先生のための金融教育セミナー
2013年度 教員のための金融教育セミナー
2.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)
大学分科会
- 進行およびコメント:
- 聖徳大学 河野 公子 兼任講師
実践発表およびワークショップ(1)
「新入生を対象とした消費者教育出張講座」
宮城県金融広報アドバイザー 進藤 恵美 氏
実践発表
東北大学では、学生生活概論という講座(1コマ)を例年ゴールデンウィーク明け頃に実施しており、私はその講座に金融広報委員会から外部の講師として派遣されています。また、消費生活相談員や裁判所の調停委員としても活動しており、その活動の中で、知識があればこんなトラブルに遭わないだろうに、と思うことがままあります。講座では、こうした点を学生に伝えるともに、学生が社会の動きに興味を持ち、社会のルールである法律を知り、お金の動きから社会を見る目を養い、便利さとリスクのバランスに気づいてほしいと考えています。
学生に話をするときは、疑似体験できるように映像資料を活用したり、気づきを起こすために質問シートを活用したり新聞記事を取り上げたりしています。
まず、消費生活センターに寄せられる学生からの相談事例を紹介します。スマートフォンのワンクリック詐欺や、無料商法、サクラサイト商法などのトラブルが多いことを取り上げるとともに、通信販売における、商品が届かない、返品・交換ができない等の相談が多いこと、偽物が送られてきたといったトラブルでは、海外との取引が増加していること、そうしたケースは消費者庁越境消費者センターが管轄することを知らせています。
また、大学生をターゲットに、サークルやアルバイト、SNS、友人を装った勧誘があること、被災地ボランティアの誘いがカルト宗教の勧誘だったり、自己啓発セミナーへの誘いがマルチ商法だったりすることを示し、注意を促しています。
このほか、東北大学では学生の7~8割が一人暮らしをしていることから、自立した生活のための金銭管理をテーマとして取り上げています。特にクレジットカードについては、若者のカード破産問題が深刻であること、多くの場合にリボルビング払いが破産原因の一つになっていること、リボルビング払いは毎月の支払額が定額であるため生活設計上便利であると思われているが、金利が高く支払い総額が多いことを示すようにしています。また、リボルビング払いの金利や支払い総額はクレジット会社によって異なることも伝えています。
クレジットカードの支払いを延滞すると信用に傷がつくこと、信用社会である現代においては、名前を貸すなどの行為は慎み、自身の信用を育てることが重要であることを強調しています。賢い消費者になるためには、批判的精神を持って情報の真偽を確かめ、情報を取捨選択することが必要であること、また、将来には消費者の心を持つ企業人になってほしい、といったことも伝えています。もっとも、講義後の学生のアンケート結果をみると、「借金をしなければ安心して暮らせる」とか、「クレジットカードは作らない」といった、ある意味で安直な感想が出てきてしまいがちですので、それを受けて展開できない一度きりの外部講師の限界を感じます。ここからさらにどのように考えさせるのかが課題だと考えています。
ワークショップ
ワークショップでは、大学生向けに賢い消費者になるためのチェックシートを作成するとしたらどのような設問を加えたいか、参加者の皆さんそれぞれに検討して頂きました。また、学生や若者の行動、経済や情報に関連する新聞記事を参考にしながら、大学生に金融教育・消費者教育を行うとしたら、どの段階でどういったテーマで行うべきと考えるかを検討し、発表し合いました。
コメント
河野先生より、次のようなコメントがありました。
金融教育や消費者教育は、制度や法律が改められれば指導すべき内容や考え方も異なってくるという一面があり、判断が難しいと言えます。小・中・高等学校については、学習指導要領に基づいて指導が行われていますが、大学については、教員免許の科目以外では、各大学区々の扱いとなっています。大学における金融教育や消費者教育の内容については一概に言えませんが、小・中・高等学校の指導を踏まえた理念や具体的な事例などを取り上げて、変化に対応した自律した消費者としての教育をしていくことが重要だと考えます。
実践発表およびワークショップ(2)
「経済的見方考え方を育てる授業の作り方」
上智大学 新井 明 非常勤講師
実践発表
私は、現在、教員を目指す学生を対象に大学で社会科・公民科教育法という講座を担当しています。そこで感じることは、教育学部系の学生のなかにはお金や経済について抵抗感を持っている人が少なくないということです。教育には「一人も見捨てない」という考え方がある一方で、経済とは競争であって競争からこぼれる者もいる、という点が理由の一つかもしれません。また、社会科の教員には経済学部出身の方が意外に少なく、経済を教えることに苦手意識があるようです。生徒を、経済的な発想を持ち、仕組みや制度をきちんと理解したうえで判断できるように育てるには、教員自身が経済的な知識や考え方を身につけておく必要があると考えています。
今日は皆さんにお金の使い方に関するクイズを5題準備しました。友人にお金を貸してほしいと頼まれたらどうするか、あなたの周りに10万円を貸してくれそうな人はいるか、また貸してもよいと思える人はいるか、10万円で資格試験のテキストを購入したのに試験に落ちてしまったとしたら、2回目の試験に挑戦するかどうか・・・、こうしたクイズを導入として、ローンの保証人になることの危険性、直接金融と間接金融、機会費用等について考えさせる、生徒の経済的な見方考え方を育てる授業を展開していくことができます。
私は、大学で学ぶ経済学と、高校までで行われている経済教育とでは、経済学における仮説、演繹、実証、証明という理論の流れを教えるかどうかにおいて決定的な違いがあると考えています。ただし、違いがあっても両者は一体ですから、経済学の知見、方法を経済教育で積極的に活用すると魅力的な授業が構成できます。先ほどのクイズも、行動経済学からヒントを得たものですが、こうしたクイズを使うことで「えっ、ほんと?」と生徒に考えさせたり、気づかせたりするきっかけになると思います。
経済学の基本概念である、希少性、トレードオフ、機会費用、需要供給の法則等は、経済的見方考え方の基本となりますので、経済教育、金融教育を行う先生方にはぜひ把握して頂きたいところです。そのほかに、名目と実質、単利と複利、期待値等の知識も押さえて頂きたい。また、行動経済学やパーソナルファイナンス等にも注目して頂きたいと思います。実際に、経済教育、金融教育を行うにあたっては、授業時間数や準備時間の制約があると思います。そのため、外部の支援や教材を活用するという方法があります。たとえば、金融広報中央委員会の『これであなたもひとり立ち』という冊子は、高校生だけでなく、大学生にも十分役に立つ内容です。
ワークショップ
「アベノミクスを体験する」というテーマで、A・B二つのグループに紙幣を不均等に配布し、同一の品を扱った模擬オークションをA・Bグループと新井先生との間で行って、どういう違いが出るかを検証しました。参加者が持っているお金の量が異なるとオークションでつく価格も異なることを体験し、お金の量と物の値段の関係を考えて頂きました。
コメント
河野先生より、次のようなコメントがありました。 金融教育や消費者教育の範囲はとても広く、しかも、高等学校までに学んだことが、生涯にわたり変わらず有効であるという時代ではなくなってきています。そのような時代には、学習者はもちろんのこと、指導者は、常に新しい知識や学問の発展に留意して、何をどのように指導したらいいか、理論と実践の両面から学び続けることが求められていることを実感しました。また、同じ情報に接しても受け止め方は各人の価値観等によって異なるため、他者の意見を聞いたり、協議したりするグループでの話し合いなどの活動を行い、多面的にものごとを捉えることができる人間を育てることが大切だと感じました。