金融教育ガイドブック~学校における実践事例集
はじめに
わが国では「人前でお金のことを口にするのはみっともない」という意識が強く、学校でもお金に関する教育をすることには保護者や教師に抵抗感があるといわれてきました。しかし、各種のアンケート調査をみると、そうした捉え方とは異なり、保護者や学校の先生方の金融教育に対する関心は相当高まっていると考えられます。
例えば、金融広報中央委員会が平成15年に一般の人を対象に行った「金融に関する消費者アンケート調査」によれば、「学校においてもっと積極的に金融に関する教育に取り組んでほしい」とする回答は6割近くに達しています。また、金融庁が平成16年に小・中・高校の先生方を対象に行った「初等中等教育段階における金融経済教育に関するアンケート」によれば、「金融経済教育が重要でありかつ必要である」とする回答は、小学校で57%、中学校で75%、高校では81%となっています。
このように金融教育に対する関心が高まっている一方で、実際に学校で金融教育が効果的に行われているのかといえば必ずしも十分とはいえない面があります。これには、各教科等の学習において金融教育が行われているにもかかわらず、それが児童生徒に自覚されていないという問題もあります。
例えば、金融広報中央委員会の上記調査によれば、「小・中・高校時代に学校で金融に関する教育を受けたか」という問いに対し、「ほとんど受けていないと思う」との回答は68%となっているほか、学校で受けた金融教育に関してはあまり役立っていないとの結果も示されています。同じく先の金融庁の調査によれば、「金融経済教育の特色ある授業実践例をもっているか」という問いに対し、「もっていない」との回答割合は、小学校で97%、中学校で93%、高校でも93%と多数に上っています。
このガイドブックは、こうした実態を踏まえ、どうすればより多くの学校で効果的な金融教育が実践できるのかという問題意識に立って作成したものです。ここで紹介する金融教育実践事例は、金融教育に熱心な先生方が独自の発案で取り組まれている実践例に加え、各地の金融広報委員会が委嘱した金銭・金融教育研究校での過去2年間における代表的な実践事例です。取り上げた事例はいずれも体験的な学習、話し合い、ゲームなどを通じて、児童生徒が身をもってお金や経済について知り、自発的に考えられるよう工夫されており、児童生徒がこうした学習を通して生きた社会を知り、確かな学力を養い、将来の生き方を考える契機になっているように思われます。
事例の中にはなお改善の余地があると思われる部分もあるかもしれませんが、現時点における意欲的な実践を課題も含めて紹介することが、各学校でそれぞれの事情に応じて創意工夫を加えて取り組みを進めてもらうことの一助になるのではないかと考えています。学校関係者の方々に是非ご一読いただき、実際の授業でご活用いただけることを期待しています。
もとより、今回の事例集刊行は学校において金融教育を進めるうえでの新しい一歩に過ぎません。今後、学校の先生方にさらなる実践例をご紹介いただくとともに、関係の皆様から金融教育実践にあたっての有益なご示唆やご意見を頂戴することにより、一層充実した資料にしていくことができればと願っています。
なお、このガイドブック作成にあたって執筆いただいた先生方には、公務ご多用のなか、趣旨をご理解いただき、真摯なるご協力をいただいたことに深く感謝申し上げます。また、編集にあたって、統一フォーマットづくり、事例選考、内容確認等にご協力いただいた国立教育政策研究所 工藤文三総括研究官、横浜国立大学 西村隆男教授、(財)消費者教育支援センター 鈴木辰郎主幹、文部科学省 吉冨芳正学校教育官ほか関係の教科調査官等の皆様には、幅広い視点から懇切丁寧なご指導ご示唆を頂戴しました。ここに改めて深謝申し上げます。