育を考えるつどい
(1)「いきいきした経済社会を築くために」-お金の番人からのメッセージ
金融経済教育は喫緊の課題
日本人の心の中には、「お金のことを口にするのははしたない」とか「ゼニは不浄なもの」といった観念がなお底流していることは事実でしょう。その結果、学校教育でも家庭生活でも進んでお金について教えるということはあまり行われてきませんでした。
確かに、これまではそれで問題はなかったかもしれません。しかし、経済のグローバル化の中で、私たちの夢の実現のためにも、お金はますます大きな役割を果たすようになってきています。
また、日本でもお金を巡る経済・社会環境は近年相当大きな変化を遂げています。長らく潰れないと思われてきた金融機関が破綻するようになり、金融システムの健全化努力が大きな課題となっています。
その一方、新しい金融サービスが求められるようになり、既に7年前から金融ビッグバンがスタートしています。現に様々な運用商品やローン商品が提供されるようになり、その販売ルートも多様化しています。こうした中では消費者も自己責任を強く意識しなければなりませんし、自分も一人の市場プレーヤーであることを自覚する必要性が高まっています。
一方で、金融商品販売にかかわる各種トラブルが増加していますほか、金銭感覚の変化などを反映して多重債務者が急増し、個人破産件数も90年の1万件から昨年には21万件へと著しく増加しています。また、悪質な業者による金融事件も後を絶ちません。
このような世の中の状況を考えますと、今やお金のことは奥の方にしまっておけるような問題ではなくなり、むしろしっかりそれに向き合わなければならない時代へと変わってきたと思います。
金融先進国である米国や英国では早くから官民挙げて金融経済教育に力を入れてきております。米国の中央銀行にあたるFRBのグリーンスパン議長も講演等の場で何度も金融教育の重要性を訴えておられます。
わが国でも今申し上げたような時代の大きな変化の只中にあって、その必要性はますます高まっていると思います。自分の財産を守り、トラブルに巻き込まれないようにするためにも、未来に夢を託し努力している人にとっても、しっかりした生活設計や金銭感覚を養うとともに、金融経済の仕組みや原理をしっかり身に付けることが大変重要になっています。
そしてこのことは、一般社会人はもとより、これからの日本を背負っていく学生・生徒・児童の皆さんにとってより大事な実践的な知識ではないかと思います。
かつて社会に出るための最低限の知識を「読み書きそろばん」といいました。今や金融経済知識の習得は「現代版読み書きそろばん」のひとつと位置付けていくべきものになってきているのではないかと思います。
では、わが国のお金の読み書きそろばん術の実力はどうか。
先日金融広報中央委員会が発表したアンケート調査では、まず、「読み書き」にあたる金融知識を見ますと、例えば金融商品知識については「預貯金」「保険・年金」についてはともかく「証券投資」や「各種リスク」、「消費者保護の仕組み」等大方の項目で、回答者の半分以上が「ほとんど知識がない」と回答しています。
そして「ほとんど知識がない」という人の半数強の人は「金融というと難しいイメージが先行して積極的に情報を集めようと思わない」、3~4割の人は「正確でわかりやすい情報が乏しい」と指摘しています。
また「そろばん」にあたる計算能力をみても、金利の概念は頭で理解しているつもりでも、いざ計算ということになると、例えば複利による借り入れの元利合計値を正しく計算できる人は全体の2割強しかいないという結果が出ています。
こうしたデータを見ますと金融に関する読み書きそろばん術の普及は相当骨の折れる仕事ではないかと感じます。一方で社会のクレジット化やインターネット化は休む間もなく進んでおり、こうした両者の開きをみるにつけ金融教育の緊要性を改めて痛感します。