大人のための お金と生活の知恵
Ⅱ 見えた「課題」に向き合う
今後の生活やお金の見直しは、「大きなお金」の見直しと、「日常生活のお金」の見直しの、2つの方向から行いましょう。より効果が大きいのは前者です。
1.「大きなお金」の見直し
「大きなお金」を見直したい場合、以下のような費用について検討してみましょう。
①「老後」
老後費用を左右するのは、何歳まで生きるかと、日常的な生活費です。寿命は長めにみておきましょう。生活費は、どこで誰と(何人で)暮らすかや、生活水準に依存します。生活費はコントロールできます。
老後資金が不足しそうな場合には、「住宅」や「教育」について考え直してみることも大切です脚注2。
②「住宅」
住宅に対するニーズは、人生の局面(退職、子の独立・結婚、親の介護、自分や配偶者の健康状態の変化など)で変化します。自分や家族の今後のニーズの変化は、事前に予測できることも多いため、あらかじめ想定しておきましょう。
新たに住宅を購入する場合は、住宅価格や金利の動きにも目配りし、無理のないローンを心がけましょう。新築物件を買う場合、資産としての価値(売却できる価格)は購入後数年間で通常はかなり低下することに注意しましょう(とくに数年内に売却する可能性もある場合)。購入後は、住宅の税負担、管理費、リフォームなどに大きなコストが発生することもあります。
すでに住宅を保有し、住宅ローンが残っている場合は、「繰り上げ返済」や「借り換え」によって、負担がかなり軽減されることがあります。
住宅について柔軟な考え方をとることができれば、支出を削減しやすくなります。例えば、「子の独立を機会に、大きな一戸建てを売り、手頃な広さの賃貸住宅に引っ越す」「地価・家賃の高い地域から、安い地域に引っ越す」などです。
③「教育」(子がいる場合)
必ずかかるお金(学用品費、学級費、見学・修学旅行費、高校教科書代など)のほか、さらに「どこまでお金をかけるか」をよく考えてみましょう(公立か私立か、塾代・稽古代ほか)。大学生などは、「本人にどれだけ負担させるか」といった問題も出てきます。
「お金を多くかけるほどよいというものではない」「奨学金などを利用させる方がよい」との考え方もあります。本人とよく相談しましょう。奨学金を利用させる場合は、計画的に準備させましょう脚注3。
④「医療費」
加齢に伴い増加しがちです。健康や体力を維持できるよう努めれば(食事、運動など)、医療費を抑制できる効果が大きいといわれます。長く働くことができれば、人生後半の収支改善にも大きな効果があります(コラム1)。
コラム1「収入を増やす」こと
⑤「保険」
保険は、必要な額に入ることと、必要以上の額を見直すことの両方が大切です。社会保障(公的年金、公的医療保険など)や企業保障でカバーされる費用などを確認し、不足するものについて民間保険に入る(または貯蓄でまかなう)ことを考えましょう。自分は何に備えているのか、もう一度よく確認しましょう。
一般に、生命保険で必要な保障額は、子ができたときに最も大きくなるといわれ、子の成長や独立、本人の退職や資産形成に伴い減少します。医療保険は、公的医療保険脚注4でカバーされる費用を確認したうえで検討しましょう。自動車保険も使用状況などに応じて見直すことができます。
優先順位を付け、行動に移しましょう。
支出を見直す場合、人生設計に基づき優先順位をつけましょう(例:住宅より老後を優先する)。
優先順位の低いものを見直し、高いものにお金を回すことが大切です。
2.「日常生活のお金」の見直し〜効果が大きい3つの方法
①「天引き貯蓄」をする
「天引き貯蓄」とは、収入(毎月の給与、賞与など)のうち、貯めようと決めた一定額を、「日常生活で使用する口座」とは「別の口座」(積立口座、財形貯蓄口座など)に毎月自動的に入れるよう、金融機関と契約して、預貯金をしていくことをいいます。
- 「日常生活で使用する口座」にあるお金だけで、何とかやりくりしましょう。「別の口座」にお金が貯まっていきます。
- 別の口座で貯まりはじめたお金を、わざわざ手間をかけて引き出すことには、心理的な抵抗感も生まれます。
- 何年後にいくら貯まるかも簡単にわかり、はげみになります。
この原理は、「日常生活で使用する口座」でも活用できます。例えば、引き出す日を月2回と決め(例:給与日とその半月後、1日と15日)、毎回、半月分の生活費だけを引き出す方法があります。
引き出したお金を目的別(家賃、水道光熱費、食費、娯楽費など)に分けて「封筒」などに入れる方法もあります。こうすれば、目的外(計画外)の“ムダな”支出に使ってしまうことを避けやすくなるといわれます。
②残高を管理し、貯蓄に「目的」をつける
家計簿で、収入・支出・残高を管理することが基本です。「家計簿の記入はめんどうだ」と思う方は、預貯金の通帳の残高を月に1回(給料日など)定期的に確認するだけでも、貯まりやすくなるといわれます。
貯蓄には、「目標額」だけでなく、「目的」を設けましょう(子の進学資金、住宅資金など)。はげみになります。
③支出の見直し
「金利がかかる」支出(クレジットカードの分割払い・リボ払いなど)を避け、「固定的な」支出(スマホ料金、家賃、車、保険など)・「特別な」支出(お金のかかる趣味など)・「習慣になった」支出(たばこ、酒など)を少しずつでも見直せば、効果が大きいといわれます。
脚注
- 2
例えば、自分の「老後」の生活を少々犠牲にしても、子や孫の「教育」を優先したい、といった考え方もあり得ます。ご自身の価値観やライフプラン次第です。
- 3
例えば、大学生の約3人に1人は、日本学生支援機構の「貸与型奨学金」(有利子のものと無利子のものがあります)を借りる、または「給付型奨学金」(返還不要)の給付を受けています。同機構のホームページからは、大学や地方公共団体等が行っている奨学金(給付型を含む)や授業料減免制度等も簡単に検索できます。基準(家計収入、成績等)を調べ、本人にも高校入学時から成績基準などを“目標”として意識させましょう。
- 4
わが国は“国民皆保険(皆医療保険)”とされ、医療費の自己負担は1~3割です。また、1か月(1日~末日)あたりの自己負担にも年齢と所得に応じた上限があり、上限を超えると申請により差額が支給される「高額療養費制度」があります。いくつかの条件を満たせば負担がさらに軽減されるしくみ(多数回該当、世帯合算、医療・介護合算)もあります。