平成13年度「全国金銭教育協議会」
「総合的な学習の時間における金銭教育の進め方」
~金融に関する消費者教育の視点から~
金銭教育を体験で終わらせないために
さて、これまでは金銭教育を総合的な学習に組み入れる方法論を述べてきましたが、どういう視点をもつかも大変重要です。一つは先にも触れましたが、豊かさや便利さの恩恵を受ける教育をしなければなりません。
豊かさや便利さに溺れずに、流されないように、適切に活用できるという視点が必要になってくるでしょう。中学、高校であれば、カードをテーマにしてディベートの学習を組んでみたりすることも考えられます。
もう一つは、一つひとつの過程を丹念に行う教育です。これは生活科など、様々な活動のなかで行われていることですが、子どもの意識の成長や変化に気づかずにすませてしまっていることもあると思われます。
あるお母さんが、子どもの買い物の学習についてこんな手紙をくださいました。このお母さんは、総合的な性格をもった生活科の内容について懐疑的でした。「買い物の学習などよりも計算や漢字をもっと教えてほしい」と思っていたそうです。しかし、その買い物の学習がある日の前夜、眠りについた娘が買い物に持っていく500円玉を握りしめているのを見て「子どもの買い物にかける意気込みがわかり、よい買い物をしてほしいと願わずにはいられませんでした」というのです。
子どもは自分の願いを実現しようと、現場に出て、さまざまな人に出会い、いろいろな品物に触れて、買い物を体験します。これは模擬体験とはまったく違う体験になっていくはずです。まさに金銭教育の重要な部分が入っていると思います。
またある学校の生活科の学習で、いらなくなったダンボールを使って町を作ったのですが、子どもの感想を読むと、最初はただの段ボールだったものが子どもにとって新たな意味をもって大事なものになっていく過程がわかるのです。不用なものも使うことによって自分にとって意味のある存在になる。ものを大切にするという感覚は、こういう基礎体験のなかで培われていくのではないでしょうか。
深刻な問題に突き当たることもあります。ある学校では、総合的な学習の時間で豚を飼育しました。一生懸命に育てましたが、大きくなって飼育が限界になったことと、子どもたちの卒業が近づいたこともあり、いろいろな案が出ましたが、結局売るしかなかった。しかし子どもながらにも、売ればどうなるかということはすぐわかります。
豚が連れて行かれ、豚をいくらで買い、手数料がいくらで、これだけをお支払いしますという明細が届き、それを見たときに子どもたちは「あー、肉になった」ということを実感するわけです。これもまた、金銭教育ということと深く関わることではないでしょうか。
つまり、金銭教育というのは学習のいたるところにあるということです。それを私たちがいかに自覚、意識して取り上げていくかが重要になると思います。例えば豚の飼育も単に飼って、売ってといえば通り一遍の内容ですが、そこに起こるいろいろな、ときには深刻な問題に子どもが直面していく、これが手応えのある学習であると思うのです。