18歳までに学ぶ 契約の知恵
2 あなたを守ってくれる法律があります
① 契約の基本は、「常識」と「民法」です
いったん、契約すると、それを守る義務が生じます。このため、契約をする前に、慎重に検討しましょう(いいかげんな気持ちで契約したり、冷静さをなくしているときに契約してはいけません)。トラブルはあらかじめ防止するのが一番です。
一方で、どんな場合でも契約を守らなければならないわけではありません。契約を守らなくてもよい場合もあります。それは、法律が定めています。
考えてみましょう 法律が定めている契約を守らなくてもよい場合とは、どんな場合だと思いますか?
民法(すべての契約の基本となる法律)では、基本原則として、「権利の行使(こうし)及び義務の履行(りこう)は、信義(しんぎ)に従い誠実(せいじつ)に行わなければならない」と定めています(信義誠実の原則)。
一方で、以下の場合などは、契約を守らなくてもよいとされています。
- 公序良俗(こうじょりょうぞく)=公(おおやけ)の秩序(ちつじょ)や善良(ぜんりょう)な風俗(ふうぞく)(社会の道徳観念)に反する場合(犯罪や、社会で非難される行為をさせるなど)⇒無効(むこう)(契約は最初から効力なし)
- だまされた(詐欺(さぎ))、おどされた(強迫(きょうはく))、勘違(かんちが)いした(錯誤(さくご))⇒取り消しできる
- 未成年者が、保護者などの同意を得ずに契約した⇒取り消しできる
② 特に消費者を守ってくれる法律があります
消費者(しょうひしゃ)の利益を守るため、特定商取引(とくていしょうとりひき)法、消費者契約法、電子契約法などが制定され、契約を守らなくてもよい場合などが追加的に定められています。
それを知っておけば、あやしい誘(さそ)いを見やぶりやすくなり、あらかじめトラブルをさけることに役立ちます。トラブルになった場合の助けにもなります。
- 特定商取引法
- 消費者トラブルが特に生じやすい取引について、クーリング・オフや中途解約(ちゅうとかいやく)(契約の途中での解約)ができることを定めています。
- 消費者契約法
- 消費者と事業者(じぎょうしゃ)とでは、持っている情報の量や質、交渉(こうしょう)力に差があります。このため、事業者が問題のある契約手法をとった場合、消費者が契約を取り消しできること、消費者の利益を不当に害する契約条項(じょうこう)は無効とすることを定めています。
- 電子契約法
- 消費者がインターネットによる買い物などをする際、消費者が操作ミスや勘違(かんちが)いでクリックしても取り消しできます(契約自体が成立してないケースもあります)。
ただし、事業者がわかりやすい「確認画面」(消費者が申し込んだ内容の確認ができる画面)を表示し、消費者が「確認する」をクリックして(または「確認不要」を選択して)承認した場合は、取り消せません。
③ クーリング・オフ、中途解約など【特定商取引法】
消費者トラブルが発生しやすい取引を、「特定商取引」として7つあげたうえで、クーリング・オフや中途解約ができることなどを定めています。
クーリング・オフ(Cooling off)とは、“頭を冷やし、考え直す”との意味です。一定の期間内であれば、理由を問わず、契約を解消できるしくみです。
その期間が過ぎてしまった後でも、中途解約ができるものもあります。解約するときに事業者が請求できる金額にも、上限を定めています。
7つの類型 | 取引の内容や、別のよびかた | クーリング・オフ | 中途解約 |
---|---|---|---|
訪問販売 | 自宅や職場などを訪問して販売 キャッチセールス アポイントメントセールス |
8日間できる※ | ×できない |
訪問購入 | 自宅を訪問して買い取り、押し買い | ||
電話勧誘販売 | 電話で勧誘して申込みを受ける | ||
特定継続的役務提供 | エステ 美容医療 語学教室 パソコン教室 家庭教師 学習塾 結婚相手紹介 |
〇できる | |
連鎖販売 | マルチ商法(ネットワークビジネス) | 20日間できる※ | |
業務提供誘引販売 | 内職商法(副業商法、モニター商法) | ×できない | |
通信販売 | ネットショッピング テレビショッピング カタログ通販 など |
クーリング・オフはできない。 ただし、事業者は返品の条件等を表示する必要がある。 表示がない場合、8日間は返品できる。 |
- 契約書などの書面を受けとった日を1日目と数えます。最初からお店に買いに行った場合は、クーリング・オフできません。
とくに以下の取引には気をつけましょう。
キャッチセールス
駅や商店街に近い路上などで声をかけて人をつかまえ(キャッチ)、別の場所(事務所、喫茶店など)につれていき、商品などを買わせる。
アポイントメントセールス
電話、メール、SNSなどで「当たりました」、「いい話がある」などと伝え、会う約束(アポイントメント)をとりつけて、商品などを買わせる。
マルチ商法(ネットワークビジネス)
個人を誘って商品を買わせ、その人に次の人を勧誘させることをくり返し、売上げをふやしていく商法。
はじめに会員になった人だけがもうかるしくみ。あとで会員になった人は買ってもらうのに苦労し、赤字になることが多い。
- (注)
- イラストとは別のかたちで誘われるシーンも考えてみてください。
たとえば、「モデルになりませんか」と誘われる(→高いレッスン料をとられるなど)、「アンケートに答えるアルバイトをしませんか」といわれる(→報酬振込のためといって銀行口座番号ほかを聞かれ、消費者金融で勝手に借入されるなど)、SNSで知り合った人から「儲かる方法」を勧められる(→投資用DVDを買わされ、他の人にも売るよう勧められるなど)、といった例があります。
④ 契約の取り消し、無効【消費者契約法】
事業者が問題のある契約手法をとった場合、消費者は契約を取り消すことができます。
事実と違うことをいう【不実告知】
不利益な事実をわざといわない【不利益事実の不告知】
不確実なことを断定的にいう【断定的判断】
帰らない【不退去】
帰してくれない【退去妨害】
消費者の利益を不当に害する契約条項は、その部分が無効になります。
事業者の損害賠償責任を免除、制限する条項
不当に高額なキャンセル料
不当に高額な遅延損害金(年利14.6%を超える部分)
その他、消費者の利益を一方的に害する条項
裁判所で個別に判断されます。
社会生活上の経験が乏しい消費者に対して、以下を行った場合も、消費者は契約を取り消すことができます。霊感等による勧誘については、消費者が取り消しできるケースが広げられ、取消権の行使期間も延長されました(例:契約締結から5年⇒10年)。
進学、就職、結婚、生計、容姿、体型などについて、消費者の不安をあおり、事業者が提供する物やサービスを買うことが必要であるという
勧誘者に対する消費者の恋愛感情その他の好意の感情に乗じて、「契約してくれないともう会えない」などという(デート商法)
⑤ 勘違いでクリックしても大丈夫【電子契約法】
電子契約の際、申し込みの「確認画面」を事業者が表示しない場合、消費者が勘違いや操作ミスでクリックしても、大丈夫です(取り消しできます。契約自体が成立していないケースもあります)。
ワンクリック請求(ワンクリック詐欺)
消費者がクリックを1つしただけで、請求がくる。大半は詐欺。