平成13年度「全国金銭教育協議会」
「総合的な学習の時間における金銭教育の進め方」
~金融に関する消費者教育の視点から~
子どもの問題意識を高めるテーマ学習
それでは、総合的な学習の時間の中に金銭教育をどう取り入れていったらよいか。これについては、三つの教育原理を踏まえる必要があると考えます。
その一つは子ども主体の原理です。子どもが自ら課題を見つけ、考え、判断するなどして問題を主体的に解決していくことです。ただし、これには教師から課題が示され、それについて子どもたちが自分で見通しを立てながら問題を解決する、複数の課題が示され、その中から子どもたちが選んで活動し、探求する、初めから子どもたち自身で課題を見つけて問題解決にあたるなど、いくつかのレベル、段階があります。子ども主体だからといって、教師が何かしてはいけないということではありません。
二つめは、課題中心ということです。例えば「食」というテーマであれば環境問題、国際問題や金銭的な問題も視野に入れた学習になるでしょう。そして学習したあとには、テーマについて子どもから何らかの考えが出せるように工夫していく必要があります。そうでなければ、通り一遍の活動をして終わってしまう可能性があります。
三つめは体験重視です。といっても、体験オンリーではありません。本も読み、文献にもあたるけれども、直接現場に出て見たり聞いたりしてくる、あるいは自ら試したりしてみる。これが体験重視です。
以上の原理に基づいて、総合的な学習の時間と金銭教育を考えますと、金銭教育そのものをテーマにするだけでなく、他のテーマとも密接に関係するだけに幅広い取り組みができると思います。
事例をあげましょう。新潟県新井市の棚田をテーマにした総合的な学習で、題名は「棚田の声が聞こえるよ」です。学校のまわりに荒れた棚田がいっぱいあり、子どもたちにこの棚田を学習しようと投げかけたものです。
学習のはじめに出てきたのは、自分たちでこの棚田でお米を作り、儲けて楽しもうという子どもらしい発想でした。しかし、棚田の持ち主から高齢になって作れなくなったなどの事情を聞くと、子どもたちは棚田は減ってもしょうがないかなと考え出します。
次にこの棚田を開墾した人から、昔この山がどういう状態にあったか、耕すのにどんな苦労をしたか、棚田は先祖からの宝物だという話を聞き、何とかして守っていかなければと思うようになります。
そして、棚田を守ろうという運動をしている人に出会い「山が荒れると平場も荒れる」「棚田が荒れると、土砂がダァーと流れたり濁った水が出たりするんだよ」ということを聞いて、子どもたちは自分たちにできることは何だろうかと考えていきます。環境の問題と同時に、金銭的な価値に真剣に立ち向かうことになるわけです。こういったテーマでも金銭教育に深く関わることができるのです。
もちろん、金銭教育に直接関わるテーマを取り上げることもできます。東京のある学校では「便利」をテーマにしました。
町に出て便利を探すのですが、その象徴はコンビニだということになります。店に来ている人などにコンビニを利用する理由を聞くと、みんな簡単に便利だからと言います。たとえば、「お父さんの急な出張で、歯ブラシと歯磨きの買い置きがなかったから来た。朝早かったけれども24時間営業で開いていて助かった」などの話を聞きます。
ここで子どもに問題意識が出てきます。どんな年齢の人が、どんな時に使うんだろうかと調べていくと、この便利の中に逆に油断が潜んでいることに突き当たっていきます。それはやがて自分の生活を見つめることに繋がっていきます。
このようにテーマを決めて学習すると、身のまわりの何気ないことが、さまざまな意味をもって子どもに問いかけてくる。これは子どもにとって興味深いことです。いろいろなテーマと密接に関連する金銭教育は、意識すれば多彩な取り組みができ、子どもの関心をもたせることができるのではないでしょうか。