金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-
(2023年10月改訂版)
1.金融教育のねらいと基本的性格
(2)いま、なぜ金融教育か?
① 金融教育は時代の如何に関わらず必要となる基本的な教育
人は生活していく上でお金とは切っても切れない関係にある。「お金を使う」、「お金をためる」、「(働いて)お金を得る」、「お金を借りる」など、私たちは日々、様々なかたちでお金と関わっている。本来こうした行為一つ一つは、必要な情報を集め、慎重に考え、納得した上で選択することが必要である。よりよい暮らしを築くため、しっかりした意思決定の力を子供のころから養っておくことは、時代の如何に関わらず、基本的でかつ大切な教育である。
② 時代環境の変化と金融教育の必要性
近年、金融教育に対する関心が高まっているが、その背景には、上で述べた基本的な要因に加えて、以下のような生活環境の変化や経済社会環境の変化が大きく影響している。
ア.生活環境の変化
現在の子供たちは、お金やものに囲まれた環境の中で育ち、インターネットやスマートフォン、電子マネーなどキャッシュレス決済手段の普及などもあって、欲しいものが容易に、かつお金を使っているという実感をもたずに手に入る生活を送っている。また、保護者などの働く姿を見る機会や自ら働く機会が減少し、働いて生計を立てる自覚や現実に即した職業観をもちにくくなっているといわれる。
お金の価値に関する実感や生活感が薄れ、安易な消費行動や借入態度が広がっていけば、将来、生活力に乏しい大人や多重債務者の増加を招くことにもなりかねない。現に、子供に関連した金融トラブルが増加しているほか、生き方に対する価値観が多様化し、様々な働き方の選択肢が増える一方で、若年無業者や孤立無業者の存在が社会問題として指摘されている。さらに、生活困窮者支援や子供の貧困への対応も社会的な課題となっている。
このような時代だからこそ、改めて子供たちにお金の価値を実感させ、お金と正しく付き合う意識と態度を身に付けさせることが強く求められている。
イ.経済社会環境の変化
わが国の経済は、少子高齢化や人口減少という成長制約要因を抱えながら、自らの力で新しい発展の道を切り開かなければならない時代に移行している。この間、グローバル化やICT化の進展に加え、金融をはじめとする多くの分野で規制緩和や新たなサービスの提供が進んでいる。これらは新たな成長の機会を提供するが、他方では個々人や企業間の競争が一段と厳しくなることを示唆している。さらに、これまで政府や企業が提供してきたセーフティネットの力が衰えるとともに、様々な犯罪や事件が増え、社会的なストレスも増大している。
また、2022年4月から成年年齢が引き下げられ、18歳から未成年者取消権がなくなった。これに伴い、成年年齢到達直後の契約トラブルの発生が懸念されている。
こうした中、次の時代を担う若者には、第一に、一人一人がそのもてる力を最大限発揮して、経済社会の活力向上に寄与することが求められる。第二には、自由度や選択肢が広がる一方で、生活(職業)、財産、人生経路等に関する不確実性が高まっているため、これまで以上に、個々人が社会保障制度をはじめとしたセーフティネットを踏まえた上で自らのリスクをしっかり認識し、判断に必要な情報を収集して、自己の責任で的確に意思決定していくことが求められる。第三には、個人が自己の利益のみを追求するのではなく、ルール・法律を守る意識や倫理観の再構築、社会(国際社会を含む)への貢献、伝統や文化の再認識、地域コミュニティの再興、自然環境の保全など、いろいろな分野に、様々な方法や手段でよりよい社会づくりに進んで寄与することが求められている。特に、個々人のお金や物の使い方が経済社会や環境に大きな影響を与えることを自覚し、責任のある選択を行うことが求められている。
③ 生涯学習社会と学校における金融教育
社会環境が急速に変化し、かつ価値観が多様化するなかで、転職・兼職・起業などが一般的となるなど、生き方・働き方についてもかつてのようなステレオタイプのモデルはなくなってきている。また、今後も金融を含む社会環境が大きく変わっていくことが想定される。こうしたことを背景に、学校教育を終え社会に出た後も、リスキリングやリカレント教育など「学び直し」の重要性が増している。また、デジタル技術の進歩を受けて、金融サービスのみならず、あらゆる分野で新たなサービスが生まれ続けており、生活がより便利になる反面、こうした新たなサービスをうまく使いこなすことができなければ、却って不便な生活を送ることになってしまうリスクが増している。こうしたことから、常に学習を続け、新たなスキルを身に付け続けることが重要な「生涯学習社会」が出現している。
「生涯学習社会」において、学校における金融教育は、人生における「お金」や「金融」との関わりについて基礎を学び、将来にわたってお金や金融に関心を持ち、学び続けようとする意識や態度を養うとともに、変化する社会に主体的に参画する態度を身に付ける重要な役割をもつ。