脳貯金で100歳までイキイキ
第2回 脳の成人式は30歳!?寿命は120歳!?
人に個性があるように、それぞれの脳にも個性があります。
脳が個性豊かに育ち始めるのは、なんと30歳から!
そして80歳・90歳を過ぎても脳は成長し続けていきます。
初心者・一般向け
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前号では、脳内で働きが異なる部位ごとに脳番地(番号)を付けたこと、なかでも大脳の左右各8つの脳番地は、鍛えれば鍛えるほど成長していくことをお伝えしました。
では、脳はどのようにして成長していくのでしょうか。
実は、大脳の神経細胞は生まれて1歳頃からはほとんど増えることなく、むしろ徐々に減っていきます。
つまり年齢を重ねれば脳は衰えていく?
そうではありません。
1つひとつの神経細胞は歳を重ねるなかで大きく太くなり、神経線維を伸ばして、脳番地を膨らませていきます。
樹木のように枝ぶりを成長させ、脳内ネットワークを広げていくのです。
その発達には年齢に応じた成長段階があります。
それが、脳番地の“旬”といえるものです。
脳番地の場所
脳番地の役割
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思考系脳番地
前頭前野にあって思考や意欲、物事の判断などを受け持つ。
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理解系脳番地
側頭部から頭頂部にまたがり、与えられた情報を理解する。
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記憶系脳番地
海馬を中心とした部位で、記憶の形成や蓄積に深く関与する。
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感情系脳番地
脳深部の扁桃体とその両側の部位で、感情面を表現する。
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伝達系脳番地
思考系とつながり、自分の考えや感情を他者に伝える。
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視覚系脳番地
後頭葉と前頭葉にあり、目からの情報を脳に集積する。
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聴覚系脳番地
理解・記憶系脳番地と連動して耳からの情報を脳に集積する。
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運動系脳番地
脳のてっぺんから左右に広がっていて、体の動きを管理する。
誕生前から30歳前後までに脳は基本的機能を整える
胎児はだいたい40週間ほどお母さんのお腹にいますが、その最後の1カ月半あたりで大脳が成長し始めます。
最初に発達するのは感情系と運動系の脳番地です。皮膚感覚と、体を動かし声を出す感覚を担います。
そして誕生すると、目から光が入り、周囲の声も耳に入って視覚・聴覚系脳番地の発達が始まり、1歳から1歳半くらいには運動系と、この2つの脳番地が連動して立って歩くようになります。
その後、記憶・伝達系脳番地は、小学校・中学校・高校と学校に行って知識を得たり、友人と交流するなどの経験によって発達していきます。
さらに成長とともに、また好奇心の高まりとともに理解・思考系脳番地の発達段階に入ります。
今年、成年年齢が18歳に引き下げられましたが、大卒年齢でも、脳の発達でいえばまだまだ基本的な機能の充実を図っている段階です。
運動が得意、理科系に強いなど多少の差があるくらいで、その人らしい個性は輝いていません。
8つの脳番地がそれなりに育って個性が出始めるのは30歳前後です。
例えば大リーグの大谷翔平さんにしても、28歳の今、彼らしさが少しずつ出てきた感じです。
ここから先は個々の経験が脳を成長させ、その人ならではの能力を育みます。
30歳以降はどのような経験によって脳貯金を増やすかが重要なのです。
50歳を越えてからこそ個性を育む進化の期間が始まる
ここで8つの脳番地の一部に位置する超脳野についてもお話ししましょう。
記憶系脳番地にある「超側頭野」、理解系脳番地にある「超頭頂野」、感情・思考系脳番地をまたぐ「超前頭野」は、人間だけが持つ創造性の宝庫であり、様々な経験により育つ部位です。
従って若い頃にはあまり成長しません。
記憶力・知識力に関係する「超側頭野」は30代、多様な情報を統合して理解・分析する「超頭頂野」は40代、そして思考・判断し実行するための「超前頭野」は50代以降でようやく成長の旬を迎えます。
しかもこれらの超脳野も50歳程度ではまだ使われていないところも多々あります。
その後年齢を重ねてからも、開発の余地が非常に大きい部分です。
脳の成長は80歳・90歳を過ぎても続きます。
昔ながらの“長老の知恵”とは、こうして培われてきたものといえるでしょう。
脳は臓器のなかで最も長持ちし、その寿命は120年。
長寿者の脳は今も常に成長し続けているのです。
一方、50代後半になると使っていない脳番地の機能は衰えていきます。
これは単に“歳を取ったから”ではありません。
あまり使わない部分に老化物質が溜まっていくからです。
逆に、常に活発に使っている部分は変わらず発達を続け、未開発だった潜在能力細胞も成長し始めます。
その結果、得意分野が明確になったり、個性がはっきりしてきたり、その人らしさが一層の輝きを増していきます。
常に新しい刺激にふれて脳番地の機能の衰えを防ごう
とはいえ、衰えはできるだけ防ぎたいものです。
どの脳番地もしっかり機能させつつ、個性をつくる脳番地がひときわ成長しているという姿が理想的でしょう。
そのためにはいつも新しい刺激にふれることが必要です。
経験で増えた脳貯金は、うっかり放っておくと目減りしてしまい、10年くらいしかもちません。
常に積み立てていく必要があります。
脳の神経細胞の成長を、山道に例えてみましょう。
野山の草むらをかき分けて歩くとなんとなく細い通路ができます。
あちこち数回歩くと複数の山道ができ、多くの人が使うようになればやがて広い道に整備されます。
しかし何年も歩かずにいるといくつもあったはずの道は再び草むらに埋もれ、目的地に到達できなくなります。
脳内の枝ぶりのネットワークも同様で、せっかく育てても長く使わずにいると、ルートが消滅してしまうのです。
これまでにつくったルートを太く育てると同時に、新しいルートもどんどんつくっていきましょう。
そのためには、昔取った杵柄のようにマンネリな行動・発想法にひたっていてはいけません。
「歳だからもういい」という考え方もやめましょう。
常に出会いや学びなど新しい刺激にふれ、インプットとアウトプットを意識することが、山道の新ルートを拓き、脳貯金の積立てを増やすことになります。
このように、よい刺激をご自身に与えることで、どれだけ高齢になっても脳は成長し、知恵も判断力も思考力も増していくのです。
これは頭がいい・悪いといった話ではありません。
よく言われる「地頭がいい」という人は若い頃に記憶系などが長けているだけです。
経験を積むことででき上がっていく個性とは関係ありません。
ただし、人それぞれ強い脳番地と弱い脳番地はあります。
弱いと感じる部分もまんべんなく使いながら生活することこそが、大事なルートを失わない=ボケないコツといえるでしょう。
本コンテンツは、金融広報中央委員会発行の広報誌「くらし塾 きんゆう塾」Vol.62 2022年秋号(2022年(令和4年)10月発刊)から転載しています。
広報誌「くらし塾 きんゆう塾」目次