金融教育ガイドブック~学校における実践事例集
ガイドブックの利用にあたって
2.ガイドブックの特徴と実践にあたっての留意点
(2)実践にあたっての工夫と留意点
このガイドブックを活用して金融教育を実践する場合において、また一般に金融教育に取り組むにあたって、それを効果的に行うための工夫や留意点を以下に整理してみましたので参考にしていただければと思います。
ア.児童生徒の発達段階への配慮や学校段階間の連携の必要性
金融教育にあたっては、児童生徒の発達段階に応じてその内容に配慮が必要であることは言うまでもありません。
児童生徒の発達段階を考慮して、一般的にその指導内容を概観すれば、幼稚園や小学校低学年では豊かな体験を通して感受性や心情にはたらきかけることが重要です。中学年では周囲の人や地域とのかかわりに関心をもちはじめるため、そうした機会を通じて自分で考え、判断し、責任をもつといった態度を養わせることができます。高学年になると論理的にものごとを捉え、体験をともなわない知識も吸収できる時期になるため、例えば、発展的な学習として、金融や経済の仕組み、地域経済とわが国経済とのかかわりにも目を向けさせることができます。
中学生になると、自分の家族や生活をより現実的な側面から捉えることができるようになるため、幅広い知識や実生活上の知恵を身につけるよう指導するとともに、それらを通して自分の進路を考えさせることも可能になります。高校生では、より高度な知識を理解する能力が身につくとともに実体験の蓄積も加わってくるため、現実社会の幅広い知識の吸収や時事問題等に取り組ませるほか、自分自身の具体的な職業や生活設計、生活技術などを身につけることが必要となります。
もっとも、こうしたことを参考としつつも、金融教育に関しては児童生徒のそれまでの学習履歴や家庭環境、地域環境等によって関心や課題意識には差があることも考えられます。したがって、年齢による学習内容を厳格に捉えるのではなく、各事例の適応対象学年については臨機応変に対応することが必要かと考えられます。
また、金融教育の分野に関しては学校段階を超えた連携により、教育上の効果をさらに高めることができるといわれています。具体的には幼稚園と小学校、小学校と中学校、中学校と高等学校、高等学校と大学・企業の連携等により成果を上げている例が多くみられます。これは金融教育が人との交わりのなかで経済を学んでいく側面や、将来に向けて自分の生き方を考えていく側面をもつため、自分の年齢に近い先輩との交流や経験を通して得るものが大きいためであろうと思われます。
イ.指導方針の明確化と教科等間の連携を含む学校全体としての取り組みの必要性
金融広報委員会が委嘱する金銭・金融教育研究校においては、金融教育を進めるにあたって、まず学校全体としての理念と指導方針を明確化し、年間計画を立てています。金融教育の内容をどの程度折り込むかは各学校が置かれた事情により異なりますが、いずれの学校においても指導方針に沿って全職員が協力して、教科その他の教育活動の連携を図りながら、相乗作用による高い効果を目指しています。学校によっては、校長を中心にいくつかの研究組織を設けて定期的な研究会等を開催し、計画的なプロジェクト推進や教科等間の連携強化を図る例も見られます。
なお、こうした金銭・金融教育研究校における全体としての取り組み事例については別表4に主な事例を紹介していますので参考にしていただきたいと思います。
また、金銭教育を推進していくためには、その内容が広範にわたるため、各教科等でどのようにそれを取り上げるか、教科等間の連携を含めた全体像を明確にしていただくことが望ましいと思われます。
ウ.指導方法や教材等の工夫
学校における金融教育は、社会のなかで健全に生き、働いていく力を身につけることが最終的な目的である以上、それを実践するにあたっては、講義形式の一斉授業だけではなく、体験的な学習を取り込むことによって、経済の仕組みや経済生活上の知恵をさまざまな角度から実感をもって学ぶことが効果的です。体験的な活動の例としては次のようなものが考えられますが、ガイドブックでもかなり広範に取り上げていますので参照いただきたいと思います。
- 学校をあげての諸行事の開催、模擬企業経営
- 職場体験、見学、ボランティア活動
- 学校内での模擬経済活動(買い物体験、オークション、模擬通貨を生かした学習)
- ロールプレイ(シナリオ作り、実演、評価)
- 公開討論会
- 外部講師を招いての講座・講演会
指導方法の工夫と同様、使用する教材等についてもさまざまな工夫を凝らすことが必要です。この分野の教育は、現実の経済や社会を知ることをテーマとしているので、新聞記事や雑誌、折り込み広告やチラシ、インターネット情報や地域の話題、学校に紹介される各種副教材等あらゆるものが題材になると考えられます。要は身近なものを題材に、児童生徒の受容能力を過小評価することなく、児童生徒に考えさせるきっかけを与えるような素材を選ぶことが大切だと思います。このガイドブックでも各先生方が工夫したさまざまな題材・教材・ワークシートなどが紹介されていますのでそれらも参照いただきたいと思います。
なお、指導方法であれ教材であれ、学校や先生がオリジナルに企画するには相当な精力が必要とされます。このため、全国各地での既存の取り組みを数多く収集しそれを共有できることが望ましいと思います。全国での指導事例が一層集積されるよう当委員会としても尽力していきたいと考えています。
エ.家庭・地域・関係機関等との連携
児童生徒に対する金融教育は学校だけが担うものではないことは明らかです。その点では、まず家庭の役割は大きいと思われます。幼児期においては自分のものと他人のものとを区別し、友達と仲良く遊び、また我慢することを家庭でしつけることが重要です。その後は子どもの発達に応じて、小遣いの与え方・使い方、家事の手伝い、お金の出所、家計の内容、親の職業・人生観、将来の進路等について児童生徒とともに考え、積極的に関与しつつ、自立を促すような努力が求められます。
なお、学校としても金融教育への取り組み方針等を保護者にしっかり伝えて理解を得ておくことにより、学校での金融教育が円滑に進められるほか、保護者の金融教育に対する自覚と協力を促すことにもつながると思われます。できれば、学校で学んだことを家庭にもち帰って親とともにそれを改めて考えるようなステップが設けられればなお効果的ではないかと思われます。
金融教育にとっては地域の協力も大切です。児童生徒が買い物体験、見学、起業体験、職場体験、調べ学習等を通じて現実の経済や自分の生き方を学ぶにあたっては、地域の人たちの理解と協力が欠かせません。また児童生徒の成長にとって多くの人と交わることは考え方や人格を広げるうえで有効です。親とは違った関係で教えられたり助言を受けたりできる大人がいることは、児童生徒の向上心を起こさせるという意味でも重要なことです。また、学校にとっても地域の人たちの金融教育に関する関心が高まれば、学校教育全般についてさまざまな助言・協力を得られる可能性があります。
金融教育の分野に関しては関係機関等の情報を有効に活用することも必要です。金融広報中央委員会および各地の金融広報委員会のほか、消費者庁、金融庁、経済産業省などの諸官庁、国民生活センターや全国の消費生活センター、消費者団体、NPO(特定非営利活動法人)、業界団体、個別企業等がさまざまな副教材やビデオなどを無償で提供しています。児童生徒の見学や職場体験を受け入れているところも多数存在します。また、指導法を学ぶためのセミナーの開催、通信講座、講師派遣なども数多く実施されています。これらの情報は『金融学習ナビゲーター』(金融広報中央委員会発行)や各団体のホームページを通じて容易に入手することができますので、それらも有効に活用することが望ましいと思われます。