先生のための金融教育セミナー
2015年度 先生のための金融教育セミナー(1月・福島)
3.実践発表・ワークショップ2
模擬授業で体験~レシートで金融教育~
千葉市教育委員会 山﨑 二朗 先生
- 進行・コメント:
- 国立教育政策研究所 大杉 昭英 初等中等教育研究部長
実践発表およびワークショップ
今日はワークショップの時間も含めて模擬授業という形で進めさせて頂きます。 私は四つの理由からレシートを使った授業をやってきています。一つ目は、レシートの中に、経済に関する内容が豊富に盛り込まれていることです。二つ目は、レシートは生徒たちの生活の中に身近にあるということです。今まで一度もレシートを見たことがないという子はいないはずです。学習が終わった後も追体験ができます。学習が教室の中だけに終わらず、その後も継続していくことができます。三つ目は、生徒たちへの定着レベルに応じて、レシートに書いてあることには意味があるということを理解させることができます。四つ目は、レシートを使った授業はあまり長時間の実践ができません。中学校3年生の場合、公民は週に4時間ですので、この4時間で完結できるくらいの時間数がよいのではないかと考えました。
授業内容を説明します。1時間目は、レシートについての生徒の興味や関心を引き出します。皆さんが普段よく目にするレシートはどのようなものでしょうか。何が書かれているか挙げてみてください。店名、住所、電話番号、担当者、販売日時、商品名、価格、消費税額など挙げていただいただけでも10以上あります。生徒に、教科書の中の今挙げた項目に関連するところに付箋をつけさせると、経済単元の中だけでもたくさんの付箋がつきます。1時間目は経済単元の学習に対する興味・関心を高める、導入の意味合いを持たせています。
2時間目は、レシートに記されている各項目の意味を考えます。なぜレシートに店名が書かれているのか、なぜその日の買い物で得られるポイント数が書かれているのかといったように「なぜ」というのをしっかり考えさせていきます。店名が書かれていなければ消費者は返品のときに困ってしまいます。返品の話から、消費者の権利や消費者基本法に触れるなど、教科書に書かれた内容につなげて学習していくことが狙いです。
3時間目です。手元にあるレシートを消費者の立場から改善するとしたら、どの部分をどう変えますか。その理由も含め、企業に提言するつもりで考えてみてください。私の授業では、実際に企業に提言していきます。紙質を良くする、文字が小さいので大きくする・・・他にどうでしょうか。生徒たちの理解を社会への提言という形で発信することで、その理解が正しいのか否か学ばせ、理解をより深めることを狙いとしています。 4時間目は、2枚のレシートを使います。同じ日に同じ店で買った品物なので値段が違います。その理由と思われるものをレシートの中から探してみてください。2枚のレシートで異なるのは「買った時間」です。閉店間際には値段が安くなることがありますね。このように、4時間目は、価格が決定される理由、需要と供給などについて考えます。
このようなレシートを題材とした授業は、家庭科や小学校の授業でも実践できるのではないかと考えています。
コメント
大杉昭英先生より、次のようなコメントがありました。
レシートという小さな物の中にたくさんのデータが入っていて、生産者にその情報が集約されます。こうしたビッグデータが存在するときに、われわれの社会では情報の非対称性が必ず起こってきます。この中で消費者主権を実現していくためには、情報の開示、情報の収集などを通して、より良い判断をしていくことが大切です。情報の非対称性は金融教育で大事にしたい概念です。それを山﨑先生の話からうかがい知ることができました。
例えば、インターネット通販で本を買うと、「この本を買った人は、こういう本も買っている」という情報が購入者に提供されます。これもビッグデータがあるからです。こうした情報に対して、より良い選択をする力を身に付けさせるということが、金融教育の大きな役割になっています。レシートは一つの例ですけれども、先生方もそういう目でいろいろな教材開発をされて、より良い判断ができる生活者を育てていただきたいと思います。