金融教育ガイドブック~学校における実践事例集
ガイドブックの利用にあたって
2.ガイドブックの特徴と実践にあたっての留意点
(1)ガイドブックの特徴
ア.学校における実践上の課題
学校における金融教育の重要性は理解されつつも、必ずしも十分に実践されない理由としては次の点が指摘されてきました。
第1は学習指導要領と金融教育との関連が理解されていないという指摘です(学習指導要領との関係)。第2は他に優先すべき教育課題が山積しており、そうしたなかでは金融教育について十分に扱えないという指摘です(金融教育の重要度との関係の問題)。第3は教えたくとも十分な時間数が確保できないという指摘です(時間的制約の問題)。第4は実践にあたって使いやすい実践例や教材等が提供されていないという指摘です(実践事例や副教材の問題)。第5は先生方にとって「金融は専門的」との先入観があるうえ、変化が激しく、最新の情報を入手して指導していくのが難しいという指摘です(教える側の対応の問題)。
イ.ガイドブックの構成と特徴
今回のガイドブック発刊にあたっては、上記のような課題などを念頭に置きながら編集に工夫を凝らしました。その具体的な工夫や考え方を紹介すれば次のとおりです。
1.学習指導要領との関係
学校教育における金融教育を進展させていくには学習指導要領との関係を整理しておくことが重要です。別表3にあるとおり、現行の学習指導要領には各学年に応じて、また各教科、道徳、特別活動及び総合的な学習の時間にわたって金融教育に関連する項目が多岐にわたって記述されています。
こうした諸項目に対応する授業にお金を関連させることによって、金融教育の要素を十分取り込むことができるばかりか、児童生徒の授業への関心と理解を促進することもできるのではないかと思います。また、各種の教科書においても金融教育に関連した実践例の提示が行われており、それらを活用することで金融教育の実践を充実することができるのではないかと思います。
このガイドブックの作成にあたっては、こうした事情を念頭において、学校で活用いただく際に便利なように、実践事例毎に単元名として対応する学習指導要領の項目を掲げてあります。(注)
(注)ただし、本書の初版発刊時(平成17年3月)の単元名のままとしています。
なお、ガイドブックで取り上げた事例のなかには、学習指導要領や教科書での扱い方という観点からみて、改善の余地があると思われる部分もあるかも知れませんが、現時点における意欲的な実践を、課題も含めて紹介しようとしたものであり、各学校のそれぞれの事情に応じてさらに創意工夫を加えて利用していただければと考えています。
2.金融教育の重要度との関係
金融教育を一つのまとまった知識体系とか一つの教育ジャンルとして扱おうとすれば、確かに他の教育課題と重なり、その優先度は低いとみなされることもあるかもしれません。しかし、学校における金融教育は相当広い内容を含むものであるため、各教科等のなかで取り上げているほか、環境教育、福祉教育、国際理解、法教育、キャリア教育等の教育課題ともかなり重なっています。したがって、それらの教育を進めるなかで金融教育の要素を取り込むことによってある程度の金融教育の実践が可能です。逆に金融教育を進めるなかで環境、福祉、法、キャリア教育等を実践することも可能ではないかと思われます。
3.時間的制約との関係
金融教育は主に社会科、家庭科などで教えるものと考えられがちですが、上で述べたように、国語科、数学(算数)科、道徳の時間や学校行事等を含む特別活動、総合的な学習の時間、などさまざまな時間を活用して実施することが可能です。本来こうした複数の授業を積極的に活用することが可能であり、そのことによって時間数の問題への懸念も解決できるのではないかと期待しています。このガイドブックではそうした事例も数多く収集していますので参考にしていただきたいと思います。
また、社会科や家庭科では限られた時間数のなかで一定の内容を理解させることが求められていますが、ここで紹介するような実践的・体験的な活動を通して、限られた時間の問題と児童生徒の理解の伸長を両立させることも可能ではないかと期待しています。
4.実践事例や効果的な教材提供との関係
このガイドブックの主な目的は実践事例の提供であり、この課題に対する直接的な対応策であることは言うまでもありませんが、あわせて、掲載した事例には実際に使われたワークシートが添付されているほか、授業の立案にあたって参考にした文献や使用した副教材などについても可能な限り紹介しています。もちろん、実践事例の数や内容についてはなお拡充の余地があることは今後の課題であり、当委員会としてもその解決に向けてさらに取り組んでいきたいと考えています。
5.その他の教育支援事業との関係
金融広報委員会では毎年各都道府県で金融・金銭教育協議会や学校の先生方を対象とするセミナーを開催しているほか、公開授業、学校の先生方の研究会への研究委嘱、小論文コンクール等を実施し、学校の先生方の金融に関する理解増進や授業実践例の紹介に努めています。そのような機会を是非ご活用いただくとともに、本書を契機として、より多くの先生方に金融教育に対する理解と関心をもっていただき、関心の高い先生方同士で有効な情報交換を行っていただきたいと考えています。