―親なき後も安心して暮らすために―
知的障がい者、精神障がい者を支える成年後見制度の活用法
(成年後見制度の利用が伸びない要因)
障がい者が成年後見制度を利用しない3つの要因と解消方法
成年後見制度の利用者数は年々増加していますが、対象者数に占める利用者数の割合は、まだまだ低調です。
この制度の利用を必要とする方が、何かしらの要因で利用しない、もしくは利用できないならば問題です。
成年後見制度を必要とする障がい者が、この制度を利用しない主な要因は、次の3つが考えられます。
要因① 制度を適切に理解していない
成年後見制度の仕組みや申立方法など、基本的な情報を知ることは大前提として、制度を適切に理解していないため利用しないというケースが見受けられます。
この制度の利用における誤解の例をいくつか紹介します。
自由に物が買えなくなる?
日常の買い物などは本人が自由に行えます。
2016年に施行された「成年後見制度の利用の促進に関する法律(以下、利用促進法)」では、この制度の基本理念の1つに「自己決定権の尊重」が挙げられ、本人が意思決定できる際は、その意思を尊重する方向に進んでいます。
選挙権が無くなる?
2013年の法改正で、成年被後見人は選挙権・被選挙権を有するようになりました。
資格を失う?
医師や税理士等の資格を失うなど、本人の権利を制限する規定がありましたが、2019年に削除されました。
成年後見制度についてわからないことがあれば、各市町村の地域包括支援センターや全国の社会福祉協議会、日本社会福祉士会などに相談しましょう。
要因② 報酬が負担
成年後見制度の利用に係る費用は、家庭裁判所への申立てに要する費用と、成年後見人等や監督人への報酬があります。
申立ての費用は一時的なものですが、報酬は後見開始後、毎月発生します。報酬額は、成年後見人等や監督人の管理財産額や支援内容によって算定されます。
基本報酬の目安として、成年後見人等は月額2万円(管理財産額1,000万円以下)、監督人は月額1万~2万円(管理財産額5,000万円以下)が公表されています。
(成年後見人等は弁護士などの専門家である必要はない)
後見期間が長期になるうえに、収入が低い傾向にある障がい者が、報酬の負担を理由に利用しないケースは少なくありません。
こうしたケースの方は、成年後見人等は必ずしも弁護士などの専門家である必要はないので、報酬を必要としない家族を成年後見人等の候補者として申し立てることを検討してはいかがでしょうか(選任されない場合もあります)。
(成年後見制度利用の支援)
また、収入や資産が十分に無い方は、成年後見制度利用支援事業の利用を検討してみてください。
成年後見制度が有用であると認められた障がい者が、経済的理由によって利用が困難な場合、申立費用や報酬の全額または一部を補助してくれます。
支援対象者や補助金額など具体的な内容や要件は、各市町村によって異なるため、お住まいの自治体に相談してみましょう(窓口は自治体ごとに異なります)。
要因③ 知らない人に任せたくない
大切に世話をしてきた我が子を、他人に任せることに抵抗があるのは、親心として当然です。私個人としては、可能な限り近親者が後見人になるべきと考えています。
本来、後見人には被後見人に対して、情愛を持つ人がふさわしいからです。
本人に判断能力がある場合、任意後見制度を利用することで、家族など任せたい人を後見人にできます。
障がい者が未成年であれば、判断能力が無くても親が親権を使って任意後見契約を結ぶことが可能です。
ただし、任意後見人は慎重に選びましょう。
信用ができるだけでなく、後見についてある程度の知識を持っている、もしくは持つ意欲がある方がよいと思います。
また、任意後見人には取消権や同意権が無いため、消費者トラブルや借金トラブルが起きても、契約を取り消せないことも知っておきましょう。
任意後見契約について相談したい場合は、日本公証人連合会や全国の公証役場へ問い合わせてください。
利用促進法の施行後、申立ての候補者や親族が、成年後見人等に選ばれやすくなってきています。
(複数後見)
私が請け負っている後見で、身上保護は親が行い、法的事務を専門家である私が行う「複数後見」があります。
他人に任せたくない子どもの世話=身上保護は親が行い、財産管理などは専門家に任せた方が効率が良い場合もあるため、後見方法の選択肢の1つとして覚えておくとよいでしょう。
- 本人とは:精神上の障がいなどにより判断能力が不十分で法律行為に関する意思決定が困難な方
- 成年後見人等とは:法定後見制度で家庭裁判所が各申立てに応じて選任する援助者
- 任意後見人とは:十分な判断能力を有するときに、あらかじめ決めておくことができる援助者
- 障がい者とは:知的障がい者や精神障がい者