貯蓄・生活シンポジウム 2000
金融新時代を暮らす~ペイオフと私たちの暮らし~
パネルディスカッション
(4) 消費者を保護する新法とトラブルを防ぐ心構え
田部 こうした金融の新潮流の中で法整備も進みつつあるようですね。消費者保護の新しい法律が施行されるようですが、どのような内容なのでしょうか。また、トラブルに遭わないためにはどんな注意が必要でしょうか。
高橋 金融商品選びは自分の生き方ですから、金融機関にすべてお任せにしないという態度が大切です。そうやって次第に習熟していき、うまく商品やサービスが使いこなせるようになる人が確実に増えていくと思います。
しかし、商品やサービスの仕組みが複雑なものも大変多いですし、判断を誤るケースも一方で出てくると思います。情報収集に怠りがあったならば、消費者にもある程度の責任があるでしょうが、情報そのものが間違っているということも結構多いのが現状です。セールストークでおいしい話だけして、裏に潜むリスクの説明がないといったようなことです。
トラブルのほとんどは契約にまつわるものであるということを踏まえて、2001年の4月から「消費者契約法」と「金融商品の販売等に関する法律」(以下「金融商品販売法」)の二つの法律が施行されることになりました。
「消費者契約法」はすべての消費者契約が対象になっていて、販売業者の側に、例えば解約できない期間があることをわざと教えないなど、不適切な行為があった場合に、契約そのものが取り消し可能になり、原状回復が図れる仕組みです。
「金融商品販売法」は、元本割れの恐れがある場合には「その恐れがある」という事実と、どういう場合に元本が割れるのかを、きちんと説明するように販売業者に義務づけている法律です。元本割れがあることを告げられないで契約し、損害を被った場合には損害賠償を請求できます。
また、金融商品のトラブルは業者の勧誘で起こっていることが多いことから、「金融商品販売法」では消費者の経験や財産額などに適さない勧誘はしない、勧誘販売の時間帯など販売・勧誘ルールを策定し、公表する義務が盛り込まれました。
このように法律の面では、消費者がトラブルに巻き込まれたときに訴えやすい状況はできてきていますが、法廷で争うのはなかなか大変なことです。ですから、法律で守ってもらうことも大事なのですが、やはり一番大切なのは自分自身が金融商品やサービスについて学習して、トラブルに遭わない消費者になるということです。
もしトラブルに遭ったとしても、戦える消費者になる、さらに、業者の不正な行為を抑止できるような賢い消費者になることです。
田部 金融自由化の先進国であるイギリスでは、例えば100万円の投資信託を売るときに、販売側は顧客がいくら儲かるのかまで言わなければならず、契約状況の記録の義務は販売側にあるということを知って驚いた経験があります。金融の自由化というのは、手厚い消費者保護と表裏一体のものなのですね。
原田 法的整備が金融自由化の一つの柱であることは当然です。ただ、悪徳業者を排除していくには法律がきわめて有効ですが、そのことと自己責任原則はまったく別の問題です。法律が完備されれば、金融資産運用のリスクがなくなるということではまったくないのです。
もちろん情報開示の問題などを含めて、まだまだやるべきことはたくさんあると思います。しかし、端的にいえば、多くの方々は商品の内容を理解し、自分の生き方に合った投資先を決めるための勉強をする時間がないのが実情です。
ということであれば、ファイナンシャル・プランナー(FP)などの専門家をアドバイザーとして活用するということも一つの方法かと思います。
田部 法的な整備は整いつつありますが、金融商品選びなどでちょっと困ったというときにはどうしたらよいのでしょうか。
高橋 貯蓄広報中央委員会(現・金融広報中央委員会)の『金融商品なんでも百科』や、消費者生活センターのパンフレットなどを利用して、商品知識を得るのも一つの方法です。事前に勉強し、実際に商品を購入してさらに勉強を続けると理解が深まります。
私たちが金融商品を上手に選べない原因を考えてみると、食品や洋服などの消費財と比べて、品質表示が不十分ということがあります。
自分が関心をもった金融商品でわからないことがあったら、取り扱っている金融機関の窓口で一つひとつ聞いてみる。そうやって消費者一人ひとりが素朴な疑問をぶつけることによって、販売業者の側もどういう情報が足りなかったのかということに気づき、商品性の表示とか、販売方法が変わっていくのではないかと思います。