Hello, フィンテック!
第2話 キャッシュレス決済のいま(その3)
店舗側の事情
さて、キャッシュレス決済が普及している事情は、店舗側にもあります。まず、現金を扱うコストを削減したいという意図を持っていることは先に述べた通りですが、それだけではありません。
キャッシュレス決済を導入することで顧客の利便性を高め、集客力を高めることで売上や利益の向上を図るという狙いがあります。ライバル店が導入しているのに自店が導入しないと競争上不利になるという観点からの導入もあるかもしれません。
一部のキャッシュレス決済事業者では、決済サービスに加え、顧客情報を利用した売上分析や顧客マーケティングサービスを加盟店に提供しています。店舗側には、こうしたサービスを利用したいという誘因もあると思われます。
しかし、キャッシュレス決済を導入するためには、システムの導入費用を負担したり、加盟店手数料を払い続けるというコスト負担も生じます。このため、2019年10月に始まった政府のキャッシュレス決済推進政策では、端末システムの導入費用や加盟店手数料の一部を期間を限定して補助する制度が導入され、普及に弾みがついています。
なお、コンビニエンスストアなど大手の流通業では、自社でキャッシュレス決済サービスを手掛けることで加盟店手数料の負担を回避する戦略や、購買支払い情報のマーケティングへの活用を図る動きもあります。
利用者のメリット
最後は、利用者の立場からキャッシュレス決済をみてみましょう。
まず、現金を持ち歩かなくてもよくなる、ATMに立ち寄る回数が減る(休日夜間などの手数料負担が回避できる)、あるいは財布の中の残高を気にする必要が少なくなるというメリットがあります。
何にいくら使ったかの記録をキャッシュレス決済用のアプリで確認したり、家計簿サービスと連動させることで出費の管理が便利になったという方もいらっしゃるでしょう。
このほか、キャッシュレス決済サービスに参入してきた企業が提案する様々なサービスにスマートフォンを通じて容易にアクセスできるようになった、という利点もあると思われます。
キャッシュレス決済を入り口として多様な消費者・生活者サービスが展開されつつあります。こうしたもののなかから自分にとって有益なものを適切に取捨選択していくことで、より便利で豊かな生活を享受することができるようになります。
利用者が注意すべきこと
ただし、自分の購買情報や属性情報などがどのように利用されているか意識しておくことも重要です。
こうした個人情報がどのように収集・活用されるか/されないかは、キャッシュレス決済サービスの利用開始時にユーザーに提示されますが、そうした条件をしっかり読んで理解するという作業は飛ばされがちです。
トラブルがあった場合の対応方法や責任関係も含めて、自分の情報がどのように守られるのか、あるいは活用されることで様々な他の便利なサービスが提供されるようになるのか、きちんと確認しておく必要があります。
セキュリティの確保がどのようにして図られているかも、サービス提供側に任せっきりにするだけではなく、利用者側でも意識しておかねばなりません。
キャッシュレス決済の課題と未来
普及期において多数のキャッシュレス決済サービスが登場し、どれを使っていいかわからないという声をよく聞きます。また、いま利用しているサービスがどの店舗でも使えるわけではないといった問題も生じています。
現金は、どこでも誰でも使えるという素晴らしい利点を持っています。一方で、キャッシュレス決済サービスは、そのサービスの加盟店でしか利用できず、この点で現金に一歩劣ります。
しかし、キャッシュレス決済サービス事業者は、厳しい競争環境のなかでより便利なサービスの提供を目指して、加盟店拡大を図っていますし、互いに提携協力する動きも出てきています。多様なキャッシュレス決済サービスを一つの店頭端末で受けられるようなサービスなども登場しています。
そうしたなかでキャッシュレス決済がより便利なものとなり、私たちの生活を支えてくれる便利な社会インフラとして進化を遂げていくことが期待されています。
(第2話おわり)
(2020年1月)