Hello, フィンテック!
第2話 キャッシュレス決済のいま(その2)
現金取り扱いコストの削減
まず、現金決済という社会システムを支えてきた金融機関や店舗の事情です。
ふだんあまり意識することはないかもしれませんが、現金が世の中をどう流通しているのか考えてみましょう。
金融機関が窓口やATMで人々に現金を提供し、人々が店舗に現金で支払い、現金を受け取った店舗が日々レジを締めて集計・確認し、金融機関に入金します。
金融機関に還流してきた現金は、枚数があっているか、偽札や汚れ傷みがないかチェックされ、次の利用に備えて金庫で保管されます。もちろん、この間には安全に輸送するという手間も伴います。
このように現金が世の中で便利に使われるためには、たくさんの人手や設備などが必要とされ、そこには多額のコストが発生しています。
こうしたコストを抑制するために、現金決済という社会システムを支えてきた金融機関や店舗などからキャッシュレス決済を推進しようという動きが生まれてきています。
新しいキャッシュレス決済サービス提供側の事情
初期の電子マネーは交通系や小売系の企業が提供しているものが多く、乗車券売機など現金を取り扱う自社ビジネスを効率化するという目的がありました。もちろん、利用者の利便性も高まるため、交通・小売系企業がサービスを展開する地域で早くから普及してきました。
ところが、こうした電子マネーは、買い物客や利用者を自社ビジネスに囲い込むという別の機能も発行企業側にもたらしました。電子マネーは、コスト削減や効率化以外に、売上収益の増加というビジネス推進にも繋がったのです。これが近年のキャッシュレス決済ブームを加速させていく要因となりました。
新規参入企業の特徴
決済のキャッシュレス化は、購買や支払い情報のデジタル化という側面を持っています。その潜在力を追求しようと、様々な企業の新規参入ラッシュが2018年ごろより始まりました。
近年参入してきた企業の多くには共通した特徴があります。キャッシュレス決済専業のスタートアップ企業もありますが、別途本業を持った大企業が目立ちます。
その事業内容をみてみると、インターネットショッピングやモバイル通信サービス、SNS・ポータルサービス、小売・流通、銀行などで、すでに数百万人から数千万人単位で多数の顧客を抱えているという特徴をもっています。
また、通信インフラやインターネット店舗・広告媒体など、ユーザーとサービス生産者に対してビジネスの場(プラットフォーム)を提供する、いわゆるプラットフォーマーが多いのも特徴点です。
キャッシュレス決済サービスもプラットフォーム事業であり、ユーザーと加盟店という2つの市場を開拓する必要があります。こうしたプラットフォーム事業は、一方の市場が成長すると他方の市場も魅力的となり成長しやすくなるという特徴があります。加盟店が多いキャッシュレス決済サービスほど、ユーザーは使いたいと思うでしょうし、ユーザーが多いキャッシュレス決済サービスほど加盟店も導入しようと思うでしょう。
そして、あるプラットフォームが抱えている大規模なユーザーは、他のビジネスの顧客にもなりえます。キャッシュレス決済サービスに参入してきた企業の多くが、便利なキャッシュレス決済サービスを提供することで、顧客の利便性を高めるだけでなく、多様な関連ビジネスに顧客を誘導し、自社のエコシステムの拡張を図っていこう、これを通じて更なる顧客基盤の拡大を目指そうという戦略をとっています。
購買・支払いデータのマーケティングへの活用
その際、重要になるのが、購買・支払い行動を通じて収集される個人情報とその活用方法だと言われています。匿名性が保たれる現金支払いと異なり、キャッシュレス決済では支払いに関連した情報を収集することが技術的に可能です。
いつ、どの店舗で、いくら支払ったか、がデジタル情報として残りますし、インターネットショッピングや店頭で収集されるPOSデータにアクセスできるようなキャッシュレス決済の場合、何を買ったか(ネットの場合、購買前に何を検索したかまで)把握することができます。
個人の属性や特徴が大まかにでもわかると、マーケティングの効率を高めることができます。これが先行しているのは広告やお薦めサービスビジネスです。
インターネットで何か検索すると、時をおかずして関連した広告が登場します。ネットショッピングやビデオ配信サービスを利用していると、好みの本や映画などが提示される。そうしたサービスを日常的に経験されていると思います。
類似のビジネスモデルを、決済行動やそれが示唆する個人の特性情報を手掛かりに展開することで、自社が展開するサービスを拡大させていくことができるのではないか。
そうしたビジネスモデルの追求がキャッシュレス決済サービスと連動して進められています。
(2020年1月)