貯蓄・生活シンポジウム 2000
金融新時代を暮らす~ペイオフと私たちの暮らし~
パネルディスカッション
(2) ペイオフ解禁にまつわる二つの誤解
田部 ペイオフはなかなか難しいのですが、解禁に向けてどのような備えが必要でしょうか。
翁 ペイオフ解禁というのは、一言でいうと2002年3月末で預金全額保護の特例期間が終了するという意味です。一番重要なポイントは大口預金者にも自己責任を持ってもらう時代に入るということですが、ペイオフ解禁には大きく分けて二つの誤解があると思います。
第一の誤解は、破綻金融機関にペイオフという破綻処理方式を一斉に適用するという誤解です。
預金者の保護の仕組みには、ペイオフ方式と資金援助方式の二つがあります。ペイオフ方式は、破綻した金融機関を清算してしまうやり方で、預金も貸出もどこにも受け継がれない。
対して資金援助方式は、破綻した金融機関の預金や貸出を受け皿金融機関に引き継いでもらう方式です。
日本版P&A方式という言い方もされていますが、預金や貸出がスムーズに受け継がれ、あまり金融機能に混乱をきたさないので、ペイオフ解禁後はこの資金援助方式が中心になっていくことが展望されています。今春の預金保険法の改正により、資金援助方式がスピーディに行えるような法律的な手当てがなされ、実務的にもその準備が始まっています。
第二の誤解は、金融機関が破綻すると1,000万円以上は返ってこないのではないかというものです。
確かに預金保険の範囲は1,000万円までなのですが、破綻した金融機関の不良債権額がそれほど大きくなければ、大口預金であっても相当程度戻ってきます。日本版P&Aのモデルはアメリカですが、そのアメリカを例にとっても、大口預金者の損失は僅か数%ということです。
田部 ペイオフが解禁されても、それほど心配はいらないということですね。資金援助をされた後、営業などはどうなるのですか。
翁 アメリカではAという金融機関が危ないということになると、二か月ぐらい前から準備が始まり、受け皿となる金融機関を決めておきます。そして、金曜日の営業時間後にAの破綻と受け皿の金融機関を公表し、週末に集中処理を行って、月曜日の朝には受け皿銀行の看板を新しくかけて営業を始めます。
一般の消費者にしてみれば、単に銀行の看板が変わっただけということで、ほとんど何事もなかったように金融機関の破綻処理が進みます。日本もそういったスムーズな破綻処理が実現できるように準備が進められています。
原田 改正された預金保険法では、補償の額が1,000万円だけでなく、その元本についての利息も補償の対象になります。ただ、預金保険機構に加盟している金融機関の金融商品でないと、補償の対象になりません。
日本の金融機関はほとんどがこの預金保険機構に入っていますが、外国の銀行は加盟していません。また、商品としては外貨預金や譲渡性預金、元本補てん契約のない金銭信託、ヒットやスーパーヒットといわれるものは保護の対象になりません。
詳しくは貯蓄広報中央委員会(現・金融広報中央委員会)の『金融商品なんでも百科』に説明されていますので、こちらもご覧ください。
田部 日本は生命保険にお金をかける比率が高いのですが、生命保険会社や損害保険会社も破綻しています。生保や損保の破綻処理は、銀行などの金融機関と少し様相が違いますね。
高橋 生命保険会社や損害保険の消費者保護制度は銀行や証券のような定額補償ではなくて、定率補償という形をとっています。自賠責保険や家計地震保険は100%補償されるので何ら心配はありません。これ以外は保険契約者保護機構の制度で責任準備金の90%までは補償するセーフティネットがあります。
ただ、貯蓄性の高い保険などの満期返戻金などについては契約内容の変更などがありえますし、火災保険などの共同保険で知らない間に破綻保険会社の影響を受けることもありますので、まずは保険証券をチェックしてみることです。
保険の消費者保護は現行の制度では不十分なところもあります。今後は法律の改正などが必要となってくるのではないかと思います。