金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-
(2023年10月改訂版)
1.金融教育のねらいと基本的性格
(6)学校における金融教育の位置付け
以上のように金融教育は知識・技能という点からみれば、関連する教育領域との間でその内容が重なり合う面がある。また、関連する教育領域間でも同じような重なり合いが多く存在している。一方で、それを実践する学校現場からすれば、○○教育を提供・提言する側の意図や目的は分かるとしても、それが多数に上り、相互に重複しているため、授業時間の制約や様々な教育課題の対応に追われる中で、何を、どの教科で、どのように取り上げればいいのか、戸惑いを感じる面もあるように思われる。
金融教育は新しい教育分野として新たな教育領域をことさら主張するものではない。むしろ金融教育は既存の教科等における学習内容や上で紹介した様々な教育領域の知識などを基本として、それを児童生徒の生き方や価値観の形成につなげていくトータルな過程そのものを指すといった方が適切であろう(図表2参照)。なぜ金融教育がそうした役割を果たせるのかといえば、お金は児童生徒にとって身近で関心のある道具であり、それを通じて知識や問題を自分のこととして把握し考えさせるまたとない手段となっているためである。
図表2金融教育と教科等の関係
したがって、学校において金融教育に取り組む際は、各教科等の学習において、その教科等の目標や内容に則しつつ、お金を教材や題材として取り上げたり、自分の現在及び将来の暮らし、自分と社会との関わりを意識させたりすることによって教科等間の連携を行いながら、それらを総合的な学習(探究)の時間につなげ、体験的な学習などを交えながら、自分の生き方や価値観の形成に導いていくというかたちが、一つのモデルケースとなり得るだろう。
総合的な学習(探究)の時間は「探究的な(探究の)見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための(自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための)資質・能力を育成する」(カッコ内は高等学校)ことを目標としている。その指導計画の作成と内容の取扱いにおいては、「他教科等及び総合的な学習(探究)の時間で身に付けた資質・能力を相互に関連付け、学習や生活において生かし、それらが総合的に働くようにすること」とされており、まさに「カリキュラム・マネジメント」の実践となるものである。金融教育は、こうしたカリキュラム・マネジメントを通じ、教科等間の連携を踏まえた上で総合的な学習(探究)の時間で取り上げることで、よりトータルなものとなり、より生きたものになるといえる。
なお、金融教育は生き方や価値観を形成することを目指すものであるため、一つの問いに一つの正答が対応しているわけではない。したがって、通常の意味での「教える」ことに加えて「育てる・育む」ことまでをねらうものである。それだけに、金融教育が投げかける課題は教師の方々にとっても、また、金融教育に協力する保護者や地域の人々などにとっても自分の課題であると認識し、ともに学び、ともに考えるという姿勢で児童生徒の教育に当たることが大切である。教師や保護者、地域の人などが「ともに学ぶ」という認識を共有することによって、内容が現実味を増して児童生徒の心に響くとともに、学習指導要領において求められている「社会に開かれた教育課程」の実現を通した金融教育の充実につながるだろう。
図表2 金融教育と教科等の関係