平成13年度「全国金銭教育協議会」
「総合的な学習の時間における金銭教育の進め方」
~金融に関する消費者教育の視点から~
金銭教育の重要性を説くキーワード
ここで認識しなければいけないことは、金銭教育の必要性、重要性です。私は、「便利さ」と「豊かさ」が必要不可欠のキーワードであると思います。
今の子どもは極めて便利で豊かな社会に生きています。便利とは、端的にいえば省略であり、結果を得るために面倒な手間をカットすることにつながります。便利さの恩恵に浴するなかで、知らず知らずのうちに人との関わりが希薄になったり、感じ判断し考えるといった機会をも失っているのではないかと思います。これは教育の見地からすれば深刻な問題です。
子どもたちの品物の値段のとらえ方についても考えさせられます。今の子どもは、こっちのほうが安いから、誰々ちゃんがいくらで買ったからという理由で、ものを選んだり買ったりすることが多い。つまり相対的に値段を考えているわけです。しかし、品物には絶対的な価値もあります。材料のよしあしや製作にかかった日数、手間などから商品価値やその値段を判断することも大切です。
相対的価値は情報によって決まり、絶対的価値は、ものの本体やそこに関わる労力を見て判断されます。両方の価値とも欠くことのできないものです。子どもたちには情報を上手に収集して、よいものをより安く手に入れるという資質をもたせると同時に、そのものがどういう手続きで、どんな理念で作られたかということをきちんと教えなければなりません。自分はこれだけのお金を払ってもよいという考えがもてるようにしていく必要があります。
つまり、これからの教育では相反するニつの視点をバランスよく入れ込むことが求められてきます。豊かさや便利さの恩恵をきちんと受けられる教育をする一方で、不便とも思える中に身を置いて、一つひとつの過程を丹念にとらえていく教育をしていかなければならないわけです。
そういう教育をするためには、少しオーバーな言い方かもしれませんが、哲学をもつ必要があるのではないでしょうか。難しい意味ではありません。事例をあげてご説明すると、ある子どもはふるさとをテーマにした学習で「ふるさとは自分をキレないようにするところ」と言いました。飛躍した表現ですが、その背景には地域の人へのアンケートがあるのです。
この地域には特急列車の名前にもなっているシンボル的存在の山があり、これがふるさとだと子どもたちは考えています。そこで、子どもたちは、ここに暮らしている人たちだけでなく、今は遠くに住む人にも手紙を送って「山をどう思っているか」と聞きました。
すると、困った時、うれしい時、悲しい時など、いろいろな時にそのふるさとの山がよみがえってくるという答えが返ってきたのです。それを子どもたちは「ふるさとは自分を支えてくれるもの、キレないようにするところ」とまとめたのです。私が言おうとしている哲学とは、このような子どもたちの認識のことです。
このことから金銭教育の意味合いを考えると、子どものなかに物事の価値、大切さ、感謝、といった抽象的概念を計る物差しを育てることではないかと思います。